第7話 ヒモ男、専属メイドをGETする

1時間ほどで、俺の部屋なるものが完成したから見て欲しいと言われ、ついていく。


俺一人には勿体ないくらい広く豪華な部屋だった。


「……ベットでかすぎない? 」


10人……いや、下手したら20人くらいは入れそうなほど大きいベットが鎮座しており、威圧感を放っている。


ここまで案内してくれたメイドさんは、苦笑いしながらも伝えてきた。


「これは国王様からの指示ですね〜。なんでもスグハ様のヒモなるお方が今日から城に住まわれることになったから、急いで部屋を用意しろだなんて言われてビックリしちゃいましたよ。しかも全部わたしに一任されちゃったんで、時間がかかっちゃいましたけど」


へー、この子一人で全部用意してくれたのか。


「ここ空き部屋だったの? 」


「そうですねー。ですから、埃被ってるとこが多々あったり、根本的に汚れてたり。たいへんだったんですからね! わたし、王城仕えで初めて、ヒモ男のためにここまで働きましたよ」


「君から見て俺はダメ男? こんなんが専属護衛騎士ってマジ? みたいな? 」


「……? 」


不思議そうに首をかしげる。あれ……?


「スグハ様やガルド様方を助けて、SSSランクの魔物を瞬殺したんですよね? 別に専属護衛騎士になってもおかしくないんじゃないです? そ、それにわたしはあなたみたいな……」


「こんなんだぞ? 俺。褒美は何が欲しいと聞かれて、ヒモになりたいとか抜かすやつだぞ? 自分でもおかしいのは自覚してるんだが……」


ドアがノックされて、隙間からこちらをのぞいて、もう一人メイドさんが入ってきた。


「ミナ、例の人の部屋の片付け終わった? ……あら、もう呼んだのね。不思議そうな顔してどうしたの」


カクカクシカジカ。


「はー! そういうことでしたか。ノア様、ミナは、身の回りの世話を1から10までやらないといけないような自堕落でナマケモノでクズみたいなことを平気でやってのける、典型的なダメ男がタイプなのですよ」


「え」


ミナを見る。

こんな誠実そうな女が……?


俺と目が合ったミナはぽっ……! と顔を赤らめる。

反応を見るに、まじっぽい。


「と、こんな感じなんでミナのこともよろしくお願いしますね。本人は多分言ってないと思うんで、バラしちゃいますけど、ほんとは数人体制でノア様のお部屋を作って、身の回りの世話も担当する手筈だったんですが、ミナがどうしてもわたしが全部やると豪語して、それに専属メイドになるとまで立候補したので、こうなったんです。そういうことなんで、自分はこの辺で。……申し遅れました、名前はトカリスです」


そう言って、部屋を後にした。

きまづい空気が流れる。


「ぜ、全部バラされちゃいましたね。清楚ぶろうとしてたのに台無しじゃないですか! ああ、もうバレたなら開き直ります。そうです、わたしは貴方みたいなダメ男が好きなんです! ですけど、王城にそんな人はいなくて! いや、正確に言えばいますけど、性格がタイプじゃなくて。ノア様はよさそうだなーと♡ ダメ男さんこれから可愛がってあげますからね♡ 」


「よ、よろしく……」


こうして、最初から好感度MAXなミナが専属メイドとなったのだった。


にしても、こうもトントン拍子で俺が夢見た生活のピースが組み上がっていくとは、驚きである。


これでは、国外追放して王国という居場所を教えてくれた帝国に感謝しなくては行けなくなるが……。


いや、アリサの件があるから感謝は絶対しない。

いつかぶちのめしてやる、あのクソ皇帝とクソ勇者。


闘志に萌える俺を、きょんと見つめるミナの瞳の奥は既にハートマークだった。

俺としてはありがたいからいっか。


「早速ですが、ダメ男さん。今日はもう自由に過ごしてくれと国王様よりお達しがありましたので、くつろいでいいですよ。わたしとしましては、その……わたしに城を案内させてーーー」


