第18話 「強さを見せる時が来ました」

耳をつんざく銃声と共に、弾丸が発射される。

……当たったかは分からない。しかし、僕らは油断などする訳にはいかなかった。一発だけでなく、タケフミが連射をするのと同タイミングで僕も残り6発分を撃ち込んだ。

そしてその後に一瞬だけ見てみると、蜘蛛型は想定とは違って僕から見て一番手前の脚のみを負傷したようだ。いくら高威力でもそこは拳銃弾、というわけであろう。威力面では流石に5.56mmに劣ってしまうというものか。

だが、その程度は僕の方でのカバーが効くというものだ。


「……僕のは効いた! こっち方向に体勢が崩れるなら、左の関節にも叩き込んでやる!」

「ちぃ、頼むぞルース!」


言葉を発しつつ、銃口と照準はもう1つ左の脚の関節部に向けて狙いを定める。そして、潰れかけの脚にまず一発の弾丸を発射。


「カッ……⁉ コキャキャキャキャァァァァァッ!」

「よし、効いてるようだなクソ野郎! こいつらも持ってけ!」


昆虫的な叫び、というやつだ。流石に脚部一本半持っていっちまうくらいの攻撃をしてしまえば、そりゃあ痛みで叫びたくもなるというものなのだろう。

だが、それで動きまで止めてしまえばあとは的のようなものだ。大きく反って両手を伸ばしている上半身の方には目もくれず、関節部に向かって更に一発、そしてまた一発。そうして更に二発ほど撃ち込むと、流石に撃ちすぎたのか知らないが引き金を引いてもクリック音しか出なくなった。これは、弾切れだ。


「ち、ここでか⁉ 眼を狙いすぎたのが裏目に出た……!」


捨て台詞を一つほど吐き落としつつ、再びマガジンキャッチを押す。そして今度は右に本体を降って弾倉を排出しつつ、左手で腰からまた新しい弾倉を引っ張り出して装填。その後、その左手の勢いのままに手首付近でボルトストップをぶっ叩いてボルトを再び前進させ……再び照準しようと、蜘蛛型を見据えた所で気づく。奴が、なんとか体勢を立て直しながらこちらに砲口を向けてこようとしている事に。

……今撃たれたらアウトだ。だが、回避できる状況じゃない。覚悟を決め、セレクターをフルオートに変えて銃口を向け直した……瞬間、響く轟音。そして、それによって先程弾を撃ち込んでいた左側の脚部関節が完全にぶっ潰れる光景。


「……セーフ、かな?」


他の誰でもない、タケフミだ。ほんの数秒前に再装填を終え、今撃ったのだろう。


「タケフミ、君ってやつは中々いいタイミングで撃ってくれるじゃないか! おかげでドロドロにならずに済んだよ! Ideale, amico mio最高だ、相棒!」

Non c'è di cheどういたしまして! ……そんじゃあ、これでいいですよね! やっちまってくださいよ、姐さん!」


……と、僕の命の恩人はそんな三下臭い台詞を吐く。

すると姉御は、それに応えてやるかのように遮蔽から出て階段を一段だけ降り、怪物共の進路を塞ぐようにど真ん中に立って叫んだ。


「待たせたわね、アンタ達! ここからはアタシに任せなさい、あのクソ蜘蛛にとっておきのをお見舞いしてやるわよ……! じゃあ、突っ込むわ! でぇいっ!」

「ちょ、姐さん⁉ 眼を潰すだけで十分で……⁉」


そして姉さんは、そんな頼もしい台詞と頼れる姿を残して一瞬だけ僕の視界から姿を消す。しかし、すぐに戻ってきた……それも、上から。彼女は、階段の一番上から跳躍して奇襲を仕掛けたのだ。

そして当然ながら、蜘蛛型には対空制圧に有効な武器など持ち合わせているはずがない。更に唯一彼女を攻撃できそうな糸の塊も、ここまで体勢が崩れていては当たるわけもなし。そうして姉御は、どこぞの仮面ヒーローもかくあらんとばかりに突っ込んでいくのだ。

……左脚は限界まで上げた膝蹴りの状態から一気に下げていき、右脚は膝を曲げたまま下から持ち上げて右に回し、勢いよく左に蹴り込む。そしてその一連の流れを、腰を左に回しながら行う……要するに、空中での回し蹴りのようなものだ。

