第10話

マエストロが再びタクトを振ると、一転して異常な光景が展開された。


兵隊のヴァンパイアたちが一斉にマエストロの方へと向かい始めた。


その動きの意味がわからず、僕たちはただ見守るしかなかった。


そして、信じられないことに、マエストロは彼ら兵隊たちに噛みつき、まるで彼らを食べていくかのような行動を取り始めた。


この異様な光景に、僕たちは呆然として何も言えなかった。


「あいつ、バカなの?仲間を食べてるわよ」と綾美が驚愕の声を上げた。


僕も「全く意味がわからない」と呟いたが、同時に胸の奥で何か悪い予感が渦巻いているのを感じた。


綾美は「今のうちにやるわよ」と決意を固め、一気にマエストロに近づいた。


しかし、その次の瞬間、事態は急転した。マエストロの触手が今まで以上のスピードで綾美を捕らえ、彼女の腹に穴を開けたのだ。


「ぐはっ!」


この攻撃の突然さと残忍さに、僕は一瞬凍りつく。


この光景は、僕たちが予想もしなかった出来事だった。


マエストロが兵隊たちを食べることで、何らかの力を蓄え、それを攻撃に転用していたのかもしれない。


綾美の急襲が失敗し、彼女が重傷を負ったことで、戦いはさらに厳しい局面に突入した。


綾美がダメージを受けた瞬間、僕の中の怒りと絶望が爆発した。


しかし、その感情を力に変え、綾美を守り、戦いを終わらせるために、僕は自分の中に秘められた力を全て解放する覚悟を決めた。


僕は綾美に駆け寄り、彼女の傷ついた姿を目の当たりにした。


心配と恐怖が入り混じる中で、「大丈夫か」と声をかけた。


綾美は苦痛に顔を歪めながらも、「バカ、大丈夫なはずないでしょ」となんとか答える。


彼女の声には痛みが滲み出ており、その一言が僕の心を強く打った。


その瞬間、僕の中に渦巻いていた怒りが爆発した。


綾美から父親を奪い、今度は綾美自身をこのように傷つけたマエストロに対して、僕の怒りは計り知れないものがあった。


「なんでなんだよ。なんでいつもこんなことになってしまうんだよ……」


僕は大切なものが守れかった自分に怒りを感じた。


その間も、マエストロは兵隊のヴァンパイアを食べ続けており、彼女がどんどん力を蓄えていく様子が僕をさらに激怒させた。


僕は全身から怒りのエネルギーを解き放ち、「マエストロ!」と叫びながら彼女に斬りかかった。


この攻撃はただの復讐ではなく、綾美と彼女の父、そして僕たちの正義を取り戻すためのものだった。


僕はマエストロがこれ以上誰も傷つけることがないよう、彼女に対する決定的な一撃を加える覚悟で振り下ろした。


この瞬間、僕たちの運命はこの一撃にかかっていると感じた。


僕は綾美への深い愛と共に、すべてをこの攻撃に込めた。


「うぉー!喰らえ!!」


僕はマエストロに一気に近づいた。


しかし、僕の攻撃は、マエストロによって八本に増えた触手で阻まれた。


彼女は明らかに力を増していた。


何度斬りかかっても、パワーアップしたマエストロには僕の攻撃が通用しない。


彼女は「怒ってる顔もいいわね」と僕を挑発する。


その言葉に怒りが沸点に達し、「ふざけるな!」と叫びながら、攻撃の手をさらに強めた。


マエストロは更に挑発を続け、「あのジャックって男はあの子の父親だったのね」と綾美を横目で見ながら言った。


彼女は続けて、「彼は本当に私の思うままに動いてくれたわ。きっと私に惚れていたのよ」と言い放った。


僕の怒りは頂点に達し、「そんなはずないだろ。お前のその変な力でやったんだろ」と反論した。


しかし、マエストロは僕の言葉を一笑に付し、「だったら何なのよ」と言いながら、その触手で僕を吹き飛ばした。


僕はその強力な一撃によって遠くに投げ出され、激しい衝撃を受けた。


この戦いは、僕たちが想像していた以上に困難であり、マエストロの力は想像を超えていたことがわかった。


地面に叩きつけられた瞬間、僕は綾美と僕たちの目的を思い出した。


マエストロに対する怒りだけではなく、二度とこのような悲劇が起こらないようにするために、僕は戦っている。


僕は苦痛を押し込め、再び立ち上がる力を振り絞った。


僕が立ち上がると「綾美!俊也!」という白木さんの声が聞こえてきた。


僕が振り向くと、白木さんが綾美のもとへ駆け寄り、急いで止血をし始めていた。


その瞬間、僕はマエストロとの間に距離を取った。


マエストロはその様子を見て、「男前登場ね」と白木さんを見て笑った。


しかし、白木さんの表情は硬く、「何バカなことしてるんだ。勝手にヴァンパイアと戦うなんて危険過ぎる」と僕に叱責した。


白木さんの言葉には、僕たちが勝手に行動し、このような危険な状況を招いたことへの怒りが込められていた。


白木さんの言う通り、僕らは勝手にマエストロを捕らえようとして、綾美が重傷を負うという被害を出してしまった。


僕は白木さんに向かって、「申し訳ありません」と謝った。


この状況を招いたのは僕たちの軽率な行動だった。


白木さんが綾美の手当てを終えると、彼もまた殺鬼刀を取り出した。


「早くしないと綾美の命が危ない。一気にけりをつけるぞ」と白木さんは言った。


その言葉には、この戦いを速やかに終わらせ、綾美を救うという強い決意が感じられた。


白木さんの加勢によって、僕たちの戦力は大きく増した。


そして、マエストロに対して、僕たちは新たな攻撃を仕掛ける準備が整った。


白木さんの経験と力が、僕たちの勝利へを予感させた。


僕たちは、綾美を守り、この戦いに終わらせるために再びマエストロに立ち向かう覚悟を決めた。


白木さんが「変化!」と叫び、彼の殺鬼刀が大蛇のようにうねりながらマエストロに向かって襲い掛かる。


その姿は圧倒的な迫力で、僕もその勢いに乗じてマエストロに攻撃を仕掛けた。


しかし、マエストロは全く僕らの攻撃に動じることなく、その全てを鮮やかに防ぐ。


戦いの最中、白木さんはマエストロの強さを見極め、「こいつ、ランクで言うとA以上か」と呟きながら、さらに攻撃のスピードを上げた。


それにもかかわらず、マエストロからは余裕の笑みがこぼれ、彼女の強さが僕たちの想像を遥かに超えていることを物語っていた。


その笑みは僕たちにとって挑発にも等しく、しかし同時にマエストロの強さが僕たちの結束をより一層固める結果となった。


白木さんのさらに速く、さらに激しい攻撃は、マエストロを追い詰めるためのものであり、僕も白木さんの攻撃に合わせて、自分の力を最大限に引き出してマエストロに立ち向かった。


この戦いは、ただの力のぶつかり合いではなく、戦術と速さ、そして互いの信頼と協力が重要な鍵となる。


白木さんの加勢により、僕たちは新たな戦略を練り直し、マエストロに対する一瞬の隙をついて一気に決めないといけない。


そう、僕らには時間がない。


綾美の命が危ないんだ。

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