第15話「武器がなければ勝てるものも勝てません」
……すぐに部屋を飛び出して先行する二人の後を追うと、彼らは階段を降りたものの一旦二階に入っていく。あの化け物に対して攻撃しないのかと僕は少し訝しみつつもその後を追ってみると、彼らは廊下右側のとある一室へと駆け込んだ。そしてそこでは、既に銃器や弾薬類に装備品などが多数置かれていたのである。
「……おっ、と。なるほど、確かに武器は必要だもんな。」
「そうとも、装備無しでの突撃はできないからな。それじゃあとりあえず私からお前に、ひとつ強めのを渡しておく。」
先に部屋にいたタケフミはそう言うと、どこにでもある会議室用の白い大型テーブルの上に乱雑に並べられたデカめのライフルの中の一つを持って僕の方に差し出してきた。
……見慣れたように思えるその姿形だが、彼の掴んでいるキャリングハンドルはそれに異議を唱えるように主張をしてくる。そんな目の前のそれを、タケフミは解説し始めた。
「ほら、こいつを使え。M16A1、フルオートで撃てる割に精度も十分いいやつだ。どうもフィリピン製だな、こりゃ。まあここにある物はだいたいフィリピン製って、それはそうなんだけども。」
「フィリピン? 製造元は中国やロシアじゃないのか?」
「それは昔の話だな。なくはないが、そういう国から入ってくるのは今や主に拳銃とかそういうのだ。密輸ルートも進化したのさ、こういう高級品を持ってこられるレベルまで。」
「なるほどな……そんじゃ、ありがたく貰っていこう。」
僕はそう言って両手で下から持ち上げるようにM16を手に取ると、約4kgの重量が両手にずっしりとのしかかる。いつもながら、ライフルは重いな。
そしてとりあえずグリップとハンドガードを握り、安全装置と薬室内部の弾を確認。安全確保ができているのがセーフティだけというのもあまり良くない気はするが、どうせ外すものだと気持ちを切り替えて弾倉のほうもチェック。そしてそれらを終わらせると、タケフミはまた言った。
「弾はテーブルの上だ、置いてある弾倉は全部実弾が入ってる。1911の弾もちゃんと取っておけよ、泣きを見るぞ。」
「はいよ。……それで、そっちは56式の使用を継続か。もしよかったら、こいつと交換しない?」
「ダメ。AK系は私にとっちゃ隣家に住む幼馴染のようなものだ、そう簡単には譲れないね。
というか第一、あの敵には弾薬の威力は関係ないと思うけど? 体内にある弱点を狙い撃つには初速と貫通力の高い5.56mm弾薬を使う方が有利だし。」
「いやぁ、相手にとっての致命的な弱点を狙うだけが戦いじゃないよ。脚部を破壊して動きを止めるなら威力は最重要さ。7.62mmは、そういう点に関しては本当に強いと思うけど?」
「……ねえアンタたちちょっと待ちなさいよ。アタシその怪物の事何も知らないんだけど、弱点とかってあるの? どこ?」
……そんな風に僕らが弾倉を取りながら弾薬談義をしていると、状況がわからない姉御は少し焦りを見せつつ僕らにそう言ってくる。
そういえば彼女、平山を守っていたんだからわかるはずないよな。なら、この機に現状の再共有だ。
「そうですね、姉御……いや、タケフミも聞いてくれ。
奴の弱点は恐らく、右胸の下側だ。臓器の位置で言うと、胃や膵臓のあたりだな。そこには球状の形をした謎の物質があって、それを攻撃すると倒せる。現状必要だとわかっている火力は、1911……つまり、45口径を1発分だ。ただこれは僕の勘だけど、あの弱点が露出さえしてしまえば何使ったって一撃だろうさ。」
「なるほどね、了解よ。それじゃあアタシは、その弱点とかいうのに散弾ぶち込んで確実に潰すとしましょうか。」
「ワオ、姐さん頭いい! ヒューヒュー!」
