第33話
また一台の車が僕らの前に現れ、緊張が一層高まった。
その車から白木さんが降りてきた。彼は野口部長と不死原本部長を見て警戒しつつ、僕らの近くにやってきた。
白木さんが僕に向かって、「俊也、今回ばかりは相手が悪過ぎる」と言った。
その言葉に、僕は「まさか」と思ったが、その白木さんの発言から、不死原本部長もレッドツリーの味方ではないかと疑念が湧いた。
綾美が「嘘でしょ」と言いながら後退りした。
彼女の表情には信じられないという感情が溢れていた。
朱雀部長の表情もみるみる固くなっていった。
彼は白木さんを見つめ、何かを確認しようとしているようだった。
不死原本部長は冷静な表情で殺鬼刀を取り出し、ゆっくりと僕らの方に近づく。
白木さんは、「俊也、戦うな。勝てるはずがない」と僕を止めようとする。
不死原本部長は高速で僕に向かって動き出す。
「くそっ!」
僕の触手の一本が不死原本部長の殺鬼刀によって切断された。
僕は体勢を整える間もなく、不死原本部長からの攻撃を受けた。
僕は殺鬼刀と残された触手で防御しながら応戦するが、激しい攻防の末、後退する。
不死原本部長の圧倒的な力に僕はどうして良いかわからなくなった。
彼の存在感は圧倒的で、全身が硬直するような緊張感に包まれた。
「俊也、戦うな!一旦、引け!」白木さんの声が遠くに聞こえたが、その言葉を理解する余裕もなかった。
不死原本部長はゆっくりと一歩一歩僕に近づき、その目には冷静な光が宿っていた。
そして、彼は突然、驚くべき速度で僕に向かって攻撃を仕掛けてきた。
その動きは風のように速く、僕の反応が追いつくかどうかのギリギリだった。
僕はなんとかその攻撃を防ぐことができたが、その一撃は非常に重く、腕に響いた。
彼の力の一端を垣間見た僕は、このままでは勝てないと悟った。
後退しながら間合いを取り、心を落ち着けて冥界の王の力を呼び起こす。
「来い!」僕の声に応じて、かつて倒したヴァンパイアたちが影の中から現れ、不死原本部長に向かって襲いかかる。
大量のヴァンパイアが一斉に攻撃を仕掛けるが、不死原本部長は冷静なままで、流れるような動きで次々とヴァンパイアを切り裂いていく。
彼の動きは美しいほどに洗練されており、圧倒的な力と技術を見せつけていた。
「こんな……ことが……」僕の召喚したヴァンパイアたちは次々と倒され、地面に消えていった。
彼の力の前に、僕の全ての努力が無力に思えた。
「これが君の力か?」
不死原本部長は微笑みを浮かべながら言った。
その冷たい目には、全く怯むことのない自信が溢れていた。
僕はもう一度立ち上がり、震える手で武器を握りしめた。
まだ終わりではない。
僕は再び立ち向かう決意を固めた。
僕がこの不死原本部長を倒すことが出来なければ、皆、やられてしまう。
この瞬間の重圧が全身にのしかかる。
しかし、ここで僕が立ち向かわなければ、誰も生き残れない。
「僕が戦うしかないんだ」
そう、ここにいる中で僕が一番ランクが高く、最も強いはずた。
怖くても僕がやらないとダメなんだ……
自分自身に言い聞かせるように、強く心に決めた。
白木さんが焦った様子で叫んだ。
「俊也、早く逃げるんだ!」
しかし、僕は首を振った。
「いや、皆さんが先に逃げてください。かなり強敵ですが時間ぐらいなら稼げると思います」
不死原本部長は朱雀部長の研究成果を奪おうとしている。
その光景を見て、僕はなんとかそれを防ぎたいと思った。
もし彼に研究成果を奪われれば、さらなる危険が生まれてしまう。
「上司が部下を残して逃げれるはずないだろ!俺も戦う」
白木さんの決意がこもった声が響いた。
綾美も一歩前に出て、強い意志を込めた目で僕を見た。
「私も戦うわ」
それぞれが立ち向かう覚悟を決めたその瞬間、僕たちは一つのチームとして、不死原本部長に立ち向かう決意を新たにした。
白木さんと綾美は一斉に殺鬼刀を解放させた。
白木さんの殺鬼刀はまるで大蛇のようにうねりながら、不死原本部長に向かっていく。
その動きは素早く、鋭い。
同時に、綾美は大量の針を空中に放ち、不死原本部長への攻撃を援護する。
彼女の針は光を反射して輝きながら、不死原本部長に向かって飛んでいった。
しかし、不死原本部長は全ての攻撃を華麗に受け流した。
彼の動きは流れるようで、まるで舞踏を見ているかのようだった。
僕も一気に不死原本部長に向かって突進したが、全く攻撃を決める隙がない。
彼の防御は完璧で、どの方向から攻めても無駄だった。
「くそ……」
僕は歯を食いしばりながら、どうにかしてこの状況を打破しようと必死に考えた。
しかし、不死原本部長の圧倒的な力の前に、僕たちの攻撃は無力に思えた。
それでも、僕たちは諦めなかった。
チームとして協力し、何とかこの強敵を打ち破るために全力を尽くすしかなかった。
不死原本部長が冷静な声で言った。
「すまないが、あまり時間がない。白木、邪魔はやめてくれないか?」
次の瞬間、不死原本部長の刀が白木さんの腹を引き裂いた…
そして、大量の血が白木さんの腹から飛び散った。
彼の動きは見えないほど速く、一瞬の出来事だった。
「白木さぁぁぁん!!」
綾美が悲痛な声で叫んだ。
僕は慌てて白木さんの元へ駆け寄る。
彼の身体は無抵抗に地面に横たわり、目は閉じられていた。
「そんな……馬鹿な……」
僕は震える声で言いながら、白木さんが呼吸をしていないことを確認した。
心臓が一瞬、凍りつくような感覚に襲われた。
不死原本部長が冷淡な表情で言った。
「邪魔をする者は排除するのみだ。それが誰であろうと」
僕はすぐに危険を感じ取り、「綾美、逃げろ!」と叫んだ。
しかし、次の瞬間、不死原本部長は高速で移動し、綾美の目の前に立っていた。
その動きはあまりにも速く、僕たちは完全に出し抜かれていた。
綾美の表情には驚愕と恐怖が浮かんでいた。
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