第8話 すごいことなんだよ

「引きこもる、ってなんで悪いことにされているんだろうね?」


「え。だって悪いことはしていないじゃない。むしろパソコンで色々な人とやりとりできてすごいと思う」


「今の時代テレワークとかあるし、アマ〇ンのような宅配サービスもある。困ることないでしょう」


「わざわざ会社に行かなくても、質の高い仕事をできる。もっとも全てがオンラインにできるわけじゃない」


「でもね。ゲームのチャットで知り合った人と仲間になったり、結婚することだってあるんだよ?」


「……キミ、ネットで告白とかされない?」


「うん。ないならいいんだ。わたし独占欲強いからね?」


「うそ。ネットの友達はたくさんいるの? それは聞き捨てならないなー」


「どんな人? 性別は? 年齢は? 好きなものは?」


「知らない? そうなんだ……」


「ふーん。ゲームとかの集まりかー。いいねー」


「え。小説の仲間もいるの? へぇ~。キミの小説楽しいものね」


「むむむ。わたしも小説書こうかな?」


「それなら、わたしともつながってくれる?」


「えー。意地悪」


「もう。からかわないでよ。わたしけっこう本気なんだからね」


「そう。前も言ったけど、大好きなんだ。理屈じゃないよ」


「素敵だなーって思って、やっぱり性格も優しいなーって思って」


「でも優しすぎて、世界では、社会では生きづらいの」


「みんなワガママだから。自分勝手な人ばかり」


「そんなのはもういや。わたしはわたしのために生きるんだ」


「これもワガママだね。キミのようにはなれないよ」


「なんでそんなに人を信じているのよ」


「それってすごいことなんだよ。モニター越しの相手でも仲良くなれているじゃない」


「信じていなきゃできないって」


「もう、分からないならいいよ」


「でも、キミはもっと自分勝手になってもいいと思うだ」


「だって。人生の主人公はいつだってキミだよ」


「自分の人生を大切にできないのなら、他の誰でも大切にできないと思うなー」


「ごめんね。自分の言葉で語らなくて」


「キミは強いよ。他人の書いた筋書きに惑わされることなく生きている」


「本当。すごいよ。わたしなら何度もくじけている」


「キミのことを好きになるの、時間いらなかったなー」


「思い出作りしたい。キミと」


「これはわたしのワガママ」


「でも、キミなら受け入れてくれるでしょう?」


「分かっているよ。実の姉だって」


「でも。それでも、姉弟だけの間柄じゃなくなりたいの」


「ごめんね。ワガママなお姉ちゃんで」


「でも、いいじゃない。わたしだって大切にしたいのだから」


「本当、世界っておかしいよ。好きな人と好きでいられないなんて……」


「ごめんね。キミを困らせた」


「また明日」

 立ち去っていく音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る