第16話

僕は戦略的に動き、攻撃をベアーにくらわせては素早く間合いを取り、そしてまた攻撃をしかけるを繰り返し、確実にベアーにダメージを与えた。


彼の動きは徐々に鈍くなり、僕の戦術が功を奏していることが明らかだった。


ついに、ベアーの動きが顕著に鈍くなった。


僕はこれがチャンスだと感じ、決定的な一撃、ベアーの首筋に噛みつくことを決意した。


その瞬間、「よし、やれ」と、またあの頭の中に響く声がした。


僕は迷うことなく、その声の指示に従い、ベアーの首筋に噛みついた。


噛みついた瞬間、僕の身体にベアーのヴァンパイアの力が流れ込んでくるのを感じた。


それは強烈で、同時に僕の中で何かが変化していく感覚があった。


ベアーは声もなく倒れ込み、次第にその姿は元の人間に戻っていった。


僕は立ち上がり、ベアーを見つめた。


彼が完全に人間の姿に戻っているのを確認すると、僕はほっと息をついた。


僕はベアーを人間に戻すことに成功したのだ。


この瞬間、僕自身も新たな力を手に入れたことを実感した。


白木さんは安堵の表情を浮かべ、「よくやった」と僕を褒め称えた。


僕たちの目の前で起こったこの出来事は、レッドツリーとの戦いにおいて、僕たちに新たな希望を与えてくれた。


牢屋から出ると、白木さんが「お疲れ様」と言って肩を叩いてくれた。


彼のその一言が、僕の中で大きな安堵と達成感を呼び起こした。


「なんとかベアーから力を奪えて良かったです。このやり方でシルバーウォールの特に危険なヴァンパイアたちを人間に戻していけば、レッドツリーが襲ってきても大丈夫かもしれません」と僕は白木さんに伝えた。


白木さんは僕の意見に同意し、「確かに、お前の力を使えば、我々の戦略を大きく変えることができる。これから今回のことを野口部長に話し、お前の力でシルバーウォールを守る作戦を提案してみるよ」と言った。


彼の言葉には、僕たちが新たな希望を見出したことへの確信が含まれていた。


ちなみに、白木さんは僕らの所属する十三課の課長であり、その上には九課、十課、十二課、十三課を取りまとめる野口部長がいるらしい。


この組織の構造についてはまだ僕も完全には理解していなかったが、白木さんや野口部長のような経験豊富な上司たちがいることは、僕にとって大きな支えとなっていた。


この成功は、僕たちにとって大きな一歩だった。


しかし、僕はこれが僕たちの戦いの始まりに過ぎないことを理解していた。


レッドツリーとの戦いはまだまだ続く。


だが、今回の成功が僕たちに勇気と自信を与え、どんな困難にも立ち向かう力をくれた。


僕はこれからも、白木さんや他の仲間たちと共に、人々を守るために戦い続けることを改めて決意した。


本部に戻ると、僕たちはすぐに野口部長からお呼びがかかった。


部長室に入ると、野口部長は僕たちをじっと見つめ、深刻な面持ちで話し始めた。


「君たち、特に俊也君のヴァンパイアの力を奪い、ヴァンパイアを元の人間に戻す能力について、詳しく聞かせてほしい」と彼は言った。


僕は自分の経験を正直に話し、ベアーを人間に戻したこと、そしてその過程で感じたことを部長に伝えた。


野口部長はそれを聞いた後、ゆっくりと口を開いた。「本当に君がこの力をコントロールできているか、それが私の一番の懸念だ」と彼は言った。


その言葉を聞いて、僕はマエストロを散々痛めつけたことを思い出し、瞬間的に自分のコントロール力について不安を感じた。


しかし、その不安を野口部長には言えずにいた。


僕はただ、深く頷くことしかできなかった。


白木さんも同様の懸念を抱いていたようだが、「確かにリスクは伴います。しかし、俊也の力はレッドツリーに対抗する上で大きな可能性を秘めています。僕は俊也の力の可能性に賭けたいと思います」と力強く言った。


白木さんのその言葉に、僕は少し勇気づけられた。


野口部長は僕たちの話をじっと聞いた後、深く考え込むようにしばらく沈黙した。


そして、意外な提案を口にした。


「君たちの話は非常に興味深い。しかし、俊也君の力が本当にコントロールできるのか、そして我々の期待に応えるものなのか、私自身が確かめたい」


部長の言葉には決意が込められていた。


「どういう意味ですか?」と僕が尋ねると、部長は直接的に答えた。


「俊也君、君の力を私との戦いで見せてほしい。君がどれほどのコントロールを持っているのか、私自身が確かめた後で、君たちの提案について考えたいと思う」


僕は一瞬戸惑った。


部長自身と戦うことになるとは思ってもみなかったからだ。


しかし、僕の力を信じ、そしてその力を正しく使うことの重要性を理解していた白木さんは、僕を励ますように肩を叩いてくれた。


この突然の挑戦は、僕にとって新たな試練となった。


しかし、これが僕たちの提案が受け入れられるための必要なステップであると理解し、僕は部長との戦いに備えた。


この戦いが、僕たちの未来を左右することになると、僕は心の準備を始めた。


野口部長が「では、早速始めるか」と言い、僕と白木さんに本部の地下にある闘技場で待っているように指示した。


彼は電話を一件済ませると、すぐに向かうと言い残して部屋を出ていった。


僕と白木さんは地下の闘技場に向かった。


エレベーターの中で、白木さんは重い口を開いた。


「野口部長の強さは、ヴァンパイアで言うところのAランクに匹敵する」と彼は教えてくれた。


そして、白木さん自身はBランクであり、僕はマエストロを倒した実績からAランク相当とされていることも付け加えた。


「つまり、今のお前とと野口部長の力はかなり近いところにある」と白木さんは言った。


しかし、彼は忠告を忘れなかった。


「仮に同じランクだったとしても、実戦経験では野口部長の方がダントツで上だ。油断はできない」


エレベーターが地下の闘技場に到着すると、僕たちはそこが特殊な訓練や実力試しに使われる場所であることをすぐに理解した。  


広大な空間には、戦いの準備が整っていた。


僕は白木さんの言葉を胸に刻み、心を落ち着けた。


僕には、自分の力をコントロールし、野口部長との戦いを通じて、僕たちの提案の正当性を証明する使命があった。


この戦いが僕にとって、また一つの大きな挑戦であることは間違いなかったが、僕は自分の能力と、これまで積み重ねてきた経験を信じていた。


そして、何より、僕たちの目指す目的……


ヴァンパイアの脅威から人々を守ることへの強い決意を胸に、野口部長との戦いに挑む準備を整えた。

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