第14話

綾美のお見舞いの後、僕は白木さんのもとへ向かった。


食堂で白木さんは自販機から缶コーヒーを二つ取り出し、一つを僕に手渡してくれた。


「少し話があるんだ」と彼は言い、僕たちはテーブルに腰を下ろした。


僕は缶コーヒーを手にしながら、少し緊張していた。


「白木さん、妹をさらったパンプキンマンのランクが更新されたって本当ですか?」と切り出した。


白木さんは深いため息をつき、「ああ、残念ながらな。パンプキンマンは我々が思っていた以上に厄介な奴だとわかり、ランクがSランクに更新された」と説明した。


僕は驚きを隠せなかった。


「Sランクって……」と言葉を失った。


白木さんはさらに、「そしてな、そのパンプキンマンはレッドツリーの幹部だ」と付け加えた。


「レッドツリー?それは何ですか?」と僕は聞いた。


白木さんは窓の外を見ながら、「レッドツリーは、ここ5年ほどは表に出ずにいたが、実は東京のヴァンパイア界を長年に渡って支配してきた組織だ。しかし、お前の妹が拐われたハロウィンナイト以降、彼らの動きがまた活発化してきている」と説明した。


「それで、僕たちはどうすれば……」と僕が尋ねると、白木さんは僕を真っ直ぐに見て、「戦争するしかない。レッドツリーと。お前の妹を助けるためにはな」と力強く言った。


「戦争……」と僕はつぶやいた。


その言葉の重さに、胸が締め付けられるようだった。


しかし、僕は白木さんに向かって、「わかりました。何が何でも、妹を取り戻します」と決意を新たにした。


白木さんは僕の肩を軽く叩いて、「よし、その覚悟があるのなら良かった」と言った。


僕たちの会話は、これから訪れるであろう困難な戦いへの準備を改めて確認するものとなった。


缶コーヒーを飲み干し、僕たちは食堂を後にした。


僕は心に決めていた。


どんなに強大な敵が待ち受けていても、絶対に妹を救い出すと。


白木さんと事務所に戻る道中、彼は真剣な表情で話し始めた。


「近々、レッドツリーが大きく動き出す。シルバーウォールに攻撃を仕掛けるという噂があるんだ」と彼は言った。


「シルバーウォールって何ですか?」と僕は尋ねた。


シルバーウォールについては初耳だったからだ。


白木さんは「シルバーウォールは、我々ヴァンパイアハンターが捕まえたヴァンパイアたちが収容されている施設だ。強力なヴァンパイアや、犯罪に手を染めた者たちを隔離する場所でね。レッドツリーの仲間たちも多くがここに収容されている」と説明した。


「なるほど……」と僕は言った。


「レッドツリーは、その施設を攻撃して、昔の仲間たちを取り戻そうとしているわけですね」と推測した。


「正解だ。彼らは更なる力を得るために、昔の仲間たちを取り戻そうとしている。もしそれが成功したら、彼らの力は一層増すだろう」と白木さんは言った。


この情報を聞いて、僕の中で緊張が高まった。


シルバーウォールが攻撃を受けるということは、ヴァンパイアの脅威がさらに拡大する可能性があるということだ。


それは、僕たちヴァンパイアハンターにとっても、一般市民にとっても大きな危機だ。


「僕たちはどうすればいいんですか?」と僕は白木さんに尋ねた。


白木さんは少し考えるように眉をひそめた後、「まずはシルバーウォールの防衛を固める。そして、レッドツリーの動きを詳しく調査し、先手を打つ。それが今の我々にできる最善の策だ」と答えた。


僕はその答えを聞いて、僕たちが直面している困難の大きさを改めて感じた。


しかし、白木さんと共に行動することで、僕たちはこの危機を乗り越えることができると信じていた。


僕たちの戦いはまだ始まったばかりだ。


綾美の退院の日、僕は彼女の病室まで迎えに行った。


病室のドアを開けると、綾美は荷物をまとめているところだった。


彼女が振り返り、僕を見て目を輝かせた。


「来てくれたんだ」と彼女は言い、その声には明らかな喜びが含まれていた。


「当然だろ。退院おめでとう」と僕は答えた。


そして、僕たちは病室で少し話をすることにした。


「本当にありがとう。俊也がいなかったら、私……」と綾美が言いかけた時、僕は彼女の言葉を遮った。


「大丈夫だよ。気にしないで。僕は綾美を守るよ」


その瞬間、僕は綾美に心惹かれていることを改めて実感した。


彼女の強さと優しさに、僕は心から尊敬と愛情を感じていた。


綾美は少し笑って、「これからのこと、心配だけど、俊也がいてくれるなら大丈夫かも」と言った。


僕は彼女の手を握り、「一緒に乗り越えていこう。何があっても守るから」と約束した。


僕は自分の積極的な行動にはっと驚いてしまった。


そして、僕と綾美は少し赤くなった。


僕はレッドツリーがシルバーウォールを狙っていることを綾美に伝えるべきか悩んだが、彼女が病み上がりであることを考え、今は話さないことにした。


この平和な瞬間を大切にしたかった。


「綾美、退院記念にオシャレなカフェで昼食でもどう?」と僕は提案した。


綾美は「うん、いいね!」と明るく答えた。


そうして、僕たちは病院を後にし、カフェに向かった。


カフェでの昼食は、僕たちにとって小さな幸せな時間だった。しかし、僕の心の片隅には、これからの戦いへの覚悟がしっかりとあった。


綾美を守るため、そしてすべての人を守るために、僕はもっと強くならなければならない。


その決意を胸に、僕は綾美と共に過ごす時間を心から楽しんだ。


綾美を家に送った後、僕は白木さんと合流し、シルバーウォールに向かった。車の中で、白木さんは真剣な表情で「一つ作戦を思いついた」と言い出した。


彼の言葉に、僕は期待と緊張で胸が高鳴った。


白木さんは続けて、「ただし、この作戦はお前に危険性が及ぶ可能性が高い」と述べた。


僕は少し迷いながらも、「シルバーウォールの襲撃を防ぐためなら、出来ることをしたいです」と伝えた。


僕の心は決まっていた。どんな危険が伴おうとも、僕はレッドツリーの野望を打ち砕きたかった。


白木さんは僕に向かって、「シルバーウォールにいる強力なヴァンパイアを人間に戻すよう頼みたい」と言った。


僕の持つ力を使えば、シルバーウォールに収容されているヴァンパイアたちを人間に戻すことが可能だ。


確かに、それが出来ればレッドツリーの計画は水の泡となる。


その瞬間、僕は深い思索にふけった。


この力を使って、実際にシルバーウォールにいるヴァンパイアたちを人間に戻すことが出来るのだろうか。


しかし、レッドツリーの脅威を根本から絶つことができるなら、それは試す価値があると感じた。


「やってみたいです」と僕は白木さんに言った。


この決断は僕にとって簡単なものではなかったが、僕たちが直面している危機を乗り越えるためには、あらゆる手段を試す必要があった。白木さんは僕の答えを聞いて、少し安堵したように見えた。


「よし、それなら計画を進めよう」と彼は言った。


シルバーウォールへの道中、僕は自分の決断について何度も考えた。


この作戦が成功すれば、僕たちは大きな一歩を踏み出すことができる。


しかし、失敗すれば、僕自身が大きな危険にさらされることになる。


それでも、僕は前に進むことを選んだ。僕たちの目的は、レッドツリーの脅威を終わらせ、平和を取り戻すことだった。


そのためなら、僕はどんな困難にも立ち向かう覚悟があった。

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