第21話 チョコザップとお掃除当番

鍼灸院の近所にチョコザップというジムがあるんですが、週イチ、鍼治療を受けた後に15分から20分程度、そこのウォーキングマシンで軽く運動してから帰ることにしています。この短い運動は、鍼治療の効果を高めるとともに、日々の健康維持にも役立っていると感じています。


チョコザップは多機能な施設で、フィットネス機器だけでなく、エステやネイルサービスも提供しています。ただし、当日空いていてもエステやネイルは予約が必要です。特にネイルサービスは人気があり、ジェルネイルがいくつか用意されています。地味ですが色も豊富で、季節や気分に合わせて選べるのが魅力です。


そんなチョコザップにお邪魔した2024年8月21日、いつもと少し違う光景に出会いました。掃除用具を手にした先客がいたのです。


その人は、長袖のワイシャツにビジネスパンツを着た30代くらいの男性でした。一見すると普通のサラリーマンに見えましたが、クイックルワイパーを持って、熱心に床を掃除しているのが目に留まりました。その姿は、まるで従業員のようでしたが、どこか違和感がありました。


少し戸惑いながらも、わたしは声をかけることにしました。「すみません、ウォーキングマシン、使っていいですか?」


すると、その人は作業の手を止め、ニコニコ笑いながら、快くOKを出してくれました。その親切な対応に安心し、つい言葉が出ました。


「いつも綺麗にしてくださって、本当に有り難うございます」


わたしの言葉に、彼は少し照れくさそうな表情を見せながら、こう説明してくれました。


「あの、フレンドリー会員というシステムをご存知ですか? 週に1回掃除をすると、会費が1,000円引きになるんです。さらに、週2回だと2,000円引きになります。これ、結構お得なんですよ」


わたしは驚きました。「へー。そんな会員制度があるとは全然知りませんでした! 面白いシステムですね」


彼は続けて説明してくれました。「そうなんです。チョコザップを頻繁に利用する人なら、運動がてらに掃除をすれば、月々の会費が大幅に安くなります。実質的に、月1,000円程度で施設を使い放題になるんです。かなりお得だと思いませんか?」


確かに魅力的な制度に聞こえましたが、わたしには少し躊躇いがありました。「それは確かにお得そうですね。でも、実際にやるとなると、なかなか大変そうです。あなたは本当に偉いですね」


彼の努力を称えつつも、わたしの中では複雑な思いが渦巻いていました。

 なぜなら、1回の掃除で得られる割引額は200円から300円程度。その金額で施設の掃除をするのは、わたしには少し抵抗がありました。家事や清掃の価値はもっと高いはずだと、わたしは考えています。

 しかし、それぞれの価値観や状況が違うのだろうと、相手の選択を尊重することにしました。

 この体験を通じて、わたしは改めて「価値」というものの多様性を感じました。一人一人が自分にとっての価値を見出し、それを追求する。そんな個性豊かな選択肢が存在する社会は、実は豊かなのかもしれません。

     

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