実践ではなく曲芸で行うものではないかと錯覚しそうになるような、しかし威力抜群の空中回し蹴りが、蜘蛛型の本体となっている女の側頭部に直撃。そしてそのあまりの威力、更に元より2本の脚もぶっ潰れている事もあってか、蜘蛛型は大きくバランスを崩しながら恐ろしい速度で左側面の壁に頭を激突させた。

……もうここまでで十分オーバーキルといえてしまうほどの凄まじい蹴りだった。それに事実、被弾していなかったはずの頭部左側面が激突したにも関わらず壁には血糊がべったりだ。右側はイカれた威力の蹴りを食らっただけであるのでそこまで酷い惨状ではないが、左側頭部を見ているタケフミは気が気でなかっただろう。


「入った……! ならば、次!」


……姉御もそのまま尻餅をついて着地。だが彼女の視線の先には、もう一体の怪物がいた。20代らしき男の身体で眼鏡をかけており、こちらはまだ人間の形を完全に維持しているようだ。作業服にこびりついた血さえなければ、ただの配達業者の者と勘違いしてしまうだろう。

しかし、彼女はそんな敵にも一切の容赦を見せはしない。まるでダンスチームのリーダーのように跳ね起きで戦闘態勢に戻ると、これまたゆっくりと一歩ずつ階段を登ってきている人間型を迎撃するため、今度は絶賛昏倒中の蜘蛛型の馬鹿でかい胴体を踏みつけつつ登って少しだけ高所に立った。


「アンタも、こいつで、終わらせてやる! 何もせず、くたばれぇ!」


……そして、そう叫んだ後に姉御は更に飛び上がって右足を思い切り引き上げる。更に彼女はそのままの体勢で飛び込んでいき、超高威力な空中からの踵落としを頭部に直撃させた。


「……うっそぉ。」

「姐さんってば、完全に無双しちゃってるよ……これ、最初から私達要らなかったかもね。」


僕らが少し呆れながらにそう言っている間にも、姉御は下を向きながら片足だけで着地。そして右足を一度引き、今度は足の裏で蹴りを入れて人間型を階段の踊り場まで吹っ飛ばした。

更にそこから後ろに居た蜘蛛型の頭をM870の銃床で一度殴り飛ばすと、再びターゲットを移して人間型へ。彼女は一息に飛び降りて人間型の所まで突っ込んでいくと、M870の銃口をそいつの左肩に押し付けてまたも叫ぶ。


「ノコノコと馬鹿みたいに突っ込んできて! 死にたいつもりなら、大喜びで地獄に送ってあげるよ!」


と叫びつつ、まず一射。彼女の顔から胸にかけて鮮血が返り血として吹き出してくるが、彼女はそれを気にも留めない様子でハンドガードを引いて排莢。

さらに今度は右肩に銃口を押し付け、二射目を放っていく。そして、次は頭部……それも鼻が銃口に入り込むように押し付け、三射目。高威力の散弾をもろに喰らった人間型は、その頭を吹き飛ばされた。

そして最後に、彼女は右胸部に銃口を押し付けた。先程の肩の耐久性から考えても、胴体部を12ゲージでぶち抜けるという事は明らかだろう。


Addio, ragazzinoさよなら、坊や!」


捨て台詞と共に、最期の一発を叩き込む。そうするとやはり撃ち出された散弾は右胸部を破壊せしめ、弱点だったであろう部位には大穴が開いていた。

……終わりだ。僕らは沈黙し、人間型も動く素振りを見せない。そして唯一動いている姉御は、首をぶんぶんと振って前髪を乱しつつこちらの方に振り返る。


「ワンキル……! 次、とどめをっ!」


そして彼女が向く先は、先程昏倒させていた蜘蛛型だ。何とか動こうとしていたそいつの後ろからM870の木製銃床を両手で握った彼女は駆け寄っていき、そのまま高校球児も真っ青なバッティングを蜘蛛型の頭部右側に叩き込んだ。

そして今度もまた胸部右側に銃口を押し付け、超至近距離で弱点部位に風穴を一つ、二つ、三つ、四つと開けてしまった。

……慥かに、攻撃の効果はあった。あとは、これでぶっ潰すことができているかどうかだ……!



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