第27話 女騎士なクレイさんはヒモ男と邂逅する

ワタシ、クレイは部屋から少し離れた場所で息を吐いた。


なんなんだ、あの青年は。

急にふらっとやってきたかと思えば、スグハ様や護衛の者共を守りながら、一人でSランクの魔物を倒しただとか、あの悪夢の森をたった一人で突き抜けてきただとか……。


それに今日だってゴブリンを素手で蹴散らしていた。


最初にノアに抱いた感情は不気味だった。

幾らスグハ様を守ったとはいえ、素性が全くしれない人間、それでいてとんでもない魔物を倒してもなお無自覚で。


王女を守ったとなれば一生遊んでいけるだけの資金や、貴族にだってなれるだろうにそれを全て蹴って、ヒモになりたいとか抜かす。


でも、数日ノアを見たり報告を聞いているうちに少し意識が変わった。そしてノアの行動の真意に気づいた。


女のために行動しているのだと。


まぁワタシと関わり合うことは無いだろうと思っていたが、今日こうして会話を交わすことになった。


ワタシはただただ、ノアを良い奴だと思った。

顔を詮索しなかったのはノアが初めて。


しかも口元を見ただけなのに、美人だとか。


……ずっと、ずっと言われてみたかったことを初めて言われた。


本人は何気なく発した言葉かもしれないが、ワタシの心には深く染み渡っていった。


ノアなら、あの青年にならワタシの顔を見せてもいいかもしれない。


そんなことを考えていると、声をかけられた。


「クレイー! そろそろ始まるらしいから、呼びに来たぜ。ってなんで泣いてんの? 」


例の青年だ。ノアはワタシを見つけると駆け寄ってきて、不思議なことを言った。


は……? 泣いている……?

本当だ、何故ワタシは泣いているのだろう。


いや、ノアはなんで気づいた?

疑問が後をたたなくなる。


「女が泣いてたらそりゃ分かるだろ、雰囲気で。甲冑だろうがなんだろうが分かるよそのくらい」


何を当たり前のことを……みたいに言ってくるが意味がわからない。


でもこの青年は、ワタシの心を少しでも満たしてくれたノアは、至って真面目な顔をしていたのだった。


「なんでもない。ただ、少しまつ毛が目に入っただけだ。さぁ、戻ろうか」



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【あとがき】

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