第3話 歌姫(1)

 君は歌っていた。君は遠くを見て泣きながら歌っていた。

 

 僕は僕が嫌いだ。中学校の頃僕は太っていて、いじめられていた。馬鹿にされるのが辛くて、人と会うのが怖くて、人にこの容姿を見られるのが恥ずかしくて、学校に行けなくなった。何度も行こうと思った。でもいけなかった。それでもなんとか高校からは行きたいと思った。だから勉強とダイエットを頑張った。体重を15キロ落として身長も伸びて人に見られるのが恥ずかしくない容姿になった。勉強も苦労したけど、中堅校くらいには入れた。

 高校に入学し、友達ができた。楽しい毎日だった。しかし教室には1人で過ごしている女の子がいた。いじめられているわけではないけど、あまりよくない噂が絶えなかった。夜に街で見かけたとか家に帰っていないとか。僕は1人になりたくなかったから、その子に声をかける勇気がなかった。見て見ぬふりをした。僕は何も知らない。噂も知らない。

 ある日、街の中で彼女を見かけた。彼女はある店へ入っていた。何も知らないし、僕には関係ない。だけど気になってしまい彼女が入ったお店をのぞいてみた。しばらくすると彼女は店員として出てきた。笑顔で接客をしていた。僕らが通う高校はアルバイトが禁止だ。僕は気づいたらそのお店に入っていた。彼女は驚いた顔で、「誰にも言わないで。」と言った。僕はつい「うん、でもなんで…」と聞いてしまった。彼女は「今日の夜時間ある?」と言った。「うん、あるよ。」と僕は答えた。「それなら、今日の19時にそこのファミレスで会おう。その時に全て話すから、誰にも言わないで。」と彼女は言い、他のお客さんの接客に行った。

 彼女はなぜアルバイトをしているのだろうと考えているとあっという間に約束の時間になった。彼女と合流し、彼女は気まずそうな顔で僕を見つめる。

僕は言った。「無理して言わなくていいよ。何か事情があるんだろうし。その、知られたくないことの一つや二つ誰でも持っているでしょ。」彼女は驚きながら、「ありがとう。あのね、聞いて欲しい。私、お母さんが癌で入院しているの。もう助からないんだ。余命宣告されたの。歳が離れた兄がいて、お父さんもそこそこ稼いでるからお金の心配はないんだけど、家で1人でいると色んなこと考えてしまって、耐えられないんだ。」と話してくれた。そして、「私ね将来の夢があるんだ。歌手になること。でも中学校の時そのことを笑われて誰にも言えなくなったの。自信がなくなった。それ以来人と話すことが少し怖くなって、学校で上手く友達を作れなかった。本当は噂が誤解だってこととか、お母さんが入院しいて辛いこととか誰かに相談したかった。でも話せる相手なんていなくて、1人でいるのが辛いからアルバイトして、貯めたお金でボイストレーニングに通っているんだ。早く歌手になってお母さんに聞かせてあげたい。叶いそうにないけど。」と続けて言った。僕は食い気味に「なれるよ。」と言った。はっとなりながら、「なれるよ、きっと。友達もできるよ。僕がなるよ。名前、詩歌っていうでしょ?素敵な名前だと思っていたんだ。そうか、歌手になりたいんだ。名前にぴったりだね。僕中学の時太ってていじめられていて、学校行けてなかったんだ。学校に来てるだけ偉いし、頑張ってる詩歌ちゃんのこと尊敬するよ。」と言うと、彼女は顔を赤くしていた。「ごめん、そんなに褒められるとは思っていなかったし、名前呼ばれたのも初めて…。友達になってくれるの?学校で話しかけてもいいの?」と彼女が言い、僕も「僕で良ければ」と言った。

 その後も中学時代のことや家族のこと学校のこと、夢のこと歌のことたくさん話して「また明日」と言いながら別れた。早く明日が来ないかなと思いながら眠りについた。

 

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