第80話


「…ここか」

「これはまた」

「おかしいなぁ?職員にはキチンとメンテするように言ってあるんだが」

 目の前に建つのはボロいマンションのような作りの三階建ての建物。大通りから少し入ったところなので立地は申し分ないのだが。


「こりゃ、建て直した方がいいぞ?」

「これだけ朽ちてればな」

 とてもじゃないが住める環境ではない。

「はぁ、これは帰って説教だな」

 ポートは呆れているが、これは建て直すのもありかな?

「ここはいくらだ?」

「ん?建て直すのか?」

「一応聞いてみてからだな」

「ふむ、元が白金貨50枚だからな、解体費と土地代で白金貨10は欲しいところだな」

「よし、買った!」

 土地代だけでも白金貨10は行くと思ってたのだが、解体も込みなら安いだろう。

「まぁ、うちの儲けはゼロだが、ルシエ達のクランハウスだからいいだろう!」

 ポートとギルドに戻り、契約を交わす。


「建築に当てはあるか?」

「無いな。できれば紹介して欲しい」

「なら『ブラウン』のガイツの知り合いで腕のいい大工がいるからそこを紹介しよう」

 紹介状を書いてもらいギルドから出る。


 大通りを歩き『ブラウン』のある鍛冶屋街に向かう。

「ほんとによかったのか?結構かかるぞ?」

「まぁ、これから住むところだからな。金なら王様からもらったのを使うさ」

「あぁ、あれな!そうだった、ルシエは金持ちだったな!」

 金持ちでは無いが、使うところには使わないとな!


 ガイツにも会いに行かないといけないので『ブラウン』に来た。

「ガイツはいるか?」

「親方ぁー!ルシエさんが来ました!!」

 もう弟子君も俺の顔は覚えてくれたようだ。

「お!おう!お前ら大丈夫だったか!」

 慌てて顔を出すガイツ。

「心配かけたな。大丈夫だ!革は出来てるか?」

「おう!バッチりだぜ!」

 丸まった皮を広げて見せて来る。自分でやるつもりだったが、バッグ作りはミリムに任せてみよう。


「あと、クランハウスを作ることになった」

「なに!どこに頼むんだ?」

「『ブラック』って店だな」

「よっしゃ!そいつなら知り合いだ!任せろ!」

 と俺の腕を取って外に出る。

「お、親方!仕事が!」

「待たせておけ!行くぞ、ルシエ!」

「お、おう」


『ブラック』と言ういかにもな名前だが外観は綺麗な建物で中に入ると事務所のようだった。

「おう!ビルドはいるか?」

「ん?なんだガイツじゃねーか!人間なんて連れてきてどうした?」

 出てきたのは丸メガネをかけたちょび髭のドワーフだ。


「こいつはルシエ!俺はこいつに借りがある!そしてこれだ!」

 とテーブルに叩きつける。

「ん?これはギルマスの紹介状か。ふむふむ、あそこを解体するんだな、分かった。クランハウスを一から建てるなんてけっこう金かかるぞ?」

 丸メガネを光らせクイっと持ち上げるビルド。


「白金貨100じゃ足りないか?」

 少しくらいなら足が出ても大丈夫だが?

「ひゃ、100?!お前は豪邸でも作る気か!!」

「ガハハハ!さすがルシエだ!」

 そんなに驚くことか?

「たまげたねぇ、よし!じゃあ、図面を書くから要望を言ってくれ!」

「風呂は…」

 と俺は要望を言って、ビルドがサッサと図面に起こして行く。


 3時間ほど『ブラック』で過ごして案を出していたので疲れたな。

「ガハハ!手を抜くなよ?ビルド!」

「誰にもの言ってんだ?こんな楽しい建築は久しぶりだ!」

 結局三階建てで地下も作ってもらうことになり、敷地ギリギリまで建物として使うことになった。


 金額は白金貨50枚だ。ひとまずはそれで足が出るようなら早めに声をかけるとのことだった。


 さて、ビルドとガイツにお礼を言って宿に戻ると、ミリムを呼んでカバン作りだ。

「革製品ですか!なら道具が入りますね」

 かなり道具がいるようで明日買い物に行くことになった。

 流石にもう日が暮れてきているからな。


 それからみんなが下に来るまでに色んなバッグを描いているのを見ていた。

 なかなか上手に描けている。

 まぁ、元は20代だからな。


 みんなが下に降りて来ると宴会だ。

 簡単な図面はもらってきたのでそれを酒の肴にしてみんなで騒いでいる。

「私ここの部屋!!」

「私はここ」

「ダメですよ!ルシエの隣じゃないですか!」

「俺はここだな!」

「バカは高いところが好きだからねぇ」

「なんだとアビー!」

「ラビオンにはお似合いだな」

「ウリンまで!」

 と楽しそうに話をしている。やはりクランハウスは建てて正解だな。



 その日の夜はネイルが来た。

「みんな楽しそうでしたね」

「そうだな。これで俺も一国一城の主だな」

「うふふ、やっぱりルシエは凄いですね。置いてかれないようにしないと」

 ネイルはそんな風に思っているのかな。

「置いて行かないよ。ネイルもみんなも」

「絶対ですよ?」

 俺の胸に顔を埋めるネイルの頭を撫でる。


「ルシエはやっぱり優しいですね」

「そんなことはない。俺は自分勝手だよ」


「そう言うのって自分では言わないんですよ?」

「そうか?」

「ルシエは優しいです」

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