第63話


 歓楽都市ダラーに入って2日目。

 ダンジョンに入る準備を整えた俺たちは、ようやくダンジョンに向かう。


 ダラーにあるダンジョンは歓楽街から離れており、迷宮街にあるダンジョンの様にピラミッド型ではなく、建物の中にあるようだ。


 大通りを抜けて街の反対側に位置するどちらかというと貧民街にあり、入っていく冒険者に対して『スリに注意』の看板が立っているほど治安の悪い場所だった。


「それなのに結構冒険者が並んでるな」

「子供が多いけど何故かしら?」

 冒険者の列の横に子供達が並んでおり、時折冒険者について行っている。

「さぁ?冒険者になりたいとかか?」

「ならギルドに行くでしょ?」

「そりゃそうか」


 そして子供達の前を通過するときにそれは分かった。

「荷物持ちます!雇ってください!」

「僕の方が沢山持てるよ!」

「必ず役に立つのでお願いします」

 と子供が並んでるのは雇って貰うためだった。


「ルシエ、無視しなさい。子供を危険なダンジョンに連れて行くのはダメよ!」

「分かってる!」

「おい、握らないでくれ」

 その場をなんとか乗り切って中に入る。


「さすがにあれはきつかったな」

「甘い顔しちゃダメ、あっちも生活がかかってるから必死なのよ?」

「だな、あまり通りたくはない場所だ」

 全ての子供を助けられればいいがそんなことは無理だから手を差し伸べることが出来ない。

 

「ここから切り替えて行こう!」

「「「「はい」」」」


 ダラーダンジョン1階層はスライムがいるだけであとは前の冒険者についていけば下の階に降りていける。

 2階層、3階層と少しモンスターが強くなるが問題なく進んでいく。


「さすがにここら辺は何もないな」

「そうね、宝箱なんてあってもすぐ取られちゃうだろうしね」

「サッサと降りよう」

「だね!!」

 10階層まで降りる、ボス部屋があるのは迷宮街と変わらない。


 中に入るとゴブリンウォーリアだったので、サクッと倒してドロップを拾い、宝箱を開ける。

「久しぶりの指輪だ!」

「『力+3の腕力の指輪』だな。誰が着ける?」

「そうか、ルシエは『鑑定』持ちだったな!」

「俺が着ける!いいか?」

「ほい、ウリン」

 リミがウリンに渡すと喜んで着けている。


「いやぁ、『鑑定』持ちがいるといいな!俺たちはギルドに持って行かないと何かわからなかったからな」

「普通はそうよ?ルシエが特殊なだけでしょ」

 まぁ、そうなるな。


「さぁ。チャッチャッと行こうか!」

「そうね!」

 8人で行動しているのでウリンとネイルが前を歩き、俺がその後を追い、ワルツがアビー、アイラ、リミを守って、殿にラビオンの陣形で進む。


 11階層、16階層で夜を明かし、20階層まで進み、ボス部屋の前で休憩する。

「久しぶりに1階層からだと長く感じるな」

「ですです。いままで転移陣で10階層毎で攻略してたからこんなに潜ってるの久しぶりですね!」

「まだモンスターも弱いけど気を抜くなよ?」

 と言いながら交代で休憩してボス部屋の中に入る。


「あ、オークウィザードですね」

「リミよろしく!」

 オークソルジャーを5体召喚するオークウィザードの頭に矢が刺さる。

「後よろしく!」

「おう!」

「ガハハ!かかって来い!」

 ワルツと2人で5体討伐しドロップを拾い、宝箱を開ける。

「ん?ブレスレットだな」

「『俊敏+3の疾風のブレスレット』だな」

「はい!私つけたいです!」

「なら俺もつけたいぞ!」

「はいはい!私も!」

 ネイル、ワルツ、リミがじゃんけんをして勝ったのはワルツ。

「ガハハ、悪いのぉ!」

 ワルツは着けるが、+3くらいじゃ実感はないだろうな。


 20階層からは4〜5の編成で群れてくるモンスターが多くなる。

 まぁ、適正じゃないので余裕を持って攻略できるんだがな。


 20階層から29階層迄でまた3回ほど野営をする。


 珍しいモンスターも出ないまま、30階層へ足を踏み入れる。

 ボス部屋に入るとオーガバスターが大剣を構え3体同時に出てくる。


「ラビオン右!ワルツ左で!真ん中は俺がいく!遠距離は隙を見て攻撃だ!」

「「「「了解!」」」」

 俺はオーガバスターの大剣を見切り、すぐに首を刎ねる。横を見るとラビオンも問題なく倒していた。

 あとはワルツと思ったが、ワルツは盾で吹き飛ばした様でオーガバスターが壁に突き刺さり消えて行くところだった。


 ドロップはオーガの牙、オーガソードだった。

「よし、宝箱ですね!」

「もうネイルも一人前だな!」

「えへへ、ですです!」

 宝箱を開けると、『ゲイルダガー』が入っていた。

「ゲイルダガーか、ネイル使うか?」

「私はガイツさんのダガーがありますから」

 と腰につけたダガーをポンポンと叩く。

「俺もあるから収納しといてくれ」

「了解」


 順調に進んでいるが、31階層。

 空気が変わり果てしない空と大地に切り替わる。

 


『ガキが調子こいてんじゃねぇ!!』

『ウッ!!ゴハッ!』

『うへ、汚ねぇな!こっち寄んな!!』

 何か声がするので近くに行く。


「お前ら何やってるんだ?」

「あ?見てわかんだろ?躾だ、し、つ、け!」

 男達4人に囲まれているのはボロを着た少年?

「あー、お前らもういいから、サッサと退け!」

「なんだ?てか8人で攻略か、何考えてんだ?」

「ここは俺が1人でいい」

 ラビオンが前に出て行く。


「は?おっさん、頭にウジでも沸いてんじゃねえの?」

「サッサと失せろと言ったよな?」

“ドカッ”

 ラビオンが殴った男は吹き飛んで倒れた。


「な、なんだよ!べ、別にお前らに関係ないだろ?」

「ん?関係ないが、虫唾が走るんだよ!」

“ガンッ”

 胸ぐらを捕まえ頭突きでまた1人ラビオンが掴んだままグッタリしていた。

 俺たちは手を出さずに見ているだけだ。


「わ、分かったから!勘弁してくれ」

「サッサとこの汚い物を持っていけ」

 胸ぐらを掴んだやつを放り投げる。

「く、クソが!覚えてろよ!」

「大丈夫か?いいから逃げるぞ!」

 男達が逃げた後に残された少年は気を失っている様だ。


「…悪ぃ!やっちゃった!」

 戯けてみせるラビオンは誰よりもカッコよかった。

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