第34話
綾美の前に立ちはだかる不死原本部長。
その冷酷な眼差しが彼女を捉え、まるで獲物を狙う猛禽のようだった。
突然、朱雀部長が一歩前に出て言った。
「不死原本部長、私はあなたについていきます」
その言葉に僕は驚いた。
朱雀部長は自ら不死原本部長についていくことで、僕と綾美を救おうとしているのだと悟った。
不死原本部長は朱雀部長の決断に満足そうに頷いた。
「朱雀部長、あなたは物分かり良くて助かります」
不死原本部長は殺鬼刀を納め、野口部長と朱雀部長を連れて車に乗り込んだ。
不死原本部長は車のドアが閉まる前にこちらを見て言った。
「この件のことは誰にも言わないように。本部長命令だ」
僕たちは何も言えず立ち尽くした。
状況の急転に言葉を失っていた。
不死原本部長はさらに冷淡に付け加えた。
「白木の遺体はそのままにしておけばいい。回収がそのうち来るはずだ」
その言葉を残し、不死原本部長たちは車を走らせ、その場を立ち去った。
僕らはただその場に立ち尽くし、事態の収束を見守るしかなかった。
白木さんの犠牲が、胸に重くのしかかった。
突如、空からパンプキンマンが現れた。
その巨大な影が僕たちの上に広がり、全身が凍りつくような恐怖に包まれた。
僕たちはパンプキンマンの登場に絶望した。
彼の存在感は圧倒的で、過去の戦いの記憶が甦り、逃げ場のない恐怖が心を締め付けた。
パンプキンマンは不気味な笑い声を上げながら言った。
「ははは、お前らと戦う気はないから安心しろ」
次の瞬間、パンプキンマンは巨大な触手を伸ばし、白木さんの身体を掴んだ。
そして、掴んだ白木さんの遺体を口の中に放り込んだ。
「ごくっ!」
パンプキンマンは白木さんを飲み込んだ。
「貴様!!」
僕は怒りに燃え、全力でパンプキンマンに斬りかかった。
僕の剣は風を切り裂き、パンプキンマンの体に向かって一直線に振り下ろされた。
怒りと絶望が一つになり、その一撃に全てを込めた。
パンプキンマンは僕の攻撃を軽々と受け流し、上空へ飛び上がった。
彼の飛行能力を目の当たりにし、改めてその厄介さを痛感した。
パンプキンマンは僕らを嘲笑うかのように上空を旋回し、どこかへ飛び去ってしまった。
その姿が消えるまで、僕たちは無力感に打ちひしがれていた。
綾美が「白木さん……」と呟き、膝をついてしまった。
その声には深い悲しみが込められていた。
僕は「くそっ!」と怒りを抑えきれず、地面を力強く殴った。
怒りと無力感が入り混じり、どうしようもない感情が胸の中で渦巻いていた。
僕と綾美はゆっくり駅に向かって歩き始めた。
夜風が冷たく、沈黙が重くのしかかる。
足取りは重く、まるで全ての希望を失ったかのようだった。
白木さんの死は僕らにとってとても悲しく悔しい出来事となった。
彼の笑顔が頭に浮かび、その度に胸が締め付けられるように痛んだ。
彼の声や笑い声が耳に残り、その度に涙が溢れそうになった。
綾美はずっと泣きながら歩いていた。
涙が止まることなく頬を伝い、彼女の肩が小さく震えているのが見えた。
その姿に僕もまた、言いようのない悲しみに襲われた。
僕は「必ず、朱雀部長を助けて白木さんの仇をとる」と綾美に言った。
声は震え、決意を込めようとするも、悲しみがそれを覆い隠してしまう。
そう、僕さえもっと強ければ白木さんを助けることも出来たはずだ。
僕がもっと力を持っていれば、こんな悲劇を防げたかもしれない。無力感が胸に重くのしかかり、息をするのも辛い。
そう、あの時、パンプキンマンに僕が勝てれば妹も失わずに済んだはずだ。
僕は自分の能力不足によってまたしても大切なものを失ったんだ。
僕は何度も何度も自分のことを責めた。
弱さを痛感し、無力さに苛まれた。白木さんの顔が浮かび上がり、その度に心が引き裂かれるようだった。
それでも、前に進むしかないと心に誓った。悲しみと後悔の中で、希望の灯火を見失わないように、強く自分を戒め続けた。
その後、僕はレッドツリーを倒すためにさらに強くなる必要があった。
白木さんの犠牲を無駄にしないためにも、決意を新たにした。
その後、僕は夜な夜なヴァンパイア狩りを行い、冥界の王としての力をさらに伸ばしていった。
闇夜の中で、僕は幾度もヴァンパイアと対峙し、その度に力を増していった。
彼らの力を吸収し、自らの技術と力を磨き続けた。
一方、綾美もまた己の道を歩んでいた。
彼女はかつてシルバーウォールでの戦いで倒した女ヴァンパイア「スパイダー」のVセルを使って研究チームに新たな殺鬼刀を作ってもらった。
その新たな武器を使いこなすために、彼女はひたすら鍛錬を続けた。
毎日毎晩、彼女の汗と涙がその刃を研ぎ澄ませていった。
僕と綾美は白木さんがいなくなった後、ひたすら復讐のために自らを鍛えることに専念した。
彼の死が僕たちに与えた傷は深く、その傷を埋めるためにはただ一つ、強くなるしかなかった。
昼も夜も、休むことなく鍛錬を重ね、心も体も鋼のように鍛え上げていった。
白木さんの仇を討つため、そしてレッドツリーを倒すために、そして、妹を助ける為に僕たちは己の限界を超える決意を固めていた。
復讐の炎は僕たちの心に燃え続け、その炎が僕たちを突き動かしていた。
ある時、僕と綾美が食堂でご飯を食べている時、剛が近づいてきた。
彼の表情には悲しみと悔しさが滲んでいた。
剛も僕らと同じく白木さんの死を悲しんでいたが、それが不死原本部長によるものとは知らなかった。
彼はその真実を知らず、レッドツリーのヴァンパイアの仕業だと思っていた。
剛は「白木さん、レッドツリーのヴァンパイアにやられたみたいだな。金子さんが言ってた」と僕らに言った。
僕らは静かに頷いた。
真実を明かすことができない重い沈黙が、食堂の空気をさらに重くした。
剛は少し興奮した様子で続けた。
「レッドツリーのアジトの特定が進んでいて、おおよその場所がわかったみたいなんだが、知りたいよな?」
僕らは目を合わせ、静かに再び頷いた。
その情報は、僕らの復讐心をさらに燃え上がらせるものだった。
白木さんの無念を晴らすために、そしてレッドツリーを倒すために、この情報が必要だった。
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