第57話


 王国は新しい人事を早急に実行する。

 そして亡くなった人々の弔いをし、残った家族に手厚い補償を行った。

 また、今回の事で活躍したものへの報酬を渡すとのことで、俺とアイズ、マリンは公爵と共に登城する。


「報酬か!なんだろうな!」

「アイズ、うるさいぞ?」

「なんだよ!いいじゃないか!ね!公爵様」

「まぁ、いいだろ」

 公爵も苦笑いじゃないか。

 テンションの高いアイズを放っておいて、馬車の揺れに身体を任せる。


 王城に到着すると流石のアイズも静かになる。公爵に続き階段を登っていく。

「うぁ、緊張してきたな」

「ここからは静かにな」

 公爵に言われ、黙るアイズに少し笑う。


 扉が開くと公爵の後をついて行き、膝をつき頭を下げる。

「おもてをあげよ」

「は!」

 顔を上げるとまだ若い宰相や大臣たち。

 新しい王国を作っていくのだろう。


「アーガイル公爵、貴殿は…」

 公爵は王国名誉黄金勲章を叙勲されている。


「『SODスピア・オブ・ディスティニー』クラン代表、アイズ。貴殿は…」

 アイズは騎士爵を叙勲された。準貴族だが、これでクランにも箔がつくだろう。


「冒険者ルシエ、貴殿はいち早く鼠毒の被害を発見し、これを解毒ポーションをもって解決した。合わせて、『強欲のグリード』を倒すのに尽力したとしてここに男爵を叙勲する」


「え…」


「貰うのが普通だ」

 公爵から声をかけられ我に帰るが、俺が男爵?なぜだ?


「不満か?」

 王が俺を見てそう言うが、不満ではなく今ここで言わないといけないのか!…仕方ない。

「申し訳ありませんが、その叙勲は辞退させて頂きます」


「なぜだ?理由があるのだろう?」

 王が俺を見ている。その他の者は不思議そうな目や侮蔑の目をしている。


「私は冒険者です。男爵の爵位を叙勲させていただくと冒険は出来ません。ですので」


「…ぷっ!あーっはっはっは!いや、悪いな。アーガイルからも言われておったが、この国に欲しい人材だったのでな!」

「な…」

 王が笑い、皆んなの目がそちらに向く。


「お戯れがすぎます」

 新しい宰相が王にチクリと注意する。


「まぁ、許せ。だが、この国に欲しいと思ったのは本当だ。しかし残念。よし!では白金貨100枚を下賜することにしよう」


「あ、ありがたき幸せ」


 これで良かった。

 久しぶりに会社を、それも最悪のプレゼンの時を思い出したぞ。

 俺は脂汗が顔を伝うのを感じながら謁見の間を後にした。


「ルシエは男爵で私が騎士爵なのがきにくわぬ」

「ん?そんなことどうでもいいだろ?」

「そんなことではない!今回は私が主役だろ!」

 アイズが何か言ってるが、爵位をもらってないんだからいいだろ?


「聞いてるのかルシエ!」

「はぁ、俺は男爵には興味ない」

「く!まぁいい」

 ただの八つ当たりだろ。


「さて、着いたな。少し話がある」

 公爵からそう言われて屋敷に入り書斎に招かれる。

「話というのは何故男爵の話を断った?」

「言った通り私は冒険者です」

「ふむ、そうか。俺はお前が男爵になってくれればいいと思った」

「…それは」

 父親だからか?ルシェールはもう死んだんだ。

「公爵はお前に継いでもらうつもりだったが、今はレビンに家督は譲ると決めた。だからお前にやれるものがなくてな」


「必要ない。俺はルシエ、自由があればそれでいい」

「…そうか、だが忘れるな。いつでも帰ってこい」

「…分かった」


 帰る場所か…今の俺には帰る場所があるからな。

 でも顔くらいなら見せてもいいかもな。



 それから公爵家を後にし、貴族街を通って宿に戻る。


「あっ!帰って来た!」

「おかえり」

「おかえりなさーい!」

「…ただいま」

 抱きついてくる3人を受け止め、帰って来たなと感じる。


「ねぇねぇ、どうだったの?王様何くれたの?」

「フッ、フハハハハハッ!!」

 リミは変わらないな。

「な、なんですか?どうしたんですか?」

「ルシエが壊れた」

「悪いな。王様からは白金貨100枚だ」

「「「えーー!!」」」

 そう、これがいいんだよな!


「ど、どうした?!って、ルシエか」

「ガハハ、ルシエ、どうだったんだ?」

「は、白金貨100枚だって!!」

「「「「なーーー!!!」」」」

「あははは」

 この自由と引き換えに爵位は釣り合わないな。


 その日は奢りでみんなで飲んで騒いだ。

 次の日が宿に篭ることになったが、後悔はしてないな。


 そして、帰る日になった。


「あー、もう帰るのかぁー」

「なんならリミはここに住むか?」

「ぶー!イジワル!」

「住みなよ」

「そうですね」

「2人までそんなこと言わないでよね!帰る!帰ります!」

 リミ達も目一杯買い物を楽しんだからいいだろ?


「はぁ、またいつか来ようね!」

 アビーもしっかり買い物してただろ?

「いや、残っていいぞ?」

「ガハハ、そうだな」

「まぁ、気が済むまでどうぞ」

「…火ぃつけるぞ?」

「「「嘘嘘ウソでーす」」」

 …ラビオン達も大変そうだな。


「じゃあ、出発!ブラハムよろしくな!」

“ブルルルルルルッ!”

 今日も機嫌がいいな!ブラハムに乗って迷宮街ブランドーまでゆっくりと帰ることにする。

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