第35話

綾美と僕は剛から聞いたレッドツリーのアジトの場所を航空写真で確認した。


写真には、今は無人島であり、人気のない場所に広がる廃工場のような建物群が映っていた。


その静寂と孤立感が、一層の不安を掻き立てた。


綾美が写真を見つめながら、重い口調で問いかけた。


「ここを二人で攻め込んで勝算はあるの?」


レッドツリーに所属するヴァンパイアは百を超えていると推測されている。


数の上では圧倒的に不利だ。


僕は深い息をつき、真剣な眼差しで答えた。


「うん、もう少し準備さえ進めれば戦力的には十分やり合える。」


僕は冥界の王の力で既にヴァンパイアを八十体ほど召喚できるようになっていた。


しかし、その力が本当に十分なのか、自信が揺らぐ瞬間があった。


僕はさらに計画を説明した。


「綾美、もう一度シルバーウォールに行って、更に強力なヴァンパイアを取り込もうと思う。それが出来れば、レッドツリーを倒せるはずだ」


しかし、綾美の表情には深い懸念が浮かんでいた。


「そんなことしたら完全に協会はあんたを敵と見なして、ヴァンパイアハンターはあんたを捕まえにかかるわよ」


その言葉には重い現実が含まれていた。


僕の行動が協会との対立を引き起こし、仲間だった者たちを敵に回すことになるだろう。


それでも、白木さんの仇を討ち、レッドツリーを壊滅させるためには、このリスクを取るしかないのだと決意した。


僕たちの目の前には、避けて通れない険しい道が広がっていた。


僕たちの作戦は、シルバーウォールを襲撃し、そこにいるヴァンパイアたちを取り込み、さらにパワーアップした後に、レッドツリーのアジトに攻め込むというものだ。


時間は限られており、一刻の猶予も許されない。


シルバーウォールを襲撃した瞬間、ヴァンパイアハンター協会は僕らの敵になる。


それは避けられない現実だ。


しかし、既にヴァンパイアハンター協会の上層部にいる不死原本部長や野口部長はレッドツリーの味方である。


今更、協会が敵に回ったところで恐れるものはない。


僕は朱雀部長を早くレッドツリーから助けないと、さらにレッドツリーが厄介な存在になることを知っている。


朱雀部長の研究成果は、下手をするとレッドツリーに無限の兵隊を作る力を与えることになるのだ。


もし、それが実現すると、東京はもちろん、この日本、いや世界がレッドツリーに支配されることになる。


それは想像を絶する悪夢だ。家族も友人も、すべてが闇に包まれる未来が迫っている。


そうなると僕の妹をレッドツリーから奪還するなんて不可能になる。


妹を取り戻し、白木さんの仇を討つためには、今しかない。この一瞬の決断が未来を変える。


僕はシルバーウォールを一刻も早く襲撃し、レッドツリーを壊滅させないといけない。


心に深い決意を刻みながら、僕たちは最後の準備を進めていた。


この戦いの結果が全てを決める。


失敗は許されない、全てを賭けた戦いが始まろうとしていた。


僕と綾美はフルフェイスのヘルメットを被り、シルバーウォールに乗り込んだ。


ヘルメットのバイザー越しに見える景色は、冷たく無機質な光景が広がっていた。


シルバーウォールに侵入すると、警報がけたたましく鳴り響いた。


赤い警告灯が回転し、サイレンの音が空気を切り裂く。


僕は迷わず、牢屋の扉を次々に破壊し、中にいるヴァンパイアを引きずり出した。


その一体一体が、僕たちの戦力を強化するための糧となる。


そして、僕はそのヴァンパイアを次々と倒していった。


彼らの力を吸収し、自らの力をさらに増していく。


拳を振り下ろすたびに、僕の力は一段と強くなった。


綾美は僕の援護に回り、的確なサポートを続けた。


彼女の支援のおかげで、僕は無駄なく力を得ることができた。


僕は何体ものヴァンパイアを倒し、その力を自分のものに変えていった。


敵が現れるたびに、一つ一つの戦いが僕の力を確実に強化していった。


そして、ついにシルバーウォールに収容されている中で最強と言われるドラゴンと呼ばれるヴァンパイアの牢屋にたどり着いた。


重い鉄扉を開けると、中から巨大な影が現れた。


ドラゴンは右目を負傷しており、一つの目だけで僕らを睨んだ。


その目には憎悪と怒りが宿っており、圧倒的な威圧感が漂っていた。


僕は深呼吸し、心を落ち着けた。


ここで得られる力が、レッドツリーを倒すための最後の鍵となる。


この戦いが、僕たちの運命を決定づけることを確信していた。


僕は殺鬼刀を構え、目の前に立ちはだかるドラゴンに立ち向かった。


彼の圧倒的な存在感が僕の全身を震わせたが、恐れを感じている暇はなかった。


ドラゴンは圧倒的なスピードで僕からの攻撃をかわした。


彼の動きはまるで風のようで、影すら掴ませない。


僕はドラゴンがSSSランクであることを知っていたので、この動きに驚きはなかった。


彼がどれほどの実力を持つかは理解していた。


それでも、立ち向かう以外の選択肢はなかった。


