第29話

朱雀部長が「まあ、座りたまえ」と言い、実験室の片隅にある小さな棚へと歩いていった。


インスタントコーヒーの袋を開け、コップに湯を注ぎ始める。


その間、僕と白木さんは実験室によくある丸い椅子に座った。


コーヒーの香りが室内に広がり始めると、朱雀部長は僕らにコーヒーを渡し、自分も椅子に座った。


彼はインスタントコーヒーを一口飲み、話を始めた。


「実は、私たちは現在30歳未満のこの日本国民の遺伝子データベースを所有している」


僕は朱雀部長が何を話そうとしているのか、黙って考えていた。


白木さんが疑問を口にした。


「そんなこと許されるんですか?」


朱雀部長はコーヒーをすすると、「ああ、倫理上、許されないだろうな。しかし、我々の研究を進める上で必要であったため、政府と協力し、陰で事を進めてきたんだ」と答えた。


そして、朱雀部長は続けた。「ヴァンパイアを倒すためには殺鬼刀という武器だけでは不十分だ。しかし、我々は偶然にも吸血人というヴァンパイアの力を操ることのできる人間が存在することを発見した。吸血人の力があればヴァンパイアに十分に対抗できる」


白木さんは「そこで吸血人の素質を持つものを見つけるために、国民の遺伝子データを集めたわけですか?」と聞いた。


朱雀部長は「ああ、その通りだ。そして、我々は神池俊也と神池紗夜を見つけた」と言った。


僕は驚きを隠せず、「僕らが遺伝子上、吸血人の素質があったというわけですか?」と尋ねた。


朱雀部長は深く頷いた。


その瞬間、僕の中で何かが変わったような気がした。


僕と妹が、ただの人間ではなく、特別な力を持つ存在だったという事実。


そして、その力がレッドツリーとの戦いにおいて、重要な鍵を握っているということ。


朱雀部長の話は、僕の運命を大きく変えるものだった。


しかし、それと同時に、僕には新たな使命が与えられたような気がした。


僕は、この力を使って、人々を守り、レッドツリーの脅威からこの世界を救うために戦う覚悟を決めたのだった。


朱雀部長はコーヒーカップを手にしながら、重要な事実を明かした。


「君の妹さんがレッドツリーのパンプキンマンに拐われたのも、妹さんが吸血人の素質を持つ者だったからかも知れない」


その言葉に、僕は衝撃を受けた。


妹が危険にさらされたのは、彼女が僕と同じく特別な力を持っていたからだとは……


「何故、レッドツリーは僕らが吸血人の素質を持つ者だと気づいたんですか?」


僕は朱雀部長に尋ねた。


朱雀部長は少し悩むようにしてから答えた。


「それが奴らがどのような方法でそれに気づいたのかわからないんだ。もしかしたら、ヴァンパイアハンター協会の中にレッドツリーと繋がっている者がいるのかもしれない」


僕はその言葉を聞いて、朱雀部長がこのようなことを言うということは、少なくとも朱雀部長はレッドツリーと繋がっているわけではないのではないかと思った。


しかし、確信は持てずにいた。


朱雀部長は僕の意図を見透かしたように言った。


「まあ、君からしたら私が一番怪しいと感じるだろうけど」


朱雀部長はゆっくりコーヒーを飲んだ。


その言葉に、僕は少し戸惑った。


確かに、朱雀部長がレッドツリーと何らかの関係があるのではないかと疑っていた。


しかし、彼がこうも率直に話してくれると、逆に信じがたい気持ちも湧いてきた。


朱雀部長はコーヒーをもう一口飲んだ後、続けた。


「我々の目的は、レッドツリーの野望を阻止し、この世界を守ることだ。君と君の妹さんの力が、その鍵を握っている。だからこそ、我々は君たちを守り、力を正しく使ってもらいたいんだ」


僕は朱雀部長の言葉を聞き、深く考え込んだ。もし、ヴァンパイアハンター協会の中にレッドツリーと繋がっている者がいるとしたら、僕たちはどう対処すればいいのだろう。


そして、僕と妹が持つ力をどのように使えば、レッドツリーの脅威からこの世界を守れるのだろう。


僕はこれからの戦いに向けて準備を始めることを決意した。


そう、僕たちの戦いは、まだ終わっていない。


始まったばかりだったのだ。


ヴァンパイアハンター協会の本部に戻ると、僕はすぐに綾美を探し出した。


彼女と二人きりになれる静かな場所を見つけ、朱雀部長との話を全て話した。


綾美は僕の話を聞いて、目を丸くした。


「この協会の中にレッドツリーと繋がる人間がいる可能性があるなんて……」


彼女は明らかに驚いていた。


そして、僕の妹がパンプキンマンに拐われたことが偶然ではなかったと知り、さらに驚きを隠せない様子だった。


「私、紗夜ちゃんがパンプキンマンに拐われたのは偶然だと思っていたわ。でも、そうじゃないなんて……」


綾美は少し考え込んだ後、疑問を口にした。


「でも、朱雀部長がこの件を知っていながら、何も調べてこなかったのも怪しいわね。彼もレッドツリーと何かしらの関わりがあるのかしら?」


僕もその可能性を否定できなかった。


朱雀部長が僕たちに話したことは、確かに僕たちにとって重要な情報だった。


しかし、彼が何も行動を起こしていないことが、逆に疑念を呼び起こしていた。


「そうだね……じゃあ、どうする?」


綾美は決意の表情を浮かべた。


「まずは朱雀部長を尾行し、怪しい行動がないか調べるわ。もし、彼がレッドツリーと何かしらの関わりがあるなら、それを突き止めないと」


僕は綾美の提案に同意した。


僕たちは朱雀部長を密かに尾行し、彼の行動を監視することにした。


もし朱雀部長がレッドツリーと繋がっているとしたら、それは協会にとって大きな脅威だ。


僕たちは協力して、真実を明らかにする決意を固めたのだった。


僕と綾美は、明日の夜、仕事終わりの朱雀部長を尾行することに決めた。


計画を練る中で、綾美が突然提案してきた。


「俊也、明日は高校時代の制服を用意して。変装することで、尾行に気づかれないようにしよう」


最初はその提案に驚いたが、綾美の考える策はいつも僕たちをピンチから救ってくれる。


僕はうなずき、家にしまってある高校時代の制服を引っ張り出すことにした。


「私は今からメガネと黒髪のウィッグを用意するわ。真面目な高校生に変装するつもりよ」


普段の綾美は、明るい金髪に派手なメイクが特徴のギャルスタイル。


その彼女が真面目な高校生に変装するというのだから、想像するだけで少し笑ってしまう。


しかし、これなら確かに朱雀部長にバレることはないだろうと僕は思った。


変装のアイデアを出した綾美だが、彼女のイメチェンした姿がどうなるのか、僕は少し楽しみに思った。


綾美がどんな風に変わるのか、そして僕たちの変装が成功して朱雀部長の真意を探ることができるのか、その結果が待ち遠しかった。


時が経つにつれて、僕たちの尾行計画に対する緊張と期待が高まっていった。


僕たちは朱雀部長の行動を監視し、レッドツリーとの関係があるのかどうか、真実を突き止めるために行動を起こすのだった。

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