第30話
綾美と僕は朱雀部長が働く研究所の近くのカフェで待ち合わせていた。
僕は約束の時間よりも少し早く着いたので、コーヒーを頼み、手にした本を読みながら待っていた。
カフェのドアが開く音とともに、黒縁メガネに真っ黒な髪のロングヘアの女性が入ってきた。
一瞬、誰だかわからなかったが、その女性がこちらに向かってくると、それが綾美だと気づいた。彼女の変身ぶりに、僕は目を丸くした。
「ごめん、お待たせ」と綾美は言い、店員にアイスティーを頼んだ。
彼女の声を聞いて、やっと本当に綾美だと確信した。
「うん、全然大丈夫だよ」と僕は答え、コーヒーを一口すすった。
綾美の新しい姿を見て、僕は思わず心の中でつぶやいた。
彼女は実はギャルよりも清楚系の方が似合っているんじゃないかと。
綾美はアイスティーを受け取りながら、僕の視線に気づいたようだった。
「どうかしら、この格好?」と彼女は少し照れくさそうに尋ねた。
「似合ってるよ」と僕は素直に答えた。
綾美は少し照れ笑いを浮かべながら、僕の隣に座った。
僕たちは朱雀部長の尾行計画について最終確認をするために、このカフェで待ち合わせたのだ。
しかし、綾美の変装を見ていると、少し心が軽くなった。
僕たちの前には重大な任務が待っている。
だが、その一瞬だけは、綾美の変わりように心を奪われていた。
カフェの窓際の席に座り、僕たちは朱雀部長が働く研究所の出入りをじっと観察していた。
僕は綾美に向かって、「ここなら研究所の出入りが把握できるね」と言った。
綾美はコーヒーカップを手にしながら、「そうね。早く出て来てくれるといいんだけど」と返した。
しかし、日が沈み、時計の針が20時を過ぎても朱雀部長の姿は見えなかった。
「朱雀部長、働き過ぎじゃない?」と僕が言うと、綾美は少し首を傾げながら、「前に白木さんは研究部門は比較的ホワイトだと言っていたけど、そうでもないかしら?」と疑問を投げかけた。
僕は既にコーヒーに加えてサンドイッチも食べ終えていたし、綾美もモンブランを楽しんでいた。
綾美がふと笑いながら、「これじゃ、私たちただコスプレしてお茶しただけになっちゃうわね」と言ったので、僕も彼女に同意し、ニッコリ笑った。
そんな軽い会話を交わしていると、ついに研究所から朱雀部長らしき人物が出てくるのが確認できた。
彼は黒色のアタッシュケースを持ち、駅の方に向かって歩き出した。
僕と綾美は顔を見合わせ、急いで会計を済ませた。
カフェを出ると、僕たちは朱雀部長の後を追い始めた。
彼がどこへ向かっているのか、そしてそのアタッシュケースの中に何が入っているのか、その謎を解明するために、僕たちは慎重に距離を保ちながら尾行を続けた。
研究所から駅までの道は、日が暮れると人通りも少なくなり、かなり暗い道になってしまう。
その暗闇が僕たちの味方をしてくれて、朱雀部長に気づかれずに尾行できそうだった。
僕は綾美に向かって、「このまま普通に家に帰るのかなぁ」と言った。
綾美は考え込むようにして、「どうなんだろう?朱雀部長って確か独身だったはずだから、どこかで晩御飯とか食べて帰るかもよ」と答えた。
そんなことを言いながら、僕らは慎重に尾行を続けた。
朱雀部長は駅に向かう途中、ある小さい路地に入って行った。
その路地の先には古びたラーメン屋があり、朱雀部長はそこに入って行った。
綾美の読みは当たったのだ。
僕らはラーメン屋の近くの電柱の陰で隠れ、朱雀部長が出てくるのを待った。
この場所からなら、彼が店を出る瞬間を見逃すことはないだろう。
「ねえ、俊也。朱雀部長が何を注文するか見える?」綾美が小声で尋ねた。
「うーん、この位置からじゃ厳しいね。でも、ラーメン屋だし、ラーメンかな?」僕は推測しながら答えた。
綾美はクスッと笑い、「ラーメン屋でラーメン以外何を食べるのよ」と言いながら、僕の軽い冗談に笑った。
僕たちは朱雀部長が店を出るのをじっと待ち続けた。
この尾行が何をもたらすのか、その結果がどうなるのか、僕たちにはまだわからない。
しかし、朱雀部長の行動一つ一つが、この謎を解く手がかりになるはずだ。
それだけは確かだった。
朱雀部長は食べるのが早いらしく、比較的すぐにラーメン屋から出て来た。
僕らは彼を確認すると、ある一定の距離を保ちながら尾行を続けた。
夜の街は静かで、僕たちの足音さえも響き渡るようだった。
突然、「グォー」という雄叫びが響き渡った。
朱雀部長の目の前に、一体のヴァンパイアが現れたのだ。
僕は綾美に向かって、「まずい、朱雀部長を助けないと」と言った。
綾美と僕は殺鬼刀を取り出し、戦闘準備に入った。
綾美が「尾行していたのがバレるけどこれは仕方ないわね」と言い、一歩踏み出そうとしたその時、朱雀部長は黒のアタッシュケースをヴァンパイアに向けて投げた。
「ちょうどいい。テストさせてもらうぞ」と朱雀部長は言い、何かスイッチを押した。
すると、アタッシュケースが開き、黒い影が現れ、それは人形になった。まるで僕が冥界の王の力でヴァンパイアを召喚するようだった。
綾美が「俊也がシルバーウォールの戦いで召喚した奴らと似ている」と言った。
僕は綾美に同意し、何故朱雀部長のアタッシュケースからあのような物が現れるのか不思議だった。
朱雀部長の人形はヴァンパイアに向かって動き出し、見る間にヴァンパイアを圧倒していた。
僕たちはその場に立ち尽くし、ただ驚くばかりだった。
朱雀部長は何者なのか、そして彼が持つアタッシュケースの正体は何なのか。
僕たちの前には新たな謎が立ちはだかっていた。
朱雀部長が呼び出した黒い人形は、驚異的な速さと力で目の前のヴァンパイアの腹を何度も殴り、瞬く間に戦闘不能にまで追い込んだ。
僕と綾美はいざというときは朱雀部長を助けるように構えていたが、その必要はないことを悟った。
朱雀部長は黒い人形の活躍を見て、「素晴らしい。成功だ」と言い、満足した表情を見せた。
しかし、その安堵も束の間、「グォー」という雄叫びが再び響き渡った。
また新たなヴァンパイアが現れたのだ。
一体、二体と数を増やし、やがて十体以上のヴァンパイアが朱雀部長を取り囲んだ。
朱雀部長は「流石にこれはマズイな」と呟いた。
ヴァンパイアたちが一斉に朱雀部長を襲おうと迫ったその時、黒い人形が再び動き出した。
まるで風を切るような高速でヴァンパイアたちに立ち向かっていった。
その動きはあまりにも素早く、ヴァンパイアたちは反応しきれてなかった。
綾美は「これは……一体何なの?」と驚愕の声を上げた。
僕も同じ感情を抱きながら、黒い人形の戦いぶりに目を奪われた。
朱雀部長が何者なのか、そして彼が何を持っているのか、その全貌はまだ見えてこない。
しかし、一つ確かなことは、朱雀部長が単なる研究者ではないということだった。
僕と綾美は、朱雀部長とその黒い人形の戦いを見守りながら、次の行動を考え始めた。
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