第3話 謎の青年
女性の声に反応し、莉瀬が咄嗟に振り向くと、そこには莉瀬に蹴りかかろうとするメドゥーサの姿が。
なんとか腕で攻撃をガードするも、莉瀬は勢いよく吹き飛ばされた。
アスファルトの地面に叩きつけられた莉瀬は全身が痛み、すぐには体が起こせず、思わず「うっ」と小さく声を上げる。
状況を把握しようと顔だけ動かすと、莉瀬の方へとゆっくりと歩いてくるメドゥーサとそのメドゥーサの後ろで狼狽する女性の姿が見えた。
「っ....逃げてくだっさい....私は大丈夫なので....!」
「で、でもっ....!」
「はやくっ!」
どうやらメドゥーサの標的は莉瀬のようだ。そのため今のうちに女性には安全な場所へ逃げてもらいたい。
逃げることに少し戸惑っていた女性だったが、莉瀬が少し強めに声をかけると、莉瀬とは反対の方向へと走り出した。
ーー全く近づかれていることに気づかなかった、どこから来たのかしら。それにあんなに小柄なのにただの蹴りでこの強さ....能力持ちね....
まだ痛む体をゆっくりと起こしながら目を光らせ、メドゥーサの能力を確認する。
ー能力:超パワー、全身の力を体の一部分に集中させ強大な力を得ることが出来る。
能力を把握したと同時に立ち上がった莉瀬。幸い今回の敵も能力を無効化してしまえばただの非力なメドゥーサになる。そうと分かれば莉瀬は能力無効化を使った。すると、それを気取ったメドゥーサはそれまでゆっくりと歩いて莉瀬に近づいてきていたものの、突然エンジンがかかったかのように目にも止まらぬ早さで莉瀬めがけて走り始めた。
ーー?!はやいっ!!
能力を無効化しているにも関わらずその速さは驚くべきものだった。あっという間に莉瀬との距離を縮め、莉瀬の腹を目掛けて手を伸ばした。
ーーまずいっ!!
このままでは石化されてしまう。メドゥーサは個体により触れた後の石化速度が違うため、レベルによっては数秒触れるだけで完全に石化する場合もある。そのためこのメドゥーサのレベルや石化速度が分からない以上、触れられるだけでも危うい。触れられるのを避けようと、横に体を逸らしたその時。
鋭い音と共に、メドゥーサの腕がキラキラと光る棒の様なもので貫かれた。メドゥーサは人間のように赤い血は流さない。体の一部に穴が開き、塵が舞うだけだ。しかし痛覚はある。故にメドゥーサは痛そうに唸りながら思わず腕を引いた。
おかげで石化は免れた。だが、莉瀬も何が起きたか分かっていない。助かったと安心するにはまだ早いということだ。メドゥーサから距離を取り、またナイフを取り出し攻撃態勢に入る莉瀬。
だが、莉瀬が攻撃態勢に入ると同時に、一瞬にしてメドゥーサの足元が青白いキラキラと輝く氷のようなもので覆われた。足元が固められ身動きが取れないメドゥーサはその足元を覆われた氷のようなものを壊そうとじたばたと暴れる。
だがメドゥーサがその氷のようなものを壊す前に、メドゥーサの心臓部分が先程腕を貫いたものと同じ棒状のものが刺さり、みるみるうちに塵と化していった。
「....。」
状況が分からず呆然と立ち尽くす莉瀬は、怪訝な顔で塵と化していくメドゥーサを見つめていた。
それもそのはず。メドゥーサが涙を流しながら何かをボソボソと呟いているのだ。
本来メドゥーサは、人間を石化させるだけのただの化け物だ。知能が高く、会話などが出来るメドゥーサは存在するものの、涙を流すメドゥーサなど聞いたことがない。それに、先程の動きも気になる。
メドゥーサは人間が石化を拒むため攻撃すると、反撃し大人しくさせてから石化させるものだが、今回の場合莉瀬がメドゥーサに気づいていない状態だったにも関わらず、メドゥーサはただ後ろから蹴りかかってきたのだ。普通のメドゥーサであれば石化させようと体のどこかを手で掴むはずだ。
「....モ。....クモ。ヨクモ....。」
「....やくも?」
メドゥーサの言葉が聞き取れず首を傾げるが、メドゥーサはその言葉を最後に消えてしまった。
次に莉瀬が気になるのはメドゥーサを退治した
棒状の物が飛んできた方を見上げると、小規模ビルの屋上に見知らぬ青年が立っていた。
柵に手をかけ、切れ長の気だるげな目で莉瀬を見下ろしているが黒のハイネックパーカーで口元は隠れている上に冷淡な顔つきからは全く感情が読み取れない。
ーー助けてくれた....のよね?
