第8話
「お待たせ」と綾美が現れた時、彼女の変貌に驚いた。
任務時のシンプルな服装とは異なり、まるでデートにでも来るかのような可愛らしい服装だった。
彼女の髪色も金髪から暗めのブラウンに変わっていた。
「かなり雰囲気変わったね」と僕が言うと、綾美は「この一区は剛をはじめとする一課の連中がいるからいつもと同じ服装はやめろって言ったでしょ」と返した。
彼女はさらに、「あんたいつもと大して変わってないじゃん。やる気あんの?」と続けた。
僕は一応、いつもとは違う服装をしてきたつもりだったが、服のバリエーションが少ないため結局似たような格好になってしまった。
「ごめん、僕あんまり服持ってないんだ」と僕は謝った。
「まあ、いいわ。あんたはまだ新人だから顔あんまり知られてなさそうだし、なんとかなる気がする」と綾美は言って、僕たちはマエストロを探しに夜の一区に向かった。
一区に向かう道中、綾美の変わった装いに心が少しドキドキした。
いつもと違って、なんだか女の子らしく感じられてしまう。
「さっきから何よ。ジロジロ見過ぎよ」と、綾美に睨まれてしまった。
どうやら、思わず彼女の変化に見惚れていたみたいだ。
「気持ち悪いわよ」と綾美に叱られ、僕は慌てて「油断なんかしてないよ」と言い訳した。
「はぁ?意味わかんない」と綾美は横を向いた。
僕は自分でも意味不明な返答をしてしまったことを恥ずかしく思った。
彼女は「マエストロってヤバいぐらい強いかもしれないのに、あんたは呑気ね。足手纏いにならないでよ」と忠告した。
そんなやり取りをしている間に、僕たちは一区に到着した。
「一区って、あんまり人少ないね」と僕が綾美に言うと、彼女は「そりゃそうよ。マエストロもそうだけど、ここはけっこうヤバい奴らが多いのよ。ランクで言うとB以上のやつらがウジャウジャいるわ」と返した。
Bランクというと、綾美の父、ジャックと同じぐらいの強さのヴァンパイアがいることになる。
綾美の計画の危険性を改めて感じ、「それってめちゃくちゃ危なくない?」と心配を表した。
しかし、綾美は「大丈夫よ。あんた案外強いし、私のこと助けてくれたでしょ?」と、意外と楽観的な様子で答えた。
僕は僕に足手纏いになるなと言われたり、頼りにされたりと少し綾美の言動に翻弄されている自分に気づいた。
「キャー」という女性の悲鳴が聞こえた時、僕と綾美は迷わずその方向へと走り出した。
暗い路地を抜け、高架下に差し掛かると、三体のヴァンパイアに追い詰められている若い女性の姿があった。
綾美と僕は即座に殺鬼刀を解放し、女性を助けるためにヴァンパイアたちに立ち向かう準備をした。
ヴァンパイアたちは飢えたような表情で僕らに襲いかかってきた。
「さがって」と綾美が女性に指示し、彼女は大柄の男性ヴァンパイアに向かって殺鬼刀を振るった。
僕は小柄のヴァンパイアニ体に対処しながら攻撃を防いだ。
「こいつらランクでいうとD以下ね」と、綾美は余裕の笑みを浮かべていた。
そして、彼女は大柄のヴァンパイアの腹を一刀両断にして、あっさりと倒した。
大柄のヴァンパイアがまだ息をしていたため、綾美は即座にヴァンパイア専用の手錠を彼にはめた。
そして、僕に迫っていたヴァンパイアも素早く倒し、残った二体にも手錠をかけた。
「これなら殺さずに済むわ」と綾美は言い、ヴァンパイアを殺さずに捕える選択をした。
そんな彼女の行動を見て、僕は父親の一件以降、綾美の心境が大きく変わったことを感じ、その変化に少し喜びを感じた。
ホッと一息ついているところに、ヴァンパイアに狙われていた女性が感謝の言葉を述べた。
僕と綾美は彼女が怪我をしていないか心配したが、彼女は無事だった。
しかし、僕が安全な場所へ移動を促した瞬間、彼女は突如変貌し、背中から触手を出して僕を襲った。
綾美は反射的に触手を斬り、女性ヴァンパイアに攻撃を仕掛けたが、女性ヴァンパイアはすばやく距離を取った。
「こいつヴァンパイアよ」と綾美が警告すると、その女性は不敵な笑みを浮かべ、指揮者のように空中で手を振るった。
まるで彼女の信号を待っていたかのように、物陰から十体のヴァンパイアが現れ、僕たちを取り囲んだ。
「あいつ、マエストロだよね?」と僕が口にすると、綾美は「ええ、こんなこと出来るんだからね」と言った。
綾美と背中合わせに立ち、僕は殺鬼刀を握りしめる手に力を込めた。
しかし、僕たちの目的は彼らを殺すことではなく、動きを封じることだ。
綾美の落ち着きが少しだけ僕の緊張を和らげてくれる。
彼女の刀からは静かな光が放たれていて、僕の刀もそれに応えるかのように解放状態になった。
僕たちは一致団結し、これから迫りくるヴァンパイアたちに立ち向かう準備ができていた。
「焦らないで。一体ずつ潰していくわ」と綾美が静かに言った。
その言葉が僕の不安を払しょくし、代わりに確固たる決意が心に宿った。
ヴァンパイアたちは餓えた獣のように僕たちを睨みつけるが、その視線に僕は恐れを感じなかった。
綾美と僕は恐怖を超えていた。
戦いが始まり、綾美の刀が先導した。
彼女はヴァンパイアの動きを巧みに制御し、その動きを封じるように攻撃した。
僕も彼女の動きに合わせて、自分の刀でヴァンパイアたちの動きを止めた。
僕たちの攻撃は、彼らを傷つけることなく、彼らの動きを封じ込めることに重点を置いていた。
僕たちの間の絆が、この暗闇の中で僕たちを導く光となった。
この瞬間、僕は深く感じていた。綾美と共にいることで、僕はより強く、より冷静になれるのだと。
そして、どんな困難も二人なら乗り越えられるという確信が、僕の中で強くなっていった。
僕たちは力を合わせて、ヴァンパイアたちを一つ一つ封じ込めていく。
殺さずに封じる、それが僕たちのやり方だ。
マエストロの指揮者のような仕草に呼応して、十体のヴァンパイアが僕たちを取り囲んでいた。
綾美と僕は背中合わせで立ち、迫りくるヴァンパイアの足などを狙いながら、彼らの動きを確実に封じていく。
僕たちの殺鬼刀は彼らを傷つけることなく、動きを止めるために振るわれた。
一体また一体とヴァンパイアたちを無力化していく中、マエストロが再びタクトを振ると、新たに五体のヴァンパイアが現れた。
この絶え間ない増援に、綾美が僕に向けて「これじゃ、キリがないわね」と言った。
彼女の声には少しの苛立ちが含まれているが、それ以上に冷静な計算と決意が感じられた。
僕も彼女に同意し、これはただの戦いではなく、マエストロを止めなければ終わらない局面だと理解した。
綾美の言葉に力を得て、僕は一層の覚悟を決める。
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