第6話
白木さんは冷静に、しかし確実にジャックにダメージを与え続けた。
僕も彼に続き、ジャックへの攻撃を試みたが、なかなか致命傷まで至らなかった。
一方で、綾美はその場に座り込んでしまい、ショックのあまり動けなくなっていた。
僕と白木さんは、戦いながらも綾美の様子を気にかけていた。
ジャックが綾美の父親であるという事実に、僕たちも動揺を隠せなかった。
そんな中、白木さんが声を張り上げた。「綾美!もう彼はヴァンパイアだ。救うには倒すしかない!」その言葉に、綾美はハッとしたように顔を上げた。
綾美の目には涙があふれながらも、決意の光が宿っていた。
彼女は立ち上がり、力強く「殺鬼刀よ、変化せよ!」と叫んだ。
その瞬間、彼女の手にある殺鬼刀がほのかに輝き始めた。
そして綾美が「行け!」と叫ぶと同時に、刃から多くの鋭い針がジャックに向かって放たれた。
針はジャックの体を突き刺し、彼に大きなダメージを与えた。
ジャックの苦痛の叫び声が路地裏に響き渡った。
綾美の瞳からは、父親への愛情と、彼を救うために選んだ苦渋の決断が溢れていた。
一方で、僕はジャックに噛みつき、彼からヴァンパイアの力を奪って元の人間に戻せないかという危険な考えを巡らせていた。
だが、もしそれに失敗したら、僕はしばらく戦えなくなってしまい、チームをより不利な状況に追い込んでしまうかもしれない。
それに、白木さんや綾美の方法でジャックを、いや綾美の父さんを救うことに抵抗を感じる気持ちが、僕の中で大きくなっていた。
その時、綾美は苦しそうな表情をしながらも、自分の攻撃でジャックを追い込んでいた。
白木さんも攻撃の手を緩めることなく、ジャックを確実に追い詰めていた。
突然、ジャックが「グォー」という雄叫びを上げた。
その叫びとともに、彼の背中から四本の触手が現れ、白木さんを力強く吹き飛ばした。僕もその触手の攻撃を避けられず、強い衝撃で吹き飛ばされた。
その間隙をついて、ジャックは綾美に瞬時に接近し、彼女に切りかかった。
綾美は必死にかわそうとしたが、肩を切られてしまい、多量の血が流れ出した。
綾美の痛みに満ちた悲鳴が、僕の耳に響いた。
綾美が倒れ込むのを見て、僕は直感的に彼女を助けるためにジャックに向かって攻撃を仕掛けた。
綾美は地面に倒れ、苦しそうにしていた。
彼女が受けた傷よりも、実の父親によって傷つけられたことのショックで倒れ込んだように見えた。
綾美は泣きながら「助けて」と小さく呟いた。
その声は、僕の心を強く打った。
ほんの少し遅れて、白木さんもジャックに攻撃を仕掛けた。
彼は僕の方を向き、「綾美を頼む」と言った後、ジャックを引きつけて僕たちから引き離すことに集中した。
綾美は再び「助けて、助けてよ」と泣きじゃくった。
その声に背中を押され、僕は決意を新たにした。
「うん、僕が綾美のお父さんを助ける。人間に戻すよ」と力強く言った。
その言葉に、綾美の瞳にはわずかながら希望の光が灯った。
彼女の涙にはまだ悲しみが混じっていたが、僕の言葉が少しでも彼女の心を軽くしたようだった。
僕の頭の中で突然、男性の「助けてくれ」という声が響いた。
一瞬、その声がジャックから来たものではないかと思った。
不思議とその声には、苦しみと懇願が混じっているように感じられた。
白木さんとの戦闘が続く中、ジャックが隙を見せる瞬間を狙いながら、僕も攻撃の機会を伺っていた。
しかし、触手によってパワーアップしたジャックの圧倒的な力に、僕たちは押され気味だった。
一瞬の静寂の中で、僕は白木さんに「白木さん、万が一僕が動けなくなってもジャックは倒せますか?」と聞いた。
白木さんは一瞥をくれ、「バカなこと言うな。最初からそのつもりだ。お前は綾美を守ることに専念しろ。いざとなれば逃げろ」と厳しい口調で言った。
その言葉を聞き、僕は心を決めた。
「安心しました。僕は綾美の心を守るために、奴からヴァンパイアの力を奪いますよ」と言い、意を決してジャックに接近した。
僕の中には、ジャックを救い、元の人間に戻すという強い決意があった。
「待て!」と白木さんが僕を止めようと叫んだが、僕はもう決心していた。
瞬時にジャックに近づき、一瞬の隙を見つけて彼の首筋に噛みついた。
ジャックの血が僕の口の中に流れ込むと、僕の頭の中に再び声が響き渡った。
「こいつの力なら構わない」と、どこかで聞いたことのある声が言った。
その声を聞いた瞬間、僕の身体に強大な力がみなぎった。
ジャックの左腕に一体化していた刀と触手が、まるで反応したかのように、すぐに分解し始めた。
その力の爆発とともに、ジャックは力を失い、膝をついた後、完全に倒れ込んだ。
僕はジャックから離れ、彼の変化を見守った。
僕の行動が、彼を救い、そして綾美と彼女の父親の間に何かを取り戻すことができるのか、心の中で祈るばかりだった。
「まさか、本当にやったのか?」白木さんが目を見張りながら驚いた。
僕は呼吸を整えながら、「はい、どうやら成功したみたいです」と答えた。
その瞬間、綾美が泣きながら父親に駆け寄った。
彼女は父親の手を握り、「俊也、ありがとう、ありがとう」と何度も繰り返しながら涙を流した。
僕も綾美のそばに近づき、倒れている彼女の父を見下ろしながら、「良かった」とほっと息をついた。
ジャック、いや、綾美の父は、穏やかな表情で眠っているようだった。
その平和な顔を見て、僕たちの行動が間違っていなかったことを感じた。
その時、白木さんがケータイを取り出し、本部に状況を報告し始めた。
一連の騒動が落ち着きを見せ始める中、いつの間にか雨も止み、東の空が明るくなり始めていた。
太陽の光が徐々に路地裏を照らし始め、新しい朝の到来を告げていた。
「もうすぐ朝だね」と僕は微笑みながら綾美に言った。
彼女は涙を拭い、小さく微笑み返した。
その笑顔は、長い一夜の終わりと、新しい始まりを象徴しているようだった。
安堵の息をついたその瞬間、僕の頭の中に「この力使えるぞ」という声が響いた。その声は冷たく、どこか遠くから聞こえてくるような感覚だった。
僕はその声に少し恐怖を感じ、身体がふるえた。
その声の主が誰なのか、何を意味しているのか分からなかった。
綾美と白木さんは、僕の内面で起きている変化に気づいていないようだった。
僕は二人には何も言えず、ただ静かにその場に立ち尽くした。
僕の中で不安が高まり始めた。
ジャックからヴァンパイアの力を奪ったことで、何かを引き寄せてしまったのだろうか。
それとも、これは僕が新たに手に入れた力に関連する何かなのか。
明るくなり始めた空を見上げながら、僕はこの新たな不安と同時にヴァンパイアたちを救える可能性について考え始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます