第32話

綾美が電話を切った直後、彼女は断固とした態度で「裏切り者は野口部長よ」と言い、手にしていた殺鬼刀を野口部長に向けた。


その瞬間、空気が一層緊張に包まれた。


野口部長は、綾美の告発に対して「おいおい、待ってくれよ」と笑いながら言ったが、その笑顔には明らかに緊張が見え隠れしていた。


綾美は僕に向かって「やるわよ」と言い、迷うことなく野口部長に斬りかかった。


僕は一瞬、何をすべきか迷ったが、綾美の決意を見て、彼女に続くことを決めた。


僕も殺鬼刀を構え、野口部長に向かって一歩踏み出した。


野口部長は「くそっ、思ったよりも調べが早いな」と言いながら、綾美の攻撃を巧みに受け流し、僕の刀を受け止めた。


彼の動きは驚くほど機敏で、僕たちの攻撃を容易くかわしていた。


戦いが激化する中、朱雀部長は少し離れた場所から事態を見守っていた。


彼の表情は複雑で、何を考えているのか読み取ることができなかった。


綾美と僕は連携して野口部長を圧倒しようとしたが、彼はヴァンパイアハンター協会の部長としての実力を見せつけ、容易には屈しなかった。



野口部長は綾美と僕の攻撃をかわしながら、「白木から聞いたのか?」と綾美に向かって聞いた。


綾美は冷静に「そうよ。白木さんがあんたがレッドツリーと繋がっていると言っていたわ」と答えた。


野口部長は笑いながら、「白木のやつ、油断ならないな」と言い、その場で殺鬼刀を解放し、力を引き出し始めた。


彼の周りには光が集まり、鎧を身につけた姿に変わった。


これによって野口部長の戦闘能力は跳ね上がるが、仮に彼が本気を出したところでAランクの実力のはずだ。


冥界の王の力を引き継ぐSランクの僕には敵うはずはない。


僕は心の中で、いざとなれば綾美と朱雀部長を守ることができると確信していた。


野口部長は僕に向かって、「俊也君、君は我々の仲間になるべき存在だ」と言った。


彼も僕に敵わないことをわかっているようだった。


僕は怒りを込めて、「何故、妹を拐ったレッドツリーの仲間にならないといけないんだ?」と言った。


野口部長は笑いながら、「君がこちらに来てくれるのなら、妹は解放するように上に頼んでやってもいいぞ」と言った。


その言葉に、僕はさらに怒りが湧き上がった。


妹を人質に取るような卑劣な手段を使う者たちと、どうして僕が手を組まなければならないのか。


僕は綾美と朱雀部長を守りながら、野口部長との戦いを続ける決意を固めた。


僕は野口部長の提案を断固として拒否した。


「お前らの仲間にはならない」と言い切った。


野口部長は一瞬表情を曇らせ、「そうか、それは残念だ。君はここで妹どころか全てを失うぞ」と言い、刀を構えた。


僕は怒りと決意を込めて、「やれるものならやってみろ!」と叫び、背中から大量のVセルを放出した。


その力で、かつて倒したヴァンパイアたちを召喚した。その中にはシルバーウォールの戦いで活躍したSランクヴァンパイアのバーストも含まれていた。


僕は綾美と朱雀部長に向かって、「僕が一気に片付ける」と言い、戦闘体制に入った。


綾美と朱雀部長は僕の決意を感じ取り、戦いの準備を整えた。


僕がヴァンパイアたちに「やれ!」と命じると、彼らは一斉に野口部長に向かって突進した。


野口部長は僕たちの攻撃に対して防御の構えを取りながらも、明らかに圧倒されていた。


「くそっ、厄介な能力だ」


野口部長はかろうじて攻撃を防いでいる様子だった。


戦場は一瞬にして混沌とした状況になり、ヴァンパイアたちの激しい攻撃が野口部長を襲った。


僕はその隙をついて、さらに強力な攻撃を加える準備をした。


この戦いが、僕たちにとってどのような結果をもたらすのか、その時の僕たちはまだ知る由もなかったが、僕は何があっても妹を救い出すという一心で戦い続けた。


戦いは激しさを増していた。


バーストが野口部長へ炎を浴びせると、野口部長は苦しみながら逃げ、さらに他のヴァンパイアたちが彼に襲いかかった。


僕もヴァンパイアと連携し、殺鬼刀で野口部長に斬りかかる。


僕の刃は鎧を破壊し、野口部長の腹を引き裂いた。


「ぐはっ」


野口部長は腹から大量に出血する。


僕の一撃が彼にダメージを与えたようだった。


しかし、野口部長は笑いながら、「もう一度聞く。本当に我々の仲間にならなくて良いのだな」と言った。


その言葉に、僕は圧倒的に不利な野口部長が何を馬鹿なことを言っているんだと思った。


もしかして野口部長には何か秘策があるのか?


その考えに、僕は少し不安になったが、彼が何かを仕掛ける前に事を終わらせるべきだと判断し、さらに攻撃を続けることにした。


僕は再び殺鬼刀を振り上げ、野口部長に向かって全力で斬り下ろした。


野口部長の身につけていた鎧は完全に破壊された。


周囲のヴァンパイアたちも彼に追撃を加え、野口部長を完全に追い詰める。


この戦いがどのような結末を迎えるのか、その時の僕たちはまだ知る由もなかったが、僕は自分の信念を貫くことを決意していた。


僕らが激しい戦闘を繰り広げている中、突然、一台の車が近くに停まった。


その車から、若いのに白髪の男が降りてきた。


その姿を見た瞬間、綾美と朱雀部長が驚いた声で「まさか不死原本部長?」と言った。


どうやら、白髪の男は不死原本部長と言い、ヴァンパイアハンター協会最強であり、僕と同じ吸血人が現れたのだ。


その事実に、僕も驚きを隠せなかった。


不死原本部長の存在は伝説のように語られていたが、まさかここで彼に会うとは思ってもみなかった。


朱雀部長は、不死原本部長に向かって「野口が協会を裏切りました」と報告した。


その言葉に、野口部長は吐血しながら「本部長は全てご存知だ……」と言った。


その言葉に、綾美と朱雀部長の表情が固まった。


不死原本部長は静かに野口部長を見つめ、そして僕たちに視線を移した。彼の目はとても冷たく、まるで感情がないように見えた。


僕たちは、不死原本部長がこの状況をどう受け止め、どう行動するのか、息を呑んで見守った。


この出来事が、ヴァンパイアハンター協会にどのような影響を与えるのか、その時の僕たちはまだ知る由もなかった。


しかし、一つ確かなことは、この出会いが僕たちの運命を大きく変えることになるだろうということだった。

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