「ありがとうございます。」
一先ずお礼の言葉を述べる。だが莉瀬が声をかけたその瞬間、青年は柵を飛び越え、屋上から飛び降りた。
普通の人がその高さから飛び降りれば小規模ビルとは言えど怪我は避けられないだろう。思わず莉瀬もえっ?!と声をあげ、驚きで前に一歩踏み出した。だが、青年は軽々と地面に着地した。
そのまま平然と、ぽかんと口を開けたままの莉瀬の目の前まで近づいてくる。飛び降りた青年よりも見守っていた莉瀬の方が動揺していた。
「なんか....言いました....?」
小さな低い声で青年はそう呟いた。どうやら莉瀬の声が聞き取れず飛び降りてきたらしい。
「い、いえ。ありがとうございますと、お礼が言いたかっただけです。あらためて助けてくださってありがとうございます。」
青年を前に深々と頭を下げる。
「別に。....怪我は?」
メドゥーサに吹き飛ばされ、体のあちこちが痛むものの、大した怪我はしていない。青年のおかげで石化も免れた。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「なら良かった....です。」
「はい。....失礼ですが、あなたは何者ですか?メドゥーサをあんな容易く倒すなんて....」
その時だった。
「莉瀬ちゃ〜んっ!!!!!」
どこからか彩葉の声が聞こえてきた。思わず呼ばれた声の方を向くと、彩葉が手を振りながら遠くから走って来ているのが見えた。
戦い前と変わらない様子で無傷の彩葉は、メドゥーサを一蹴してきたのだ。
「はぁっ、はぁっ....。いやぁー、良かった!メドゥーサ倒し終わって医療舞台と支援部隊呼んでたんだけど、なかなか莉瀬ちゃん戻ってこないから、心配になってー。さっきそこでお姉さんに会って、莉瀬ちゃんのこと教えてくれたの〜。」
「そうなんですね。」
“お姉さん”とは先程莉瀬が助けた女性の事だ。女性の無事を確認できて胸を撫で下ろす莉瀬だった。
「医療部隊と支援部隊はもう繁華街に来てるから、こっちにももうすぐ支援部隊の車が来ると思うよ!」
「そうですか。すみません、色々していただいて。」
「ううんっ!大丈夫だよーっ!あ、お姉さん、首のところが石化してたから治療出来ること伝えといた!....それより、メドゥーサと戦ってるって聞いたけどもう倒したの?流石だね!」
「あぁいや、それは....」
助けてくれた青年の事を伝えようと振り向いた莉瀬の前に青年の姿はなかった。
「....?」
気付かぬ間に音もなくどこかへと去ってしまったらしい。先程青年が立っていた屋上を見るも、そこにも姿は無い。
八咫烏の隊服は着ていなかったため、隊員では無いだろう。だが、何者かも分からぬままだ。
「莉瀬ちゃん?」
途中で言葉を止めた莉瀬を見て不思議に思った彩葉が声をかける。
「あ、えっと。知らない方が助けてくださったんですけど、どこかに行ってしまったみたいで....。多分あの人....すごく強い。戦いにも慣れている感じでしたし」
「そうなの?!見てみたかったなー!あ、それよりお姉さん、すごい莉瀬ちゃんに感謝してたよぉ〜っ。」
「それなら、良かったです。....けどナイフだと限度があります。攻撃には長けていない能力なので....。遠距離攻撃が出来るようになりたいですね....」
「強いのに今以上の高みを目指してて凄いねぇ!....あ!支援部隊の車両が来たよ!」
すると、八咫烏のマークが書かれたワゴン車両が前方から走ってきた。
「お疲れ様です、支援部隊です。ここの処置は自分達が行うので、基地に戻っていただいて大丈夫ですよ。」
「ありがとうございまーっす!」
車両から降りてきた数人が、手際よく作業を始めた。どうやら壊れた塀などは支援部隊が直すようだ。
「任務後は必ずターシェで情報部隊に連絡するの!それで状況を聞いて、情報部隊判断の上で医療部隊や支援部隊が来てくれる感じね!」
「分かりました。」
「で、現場の片付けとかは支援部隊が行ってくれるから私たちは基地に帰って大丈夫!てなわけでぇ、支援部隊に任せて、基地に帰ろっか!」
「はいっ。」
今日から莉瀬にとって八咫烏は帰る場所だ。初任務を無事終えた莉瀬は彩葉と共に帰途に着いた。
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