第9話
マエストロに対処しなければ、彼女が操るヴァンパイアたちは尽きることがない。
僕たちは、戦略を変え、直接マエストロを封じ込めるための計画を練り直さなければならない。
この戦いは、ただの力の試し合いではなく、知恵と戦術が求められる局面になっていた。
綾美が「変化!」と叫ぶと、空気が一変した。
彼女の殺鬼刀から、膨大な数の細かい針が飛び出し、ヴァンパイアたちの動きを一瞬にして封じ込めた。
それはまるで一斉に降り注ぐ雨のようで、ヴァンパイアたちは動きを完全に止められ、一時的に戦闘不能となる。
その隙をついて、僕はマエストロのもとへと急いだ。
彼女はこの戦いの鍵を握る存在。
僕の殺鬼刀を振り下ろすが、予想外のことが起こった。
マエストロの背中から突如現れた二本の触手が僕の攻撃を見事に防いだのだ。
その動きはあまりにも速く、まるで予め僕の行動を読んでいたかのよう。
僕は躊躇することなく再度、斬りかかる。しかし、マエストロは再び僕の攻撃を防ぐ。
彼女の反応速度と戦術は驚異的で、僕のどんな攻撃も見事にかわされる。
それでも僕は諦めなかった。
僕たちが彼女を止めなければ、この戦いに終わりは来ない。
この瞬間、僕はただ力任せの攻撃ではなく、もっと策を練らなければならないと悟った。
マエストロとの戦いは、単なる力のぶつかり合い以上のものを要求している。
僕たちは彼女の予測不能な動きと超自然的な能力に対抗するため、より洗練された戦略と連携が必要だった。
間合いを取ったマエストロが再びタクトを振ると、さらに十体のヴァンパイアが僕らの周りに現れた。
数の上で圧倒的に不利な状況がさらに悪化していく。
綾美が「こいつ、厄介ね」と言った声には、いつもの冷静さが混じりつつも、少しの苛立ちが感じられた。
僕はこの状況でどうやってマエストロを倒せばいいのか、必死に考えた。
綾美の針は一時的に兵隊のヴァンパイアを止めることができるが、本当の問題はマエストロ自身だ。
彼女は接近戦も強く、僕のどんな攻撃もことごとく防がれてしまう。
一体、どうすればいいんだろうと悩んでいると、僕の頭にまた見知らぬ男の声が響いた。
「ジャックから奪った力を使え」
その声に混乱しながらも、僕は自分の体から力が湧いてくるのを感じた。
それはまるで、何か新しい力が僕の中で目覚めたかのようだ。
僕はその声が指し示す「ジャックから奪った力」、つまりかつて綾美の父であり、ヴァンパイアにされた後、人間に戻れたが意識不明の状態にある黒崎圭吾から得た特殊能力を指していることを理解した。
混乱する心を抑え、僕はその新たに目覚めた力に集中した。
もしかしたら、これがマエストロに対抗するための鍵になるかもしれない。
僕は綾美と目を交わし、彼女にも僕が何か新しい試みをすることを伝えた。
綾美の針が再び飛び、兵隊のヴァンパイアたちを一時的に動けなくする中、僕はマエストロに再度近づく。
今度はジャックから受け継いだ力を使ってマエストロに致命傷を与えるつもりだ。
この未知の力がどのように作用するかはわからないが、僕はそれを信じて行動を起こすしかなかった。
「なんだこれ?」
左腕に違和感を感じた瞬間、僕は信じられない変化に気づいた。
突如、僕の左腕がジャックのように刀状に変形し、僕は右手に持った殺鬼刀と合わせて二刀流の戦士となっていたのだ。
この新たな形態に、僕自身も驚愕したが、戦況にはこれ以上ない好転であることを直感した。
マエストロの表情が一瞬、驚きに変わった。
「お前、ジャックの力奪ったのか?」と、彼女は笑いながら聞いた。
その言葉には僕の変貌に対する驚きと、どこか評価するような響きが含まれていた。
しかし、僕はその言葉を無視し、新たに得た力を信じて彼女に斬りかかった。
攻撃はもう少しのところでかわされ、マエストロはその触手を巧みに扱いながら、再び間合いをとった。
この戦いの中で、僕は綾美の父、ジャックを操っていたのがこの目の前にいるマエストロで間違いないと確信した。
その思いは、怒りへと変わっていった。
綾美も僕の感情を共有しているかのように、マエストロに向かって言った。
「お前が父さんを操っていたのか?」
綾美の声には、怒りと共に、父親を操られた事実に対する悲しみが混ざっていた。
この瞬間、僕たちの戦いは単なるヴァンパイアとの戦いを超えた。
これは、マエストロによって狂わされた運命を正すための戦いでもあった。
「絶対、お前を倒す」
僕と綾美はマエストロを同時に睨みつけた。
僕たちの心は一つになり、マエストロを倒すための絆がさらに強まった瞬間だった。
綾美が「伏せて」と僕に言う。
その一言で、僕は直感的に彼女の次の行動を理解し、身を低くした。
その直後、綾美は全力で「千本桜!」と叫び、彼女の殺鬼刀から無数の針がマエストロに向けて放たれた。
この攻撃は綾美の感情が爆発したもので、彼女の父の仇を前にしての怒りと悲しみが力となって表れた。
マエストロは無数の針を喰らい、その動きが明らかに鈍くなった。
綾美はその隙を逃さず、敵の懐に飛び込んで腹を深く切り裂いた。
僕も綾美の攻撃を見てすかさず行動に移り、左腕の刀状に変形した力と右手に持つ殺鬼刀の二本の刃でマエストロに斬りかかった。
マエストロは僕らの連携攻撃によって避けることができず、大量の血を吐きながら後退した。
僕らの攻撃が彼女に確実にダメージを与えたことは明らかだったが、マエストロはなんとか僕らから距離をとり、再び戦闘の態勢を整えようとした。
僕らの攻撃が彼女に致命傷を与えるには至らなかったものの、この戦いで僕らが彼女に与えたダメージは間違いなく大きかった。
この瞬間、綾美と僕の間には、これまで以上の信頼と絆が生まれていた。
マエストロへの攻撃は僕らにとって単なる勝利以上の意味を持っていた。
これは綾美の父への復讐であり、僕らの正義を貫く戦いだった。僕らは再び立ち上がり、マエストロに最後の一撃を加えるための力を蓄え始めた。
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