第10話 ヒモ男、狂気な歌から逃げる
地下に封印されていた悪魔っ子ネシア。
「ノア……怖い……」
ひとまず水を飲ませてあげて、しばらく休んで身体をならしたあと封印部屋を出ると、ネシアがそう呟いて、抱きついてきた。足が震えていて、俺に頭を埋めてくる。
あー、あれか……。
ネシアの話から察するに、封印したやつはネシアを無理やりここまで連れてきた。ならば、この階段にトラウマが植え付けられてもおかしくない。
俺はネシアを安心させるべく、ぽんっと頭に手を置いて、優しく撫でた。……こんなの気休めにしかならないだろうけど。
「そりゃそうだよな……目つぶるか? 俺がおぶって、上がることもできるけど」
そう言うとこくりと頷いたので、背中でおぶってやった。
やっぱりこの子デカい。
階段をのぼるたびに、軋む音がしたのだがその度に震えているのが分かった。
あまり怖がらせたくないし、すっ飛ばすか。
「しっかりつかまってろよ? 」
俺はジャンプして、部屋まで一気に登った。
目をつむってたネシアは、物凄く驚いていた。
てかこの子どうしよう。
国王に伝えるのは明日にするとして、今日は俺の部屋で寝かせるか。
「じゃあ、行こっか……ネシア? 」
「このままがいい……」
おぶったままがいいとの事なので、背中に色んな意味で重みを感じながら部屋を後にした。
しっかし、今何時なんだ。
廊下の明かりすらも消えており、真っ暗だ。
「このままじゃ怖いか? 一応明かりつけれるけど」
「ネシア、暗視スキル持ってるから大丈夫……ノアこそ大丈夫なの……? 」
「俺も暗視スキル持ちだから、くっきり見えるぜ。ただな、一つ問題があるんだ」
「人間なのに暗視持ってるなんてすごい……問題って? 」
「今日来たばっかりって言っただろ? ……俺の部屋が分からん。なんなら、お前の部屋に行けたのもただ単に迷っただけなんだ」
「……さっき部屋出た時にほのかに魔法の跡が残ってたから分かったけど、あの部屋……認識阻害がかけられてた」
「え? そんな感覚なかったぞ。ドアノブ握った時に魔力が押し流されてきたけど、部屋自体は普通に……いや、言われてみれば確かに他の部屋に比べて少しだけボンヤリ? してたような」
「ノアすごい……けど方向音痴なんだ……」
「来たばっかだから仕方ないだろー。ま、歩き回ってたらいつか見つけれるだろ」
こうして俺たちは深夜に王城を徘徊する不審者になったのだった。
「……で、こんな時間まで迷ってたわけですか? ダメ男さんすぎませんか♡♡♡♡ 鼻血でちゃう♡♡ 」
「ノア……この女の人なんで血がでてるの……? 怪我? 」
「これは……性癖? ってやつ。怪我とかじゃないからネシアは心配しなくていい。こいつはちょっと、いやかなり特殊な性癖を持った俺の専属メイドで名前が……なんだっけ」
「もう忘れたんですね……あーん、わたしはこんなにダメ男さんのことを想ってるのにー。ミナです! 次忘れたら承知しませんよ! 」
「もう特殊性癖女でいいか? 」
「ひっぱたたきますよ!? 」
「それはこっちのセリフだ馬鹿野郎! どこにご主人様に向かってダメ男さんと呼ぶメイドがいるんだ! 」
「あれ? 王女に向かって初対面で開幕早々俺をヒモにしてくれとか言っちゃったダメ男さんはダメ男さんじゃなないんですかー? 」
「ノア……」
二人してそんな顔でみないでくれ。
「……けど。こんな可愛い女の子を助けたのは素敵です♡ にしても、その話通りだとするとわたしも、本来であればこの子を覚えてるんですかねー? 」
「どうだろうな。案外変人メイドとしてネシアの記憶には残ってるかもしれないぞ。ネシア、こいつに見覚えない? このあほ面したバカメイド」
「ちょっーーーひっど!? ネシアちゃんー! こんなマヌケでアホで女に養われないと生活できないダメ男の言葉に耳を傾けたらだめですよー。今日は可愛い可愛いミナお姉さんと一緒に寝ましょうねー」