「ノア様遊びに来ましたよ〜! お父様が今日は好きにしていいと言っていたので、私にお城の中を案内させてください!……あっ、ミナさん! ノア様の専属メイド就任おめでとうございます! ちょっとノア様と部屋を出ますね! 」


「おースグハ。是非城を案内してくれ。……ミナなんか言いかけてたけど」


「……いえ、なんでもありません。お気を付けて行ってらっしゃいませ」


「そ、そうか。別に外に出るわけじゃないだろうから、気をつけることはないだろうけど」


スグハに連れられて、俺は部屋を出る。

ドアを閉める際にちらっと隙間から見えたミナの表情はなんだか悲しそうな顔をしていた。



「……にしても広いな」


「でしょ! でしょ! この廊下も長くてね、子供の頃よく走り回ってたんだ」


すごく想像出来てしまう。


「スグハは元気っ子だもんな」


あまりにも想像が容易かったせいか、ポロッと口にでてしまった。


「王女なのにはしたないとか思わないんですか? 」


「思わん。てか子供の時だろう? 長い廊下がありゃ誰だって走るさ」


「では、走ってみましょっか」


「待て、なんでそうなる」


「ふふ、行きますよ! 」


俺の手を取ったスグハは、掛け声とともに走り出す。

引っ張りにつられて俺も走り出す。


おいおい、この王城サマ元気っ子だなとは思ったがここまでとは思ってなかったぞ。


ちょうど反対から歩いてきていたメイドさんもびっくりしていたが、次第に手を振っていた。


つられて俺も手を振っておいた。

して、前に向き直りーーー


「ちょ、スグハ前! 」


俺と同じようにのんきに後ろを見て手を振っていたスグハに急いで声をかける。


「きゅ、急には止まれません〜!? 」


そう、人が歩いてきていたのだ。

さっきのメイドさんは端っこ歩いていたが、この人はど真ん中で。


今から急に止まっても、激突は免れない。

相手を怪我させてしまってもまずいが、スグハを最優先で守らなくてはいけない。


なぜって俺は、ヒモ男(せんぞくごえいきし)だからだ!


「ルビが反対ですよ〜」


何か言ってるスグハを抱き抱えて、俺はジャンプ。

通行人を飛び越えた先に、着地する。


ふぅ、と一息はいて、スグハを下ろす。


「スグハ? 」


「えへへぇ〜またお姫様抱っこされちゃった」


「なんだ、そんくらいいつでもしてやるよ」


「嬉しいですっ! 」


俺は後ろを向いて、通行人に謝った。


「いいんですよ〜スグハ様は昔からこの廊下を走るのが大好きでしたからね。あの時のことを昨日のように思い出します……それがもう今は隣に殿方をお付けになられるとは」


口ぶり的に、昔から城で働いている人なのだろう。


「あー俺は別に殿方とかじゃないんだが……」


「あらそう? でも、スグハ様をお姫様抱っこするなんて、そうとしか考えられなかったわよ。……もしかしてさっきお達しがあった人かしら? ええと、ノア様でしたでしょうか? 」


「そうそう」


「ヒモなら、殿方と言っても差し支えないんじゃないですかね。それに、先程の機転も流石でした。あの一瞬であの身のこなしができるとは。流石、ヒモ……専属護衛騎士様、どちらで呼べば? 」


「どっちでもいいよ。好きな方で」


「あら。じゃあヒモって呼ぼうかしらね。ではまたね」


そういって去っていった。

城の人たちの俺への呼び名が躊躇無さすぎる……!


いやまぁ、好きに呼んでくれていいけど、そこまで間髪入れずヒモ呼びすることある!?


ミナなんてメイドのくせして俺をダメ男さん呼ばわりだぞ!? この城どうなってるんだ。


嫌なのかと問われたら……


全然嫌じゃないです。

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