かつてドラゴンと呼ばれたこのヴァンパイアは、不死原本部長がなんとか捕らえ、このシルバーウォールに収容したのだ。


その際、激しい戦闘でドラゴンは右目を負傷した。


今もその傷が彼の顔に深く刻まれている。


僕はドラゴンの右側から攻撃を仕掛ける決意を固めた。


彼の視界の死角を突くため、冥界の王の力でヴァンパイアを一気に二十体召喚した。


「やれ!」僕の声に応じて、召喚されたヴァンパイアたちは一斉にドラゴンに向かって攻撃を仕掛けた。


その一瞬、空気が張り詰め、激しい戦闘が繰り広げられた。


ドラゴンはその圧倒的な力で応戦し、召喚されたヴァンパイアたちの攻撃を次々とかわしていく。


しかし、僕は一瞬の隙を見逃さず、全力で攻撃の機会を狙い続けた。


この戦いが僕たちの運命を決定づける。


レッドツリーを倒し、妹を取り戻すためには、ここでドラゴンを打ち倒す必要があった。


ドラゴンに向かって、僕が召喚したヴァンパイアたちが一斉に襲いかかった。


その中でもバーストはSランクであり、僕は彼にかなりの信頼を置いていた。


しかし、ドラゴンは素手でバーストに攻撃を何度も繰り出し、最後には彼を吹き飛ばしてしまった。


バーストが後方に弾き飛ばされるのを見て、僕はドラゴンの圧倒的な強さに驚きを感じた。


それでも、僕は残りのヴァンパイアを操り、戦況を立て直そうとした。


ドラゴンの目には冷酷な笑みが浮かんでいた。


「早く殺鬼刀を変化させてみろ」と、ドラゴンは挑発的に言った。


僕はなぜドラゴンがそんなことを言うのか理解できなかった。


これまで一度も殺鬼刀を変化させたことがなく、どうすればいいのかも知らなかった。


その時、綾美の声が響いた。


「殺鬼刀の柄の頭を強く押しながら『変化』と叫んでみなさい!」


僕は綾美の言う通りに、「変化!」と叫んだ。


心の底から全力で、その一言に全てを込めた。


僕の殺鬼刀は、まるで龍のような形状に変化した。


刃が鋭く輝き、龍のうねりを思わせる曲線が力強さを感じさせた。


それを見たドラゴンは驚きとともに呟いた。


「兄者、やはりここにいたのか」


どうやら僕の殺鬼刀は、ドラゴンの兄から作られたものだということがわかった。


その事実に僕は一瞬驚いたが、今はそれを考えている暇はなかった。


僕は龍の形態になった殺鬼刀を操り、ドラゴンに攻撃を仕掛けた。


その一撃は風を切り裂き、ドラゴンの防御を貫いた。


ドラゴンはその攻撃を受け、かなりのダメージを負ったようだった。


ドラゴンは苦しそうに息をつきながらも、挑発的な声で言った。


「今すぐ楽にしてやるぞ、兄者」


そして雄叫びを上げながら反撃に転じてきた。


僕はその猛攻をなんとか受け流しつつ、致命的な一撃を決めるための準備を整えていた。


心を落ち着け、全ての集中力を一箇所に集めた。


これが最後の勝負となることを確信しながら、僕は全力で次の一撃に賭けた。


次の瞬間、不死原本部長が現れた。


彼の存在が空気を一変させ、その場の緊張感がさらに高まった。


僕は咄嗟に距離を取り、ドラゴンと不死原本部長から離れた。


危険を感じた綾美も同じように、一気に距離を取った。


不死原本部長は冷静な目でドラゴンを見据え、「まずはお前からだ」と言い、白く輝く殺鬼刀で攻撃を仕掛けた。


ドラゴンは驚愕とともに「くそ、不死原だと!」と叫び、攻撃を避けようとしたが、既に遅かった。


不死原本部長の一撃は正確にドラゴンに向かって放たれ、その刃が彼の防御を貫いた。


その光景を目の当たりにしながら、僕は一瞬の隙を見逃さず、次の行動に備えた。


状況は予測不能であり、ここからどう動くかが全てを決定づける。


僕と綾美はここで不死原本部長と戦うと負けると感じたが、ドラゴンの力を奪わなければ今後不死原本部長に勝つ見込みもないと悟った。


この一瞬が、全てを決定づける分岐点だった。


僕は決意を込めて叫んだ。


「ドラゴン、僕と手を組んでくれ!」


ドラゴンは驚きと怒りの混じった声で返した。


「何を馬鹿なことを言っている!」


それでも僕は引き下がらなかった。


「ドラゴン!兄と一緒に不死原本部長を倒す最後の機会だ!」


僕は殺鬼刀を操り、その力を見せつけながら、ドラゴンを鼓舞した。


龍の形をした刃が光を反射し、僕の決意を象徴していた。


ドラゴンは一瞬考え込んだ後、低く呟いた。


「兄者も同じ気持ちなのか……」


その言葉に僕は心の中で頷いた。


ドラゴンの兄が作り上げたこの殺鬼刀が、今まさに弟を導こうとしているのだ。


ドラゴンは深く息をつき、決意の表情で言った。


「わかった。ここは手を組もう」


その言葉を聞いた瞬間、僕たちの連携が生まれた。


不死原本部長との戦いに向けて、僕とドラゴンは共に立ち向かう準備が整ったのだった。

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