「は? い、いやいや……お前にネシアを預けるの心配なんだけど……」
「何言ってるんですか? この部屋で寝るんですよ? ダメ男さんは床で寝て、わたしたちはこのっ! ダメ男さんには勿体ない超ふかふか高級ベッドで寝るんですー! 」
ネシアを抱えて俺のベッドに入り、そういってくる。
「おいこら、自分の部屋に戻って寝ろ、バカメイド」
「やですー♡ というかわたしの部屋ありませんよ? 」
「は? おいどういう意味だ」
「専属メイドとなったものは、ずっと主人の部屋で生活することになるんです。朝も昼も……夜もっ♡ ですから……」
ベッドから起き上がって、俺の目の前に来たミナは、するりと寝間着をめくって、少し肌を見せる。
「ダメ男さんが望むなら、わたしには拒む権利はないんですよ? 」
深夜という時間も相まってか、悔しくもこのバカメイドを綺麗だと思ってしまった。
こんな至近距離で見つめあっていると、そりゃ気持ちも昂ってくるわけで……。
ミナの肩に手をやって、抱き寄せそうになる。
じー……。
すごく見られてる感覚があった。
先を見ると、ネシアがこの光景をガッツリ見てた。
だが、それに気づいていないミナはというと。
「意外と奥手なんですかー? もうならわたしから行っちゃいますよ? 」
そう言って、目をむつって顔をさしだして、せまってくる。
「ちょ、俺は奥手でもなんでもない! 流石に部屋に子供がいる中これはまずいだろ!! 」
「へ? ……あっ……けど別にわたしは見られながらのプレイも平気ですよ」
「俺もいいけど! 子供はまずい! 」
「省略しすぎて、別の意味にしか聞こえません」
このバカメイド、1回殴ってやろうか……。
「ん……眠たい。ノア、ミナ……一緒にねよう」
「えーネシアちゃん、このダメ男もですか? 二人きりじゃダメですかー? 」
「ミナも、ノア好き。だから一緒に寝る」
「ひゃぁ……!? ネシアちゃん!? わたしはこんなダメ男……」
少しの間の後、でれっでれに頬を緩ませたミナ。
「大好きに決まってます〜♡♡♡♡ ダメ男さんだから、眠りにつくまでわたしが子守唄歌って、頭を撫でてあげないと寝れたせんもんねー! 仕方ないなー! ほら、寝ますよ一緒に」
手を引っ張られて、強引にベッドに連れ込まれた。
専属メイドのせいで明日から少し不安だが、拾ってくれた恩を返すために、明日から頑張ろうと思うのだった。こいつだって、初めましての関係なのに、同じベットで寝て、これからずっと同じ部屋で生活するわけだし、本当は怖いだろう。
こいつのことも、守らないとな……。
「ふんふんふふ〜ん♪ わったしのごっしゅじん♪ だめおっとこ〜クーズでバッカで、女ずき〜」
……前言撤回。
「うるせぇよバカ! 寝れねぇじゃねぇか! しかもなんだその歌! 」
「子守唄ですけど」
「目が冴えるような歌は子守唄とは言わん! 」
「ネシアちゃん寝てますよ? 」
すぴーすぴーと寝息をたてている。その寝顔は幸せそうだった。
「まじかよ……あ? ネシア寝たんならもう歌う必要ないだろ」
「何言ってるんですかーこれはダメ男さんを寝かしつけるために決まってるじゃないですか」
「俺のだったの!? 」
「ふんふんふ〜ん」
や、やばいーーー!
またあの狂気な歌が始まる。
こいつには悪いが俺は、【睡眠魔法】を自分にかけて、意識を手放した。
「ーーーあれ、寝ちゃってる。……それもそっか。今日来たばかりだし、疲れも溜まってるよね。しかも0日目からこんな女の子救出しちゃってさ。わたしのご主人様……んっ、しょっと。えへへ、ぎゅ〜!おやすみなさい! こうしてみると親子みたいですね? 」
一人で好き勝手喋るミナであった。
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【あとがき】
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