第12話
僕は身体の底から力が湧き出る感覚を得た。
その力は、これまでの戦闘で受けたダメージを癒やし、僕をさらにパワーアップさせたように感じられた。
この突然の変化に、マエストロがその様子を見て驚きを隠せない様子だったのが分かる。
「そんなバカな……」
彼女の目には、僕の変貌に対する不安と恐れが映っていた。
僕は、目の前にいるヴァンパイアの首筋を次々と噛んでいき、彼らから力を得た。
それはまるで、僕が新たな存在へと変わりつつあるかのような感覚で、戦いの流れが一気に変わり始めていた。
マエストロの表情は、僕が彼女にとって予想外の脅威となったことを物語っており、彼女の余裕が一気に消え去った。
僕が得た新たな力と、マエストロに対する怒りが一つになり、僕は前にも増して強く、速く、そして容赦なくマエストロに立ち向かう決意を固めた。
彼女がこれまで見せていた優位性は、僕の新たな力の前には意味を成さなくなっていた。
この戦いが僕たちのものに傾きつつあることを、僕は確信していた。
僕は圧倒的なスピードでマエストロに近づき、彼女の表情が凍りつくのを見た。
彼女の目には、恐怖が明確に映っていた。
「終わりだ」と宣言し、僕はマエストロに斬りかかる。
彼女は悲鳴をあげ、腹が引き裂かれる。
痛みと恐怖でマエストロは僕から逃げようとし、「お願い、やめて!」と言ったが、僕は「やめるはずないだろ」と言いながら、彼女に再び斬りかかった。
この瞬間、僕の中には残虐性が芽生えたかのように、マエストロを追い詰めることに一種の楽しみを感じ始めていた。
それは、彼女が僕たちに及ぼした苦痛と絶望への復讐というより、戦いの中で生まれた新たな感情だった。
一方、白木さんは後方でマエストロが呼び出した兵隊ヴァンパイアたちに苦戦をしているように見えたが、白木さんの実力を僕は知っている。
彼の経験と技術があれば、彼らを制することは問題ないと僕にはわかっていた。
僕はマエストロを何度も斬り、彼女が逃げ惑う様子を追いかけた。
彼女の動きは次第に鈍くなり、僕たちの間の力の差は明確になっていった。
マエストロを追い詰める中で、僕は彼女が僕たちに与えた苦痛を思い出し、その復讐を果たすために彼女に止めを刺すことを決意した。
戦いは僕たちのものに傾いていた。
マエストロは、か弱い女の子のような声で「お願い、死んじゃう。やめて」と言った。
彼女の目からは涙が溢れていたが、僕の心は既に決まっていた。
「許すものか」と言い放ち、僕はマエストロの腹に殺鬼刀を突き刺した。
「これが綾美のお父さんの分だ!」と叫びながら、僕は綾美と彼女の父親への復讐を果たした。
さらに僕は「これが綾美の分だ!」と言って、ジャックから引き継いだ刀でマエストロの腹を再び突き刺した。
マエストロは激しい痛みに耐えかねて吐血し、その苦悶の表情が僕の目に焼き付いた。
「早く殺して」とマエストロが懇願したが、僕の心には彼女に対する慈悲はなかった。
「お前は散々酷いことをしたんだ。楽に逝かせるわけにはいかない!」と僕は言い、マエストロを蹴り飛ばした。
彼女がこれまでに犯してきた罪、僕たちに与えた苦痛と絶望は、簡単に許されるものではない。
彼女の行いに対する僕の怒りと復讐の感情は、マエストロに対する一撃に込められた。
この戦いは、綾美と彼女の父親、そして僕たちすべてにとっての正義を果たすためのものだった。
マエストロに対する僕の行動は、過酷ながらも僕たちが直面した絶望と痛みに対する唯一の答えだった。
僕の頭の中で、またいつもの声が響いた。
「こいつの力を奪え」という命令だった。
僕は散々マエストロを痛めつけた挙句、ぼろぼろになった彼女の首筋を噛んだ。
マエストロは悲痛な声を上げたが、その声はすぐに弱まり、彼女は意識を失った。
その瞬間、僕は自分の体内に強力な力が入り込んでくるのを感じた。
それは圧倒的で、未知の感覚に僕自身も驚かされた。
またしても頭の中で声が響き、「それで良い、それで良い」と言っていた。
その声に導かれるように、僕はこの行為が何らかの重要な意味を持つことを理解し始めていた。
僕が目を開けると、そこには人間に戻ったマエストロが倒れ込んでいた。
彼女のヴァンパイアとしての恐ろしい特徴は消え去り、かつての人間の姿へと戻っていた。
その瞬間、僕はマエストロのヴァンパイアとしての力を完全に奪うことに成功したことを悟った。
この行為を通じて、僕はマエストロから彼女の強力な力を引き継ぎ、同時に彼女をその呪縛から解放した。
僕の中で増大する新たな力の感覚に、僕は戸惑いを感じたが、この力を得たことで僕の中で何かが変わった気がした。
「じゃあ、早速使ってみるか」と僕は冷たく呟き、マエストロから奪った力を試すために、タクトを振るような動作をした。
その瞬間、白木さんを襲っていたヴァンパイアたちが、まるで僕の支配下に入ったかのように、僕の方に集まり、ひれ伏した。
白木さんは驚愕し、「まさか、俊也……また奪ったのか?」と問いかけた。
僕は冷酷に頷き、マエストロから力を奪い、今度はその力で彼女を裁くことを決意していた。
マエストロへの憎しみが心を満たす中、僕は地面に倒れている彼女の首を掴んだ。
彼女から受けた僕たちへの苦痛を思い出しながら、締め殺そうとする手を止めることができなかった。
その時、白木さんが「やめろ!俊也!もう彼女は人間なんだ!」と絶叫した。
僕はその言葉に一瞬立ち止まり、首から手を離した。
しかし、僕の中の憎しみは簡単には消えなかった。
「こいつは殺さないといけない。マエストロが生きている限り、絶望は終わらない」と僕は言い放った。
しかし、マエストロが無力な状態で地に伏し、僕を上げた声で懇願する姿を見て、僕の心は揺らいだ。
「お願い、死んじゃう。やめて」と彼女はか弱い声で言った。
僕の手は彼女の首に再び伸びかけたが、その瞬間、僕は自分が何をしようとしているのかを理解した。
僕の中にある憎しみと怒りは、マエストロを殺すことで満たされるものではなかった。
彼女がもはや無抵抗な人間であり、僕が彼女を殺すことで僕自身が何者になるのか、その重大さを僕は思い知った。
「やめるわけにはいかない……」と心の中でつぶやきながらも、僕は最終的に彼女を殺すことを躊躇し、手を止めた。
白木さんの言葉と、マエストロの懇願が僕の心に響き、僕は復讐を超えた何か、より大きな正義とは何かを問い直した。
僕は深く息を吸い込み、手から力を抜いた。
この選択が僕たちの苦しみをどう変えるのかはわからないが、この瞬間、僕は憎しみに支配されず、別の道を選ぶことにした。
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