ヴァンパイアハンター 〜僕は拐われた妹の為に吸血人になる〜

第7話

綾美の父親は、かなりの脳にダメージを負っていたらしく、目を覚ますことはなかった。

ヴァンパイアハンター協会専属の医師によると、彼の脳細胞には特殊なVセルがくっついており、何らかの形でコントロールされていた可能性があるとのことだった。

これは、綾美の父がただヴァンパイアに変わっただけでなく、何者かによって操られていたことを示唆していた。

白木さんから聞いたところによると、綾美は父親の意識が戻らないことには落胆していたが、「生きているだけでも感謝だね」と前向きな姿勢を見せていたそうだ。

その強さに、僕は深く感銘を受けた。

この一連の出来事を通して、僕は綾美の父をジャックというヴァンパイアに変え、さらには彼を操っていたであろう真の敵を見つけ出し、倒すべきだという強い使命感を感じた。

何者かがこのような力を持ち、人々を、いやヴァンパイアを操ることができるのなら、それはただのヴァンパイアの脅威をはるかに超える問題だ。

僕は、その敵を見つけ出し、この事件の真実を解明し、綾美と彼女の父、そして他の無数の犠牲者のために正義をもたらさなければならないと決意した。

そして、僕は本部にある図書館でヴァンパイアに関する資料を読み漁ることにした。

脳をコントロールするような内容についての文献は見つけられなかったが、殺鬼刀のことなどについては知ることが出来た。

殺鬼刀の力はヴァンパイアのVセルから作られており、その能力の強さや特徴はVセルを採取したヴァンパイアに左右されるらしい。

きっと白木さんの殺鬼刀のVセルは蛇のように触手を出すヴァンパイアから採取されただろうし、綾美の殺鬼刀は針を飛ばすような攻撃をするヴァンパイアから採取されたのだろうと思った。

しかも、その殺鬼刀の能力特性を発揮させるには、「変化」を発動させないといけない。

「変化」には人間の血が多量に必要であり、かなり使う者の体力を削ぐとも書かれていた。

本を読みふけっていると、綾美が図書館に入ってきた。

彼女の表情はいつもと違っており、女の子らしさが感じられた。

「何サボってるのよ」と、彼女は僕に言った。

「サボってなんかないよ。調べ物してるんだよ」と僕は答えた。

「で、目的の情報は見つかったの？」と綾美が興味深そうに聞いてきた。

「いや、見つかってない」と僕は少し落胆しながら言った。

「残念ね」と綾美が言い、その後で、少し照れくさそうに、「調べ物で忙しいところあれなんだけど、ちょっと一緒に来てよ」と続けた。

彼女の目が僕を期待に満ちて見つめていた。

綾美は少し照れながら、父親の件でお礼をしたいと言い、食堂でランチを奢ることを提案した。

僕は断ろうとしたが、彼女が「お礼をしないと気が済まないの」と強く言うので、結局カレーを奢ってもらうことにした。

綾美は「カレーだけじゃお礼した感がないから」と恥ずかしそうに言いながら、デザートにプリンを僕のお盆に乗せた。

彼女も僕と同じカレーとプリンを注文して、二人で一緒にランチを食べることになった。

僕はいつもと違う雰囲気の彼女の様子のせいか少し緊張しつつも、彼女の気遣いに感謝していた。

僕はカレーを口にした瞬間、驚きで目を見開いた。

何これ…レバーが入ってる？

「このカレーなんでレバーが入ってるの？」と、僕は綾美に驚きを隠せずに訊いた。

綾美はカレーを一口食べ、何事もないように「ヴァンパイアハンターには血が必要なのよ。だからレバーが入ってるのよ」と説明した。

その様子に、僕はさらに驚愕した。

さっき読んだ殺鬼刀の文献を思い出し、なるほどと納得はしたけれど、レバー入りカレーを前にして、僕はどう反応していいかわからなくなった。

ヴァンパイアハンターの世界は、僕が想像していたよりもずっと深く、厳しいものだったんだと思った。

綾美はカレーを食べながら、改めて「お父さんのこと助けてくれてありがとう」と感謝の言葉を述べた。

僕は「うん」とだけ返答した。彼女は過去にヴァンパイアは全員殺さなければならないと言ったことを謝罪し、僕は自分の力を使ってヴァンパイアを救う可能性があることを確認できたのは良かったと感じた。

綾美が「で、あんたは図書館で何を調べていたの？」と尋ねると、僕は綾美の父の脳に付着していたVセルについて話した。

綾美はヴァンパイアを操るヴァンパイアの存在について同期の剛から聞いたことがあると言い、「そのヴァンパイアを捕まえたら何かわかるかも」と提案した。

僕は、その話を聞いた後、綾美に剛に会わせて欲しいと頼んだ。

綾美と僕は剛のいる一課に向かった。

綾美から聞いた通り、剛はパワータイプのヴァンパイアハンターで、彼の持つ殺鬼刀は僕のものよりもずっと巨大とのことだった。

一課に着くと、綾美は「剛！」と大きな声で呼んだ。

ゴリラのようなガタイのいい男が振り返り、「おー、綾美」とニッコリ笑って応えた。

綾美はすぐに、ヴァンパイアを操るヴァンパイアについての話を聞きたいと剛に伝えた。

剛によると、そのヴァンパイアは「マエストロ」と呼ばれ、一カ月前にも目撃されたが、捕えることはできなかった。

マエストロは、まるで指揮者のようにヴァンパイアを操る能力を持っているらしい。

綾美は剛からマエストロの見た目の特徴や活動パターンなどの情報を収集した。

一課から出ると、彼女は決意を新たにして「今夜、マエストロを探すわよ」と言った。

「えっ、今日？」と僕は驚いた。綾美の急な提案に心が追いつかない。

「当たり前でしょ！善は急げよ！」と綾美は断固として言った。

「でも、今夜は夜勤はないよ」と僕は言ったが、綾美は「任務ではなく、個人的に行くのよ。もちろん、白木さんには秘密よ」と言って計画の秘密性を強調した。

僕は困った様子になったが、「嫌なら私一人で行くわよ」と綾美が少しムッとして言うと、僕は彼女を一人で行かせるわけにはいかないと思った。

結局、綾美の強い意志と彼女を心配する気持ちから、僕も一緒に行くことにした。