「ちょっと、アンタそういうのやめなさいよ! なんか今日あったばかりの割にお茶目癖が凄いわよねアンタって!」
そう言いつつ彼女が手に取ったのは、レミントンM870。12ゲージの弾を撃ち出すタイプの銃だが、よく見ると彼女のそれはチューブマガジンが延長されているタイプの物のようだ。
そして姉御は赤色のバックショット弾をいくつか手に取ってポケットにしまうと、手際よくフォアエンドを前後させていったん装填済みの弾薬を全て排出していく。そしてその最中、彼女はまた僕らに声をかけてきた。
「それで、他に弱点は?」
「勿論ありますとも、姉御。奴等銃弾は効かない割に極端に火に弱くて、火炎瓶1つで行動不能になります。タケフミ、火炎瓶の残りはどのくらいだい?」
「……ごめん、無い。」
「「は?」」
……姉御がM870から排出した12ゲージバックショット弾が、地面に落ちる軽い音。静寂は、僕らの耳にそれを届けてくれた。しかし、それと同時に恐怖と衝撃もだ。
そうすると姉御はがっくりと肩を落として下を向き、僕は彼に詰め寄りかけるギリギリの所で理性を発揮して踏みとどまりつつ問いかける。
「え、ないの? タケフミ、君なら見てたしわかるよね? 火炎瓶ないと詰みだよ? 燃やしてやらないとまともに攻撃できないよ? 銃弾効いてなかったよね? 貫通力の話って、燃やすこと前提だったよ?」
「……もうアタシには何が何だか分からないけど、大丈夫なの? 出入り口が抑えられてるんだから、攻撃が効かないのなら戻るしかないわよ?」
「いや、姐さん、大丈夫。大丈夫、たぶん。
見た限り銃撃自体は肉体を貫通するっぽいし、実際にルースが敵の足を止めて頭部に一斉射撃したら貫通してたから。弱点自体に当たってしまえばダメージはある……と、信じてる。」
「曖昧ね、大丈夫なの?」
「大丈夫でもそうでなくてもやるしかありませんよ、姉御。足止めくらいは最低限できるんだから、僕らもそれくらいの仕事はやってみせましょうぜ?」
と、呆れながら言いつつも僕はなにか使えそうな装備を探す……が、今ある以上の物はどこにもないらしい。爆発物も、火を付ける物も、何も。
まあ、無ければ仕方ない。それに、この世には一度やり遂げた事をもう一度出来ないなどという論理はないのだ。そしてそう考えているのは姉御も同じなのか、彼女は覚悟を決めたような堅い表情で顔を上げて言う。
「……まあ、それもそうね。それじゃあせいぜい、時間だけでも稼ごうじゃないの。
アンタたちと一緒にやるのはいかんせん初めてだから、あんまり信頼できる訳じゃないけど……」
「ちょっと姐さん、私たちは一匹すでに仕留めてるんですよ?」
「そーだそーだ、まあほぼ僕一人の戦果だけど。」
「ああもう、アンタたちうるっさい! いいから戦闘準備よ! 総員、“
吹っ切れたような様子の姉御はそう叫び、特に意味もなく一発排莢。そして彼女が部屋を後にしようとドアの方へ歩き出すと、慌てた様子でタケフミも随行。
……まあ、この戦力ならさっきよりはいい。訓練された殺し屋が仲間なら、ある程度は立ち向かえるはずだ。そして、僕もまたタケフミの後ろから随行していき……そのまま階段近くに来た所で、姉御がまず動きを止めた。更に、それに応じてかタケフミも僕も足を止める。しかしそれで黙っていられるような僕ではなく、姉御に聞いてみる。
「姉御、何してるんです? 早く1階に……」
「階段付近、コンタクト! これより敵大型と交戦するわ!」
……焦った様子の声。しかし、これなら納得がいくな。
なんせ敵は2階に入り込んできたのだ、もう逃げ場などどこにもありはしない。今このタイミングで、完全に敵を排除する……!
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