第79話


 スラールを出発してから10日が経った。

 13人の旅はなかなか賑やかだ。

 荷車もいっぱいなので御者台にラムザ、ミリア、ミリムの3人がローテーションで御者を覚えている。


 ようやく迷宮街が見えてきた。

 梅雨に入るかと言うところで、やはり雨が降ってきた。流石に後少しなので強行して進む。


 迷宮街に入るとすぐに宿に入る。

「おばちゃん!ただいま!!」

「あら!ラビオン!みんなも!おかえり」

「部屋は空いてるか?」

「あいよ!って随分多くなったわね。四人部屋が三つ、後一人部屋が二つしか空いてないよ?」

「じゃあそれ全部で!」

 俺とアイラとラムザはびしょ濡れだ。

「じゃあ、着替えて来る!」

「私らはブラハムの世話して来るよ!」

 アビーとウリンはブラハムの世話に走る。


 部屋割りはアビーとリミ達で一部屋。ミリム、ミリア、ラムザ、スロウスで一部屋。グレン、ウリン、ワルツで一部屋。ラビオンと俺は一人部屋だ。

 

「ふぅ、ようやく落ち着いたな」

「だね」

 宿の中は蒸し暑く、日本の梅雨時期を思い出すな。あちらはクーラーがあったからいいが、ないとこんなにも不快なんだな。


 やっと戻ってきた迷宮街ブランドーはさほど変わった感じはしない。と言うか変わっていたらそれはそれでビックリするが。

 懐かしさを感じながらここを新たな拠点にするために明日から動かないといけないな。


 今日はもう動くには遅いし、雨も降っているので久しぶりに練金釜を取り出す。

 チョコのストックが切れ、飴玉も少なくなっている為、作っておかないといけない。

 カカオはまだ収納に沢山入っているのでチョコの心配はしないで済むが、砂糖を大量に使う為、金がかかる。

 どこかにサトウキビでもあればいいのだが。


 あとはポーションを作っておく。

 ラビオンとウリンが『憤怒のラース』と戦った時に使ったと言っていたのでやはり最高級ポーションは必要だ。

 材料は揃っているので何かの時のために一人一本は持たせておかないとな。


“コンコンコン”

「誰だ?…ミリアとミリムか」

「お邪魔でしたか?」

「いや、錬金をしていたところだ」

「そうなんですか?錬金術も使えるなんてすごいです!」

「まぁ、入れ。で?どうしたんだ?」

「採寸をしたくて」

「あ、あぁ、服を作ってくれるのか?」

「はい!」

 ミリムはファッション関係の仕事をしていたらしいからな。

「あまり奇抜なのはやめてくれよ?」

「あはは!ルシエさんも気にするんですね」

 俺をなんだと思ってるんだ?


「それにしてもいい香り」

「甘い…チョコ?」

「食べるか?今作った」

「「食べます!!」」

 二人にチョコを渡して食べてもらう。

「美味しい…こんなに美味しかったんだ」

「久しぶりです。チョコソースにしてアイスにかけたいですね」

「ふむ、アイスか」

 作ろうと思えば作れるのか、だが冷やすのに冷凍庫もないしな。


「あ、アイスなら作り方わかりますから今度材料が揃ったら作りますね!」

「そうか、ほかには何か作れないものはあるか?」

「お菓子なら材料費と道具があればある程度は、あ!チョコは無理ですね」

「そうか、うちには甘いもの好きがいるから助かるな」

 リミや精霊、アイラ達にスロウス、ラムザと子供もいるしな。

 

「錬金術ってどんなものでも作れるんですか?」

「まぁ、ある程度の知識と素材、あとは想像力があればな」

「だったら、針なんかの小さなものはできますか?」

「売ってるのじゃダメなのか?」

「売ってるものは不揃いで太いんです」

「そうか、他に必要なものは紙に描いてくれるか?」

 と紙とペンを渡して、俺は練金釜の前にいき、鉄屑をいれると錬成する。


「これでいいか?」

「はい!ありがとうございます!あとは…」

 ミリムの描いた通りのものを作っていき。裁縫道具は種類があることを初めて知った。

 いや、小学生の頃に使った記憶はあるかな?

 まぁ、ミリムが納得出来るものが作れてよかった。


 次の日もあいにくの雨だ。梅雨だから仕方ない。

 ラビオンと一緒にギルドに顔を出すと、

「ルシエ!ラビオン!よく帰ってきたな!」

 とポートが抱きついて来るのでラビオンを押し当てる。

「や、やめろ!気持ち悪い!」

「な!何故またラビオンなんだ!俺はルシエを抱きしめたつもりだ!」

「それもどうかと思うぞ?」

 ギルマスのポートが応接室に案内してくれる。

「で?聞いたが王都に行ってたんだろ?」

「あぁ、それが…」

 俺とラビオンで王都の話をすると目を丸くして驚くポート。

「じゃあ。王は無事なんだな?」

「あぁ、そう言うことだな」

「そうか。で?こっちに帰ってきたのは?」

「クランを作った。『クラウド』と言う」

 ポートは目を見開き笑顔になる。

「そうか!ならクランハウスが必要だな!!よし!いいところを紹介してやる!」

 と言って外に出て行く。

 残された俺とラビオンは顔を見合わせて笑ってしまった。


「またせたね!持ってきたよ!」

 資料を抱えて走ってきたようで息が切れている。

「この街にもいくつかクランはある。『竜炎』『スティング』や『DMMデータ・メイン・マニュアル』情報屋なんかもある。まぁ、Cランククランばかりだ」

 非公認クランがそんなにあるんだな。


「まぁ、お前たちはまBランククランになるだろ?入りたがる奴は多いと思うぞ?」

「いや、俺たちは別に募集しないからな」

「そうなのか、ならこちらも公表しないでおこう」

 変なのが彷徨いても困るからな。


「じゃークランハウスの条件を聞こうか?」

「部屋が多い、調理場がある。後風呂もあればいい」

「風呂か…なら絞られるな。ここはどうだ?三階建てで一階に風呂、二階と三階に部屋が八部屋ずつあるぞ?」

「見に行けるか?」

「あぁ!行こうか!あはは、こう言うのはワクワクするな!」

「お前がワクワクしてどうすんだよ!」

 ラビオンの言う通りだが、俺も少し興奮している。





 

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