第26話 『フィガロの結婚』関連(04)


 わたしは長い間、歌劇は単調で退屈なものだと思い込んでいました。オペラの世界は同じような演出の繰り返しで、観客を飽きさせてしまうのではないかと考えていたのです。実際、ミュージカルという新しいジャンルが誕生したのも、そうしたオペラの固定観念から脱却し、新鮮な舞台芸術を生み出そうとする試みだったと聞いています。


このような先入観から、オペラに対して「どうせ大したものではないだろう」と高をくくっていました。しかし、ある作品との出会いが、その認識を根本から覆すことになりました。


 それが『フィガロの結婚』です。この傑作オペラを体験したことで、オペラに対する見方は180度転換し、その魅力に取り憑かれてしまったのです。


この『フィガロの結婚』で一番魅力的に感じたのは、何と言ってもフィガロです。彼の人物像は、複雑で魅力的な要素が絶妙に調和しています。まず、その鋭い機知は、どんな困難な状況でも巧みに切り抜ける術を生み出します。また、不当な扱いに立ち向かう勇気は、観客の心を熱くさせずにはいられません。そして、彼独特のユーモアセンスは、劇中の緊張を和らげ、観客を楽しませてくれます。さらに興味深いのは、フィガロの思い込みの激しさです。この特徴は、時に彼を窮地に追い込むこともありますが、それこそが彼の人間味を際立たせる要素なのです。こうした長所短所が絶妙なバランスで描かれているからこそ、フィガロは非常に身近で親しみやすい人物として感じられるのでしょう。


しかし、フィガロだけでなく、領主の伯爵さまもまた、わたしを魅了してやまない人物です。一見すると、伯爵は横暴でわがままな性格の持ち主に見えます。しかし、よく観察してみると、その表面的な印象の下に隠された、意外な一面が見えてきます。


 それは、どこか憎めない、オチャメな性質です。例えば、自分の計画が失敗したときの困惑した表情や、妻への愛情と嫉妬心が交錯する様子など、人間的な弱さや愛らしさが垣間見えるのです。このような複雑な性格描写があるからこそ、伯爵は単なる悪役ではなく、共感できる人物として観客の心に残るのだと思います。結局のところ、彼の人間味溢れる姿に、私たちは自分自身の姿を重ね合わせてしまうのかもしれません。だからこそ、名作だと言われているのでしょう。


 気の毒な伯爵夫人や、コケティッシュなスザンナ。この歌劇には、さまざまな魅力的なキャラクターが物語を彩り、それぞれが独自の個性と魅力を持っています。伯爵夫人は、その気品と忍耐強さで観客の同情を誘います。彼女の優雅さと内なる強さは、困難な状況下でも失われることがありません。一方、スザンナは、その機知に富んだ性格と魅力的な存在感で、物語に活気を与えています。彼女の機転の利く行動と、時に見せる大胆さは、観客を魅了してやみません。


女性としては、横暴な領主を許す伯爵夫人の姿勢には複雑な思いを抱きますが、彼女の深い愛情と忍耐には感銘を受けます。彼女の内面的な葛藤や成長は、物語に深みを与える重要な要素となっています。一方、スザンナの可愛らしさと聡明さは非常に身近に感じられ、彼女の行動に共感を覚えます。彼女の機知に富んだ対応や、困難な状況を乗り越えていく姿は、多くの観客の心に響くものがあるでしょう。このように、それぞれのキャラクターが持つ特徴や魅力が、この歌劇を豊かで魅力的なものにしているのです。

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