第56話
俺は砂になる怪物を知っている。
だからポイントを奪って剣を振るう。
兵士や貴族は斬ると砂になってしまうが、俺の精神もすり減っていく。
マリンが『状態異常解除』の魔法を使っても無駄だった。
元は人間を殺すのはやはり嫌なものだ。
「それにしても、人間が砂になるなんてな」
途中からマリンにはアイズの方に行ってもらったのだが。アイズも苦戦したみたいだな。
アイズを介抱しているマリンに声をかける。
「アイズは大丈夫か?」
「はい、回復はかけました。なので今は眠ってるだけです」
マリンに抱かれ眠っているアイズを見ると血に塗れていた。
「アイズの敵はそんなに強かったのか?」
「アイズと瓜二つでした」
「ん?どう言うことだ?」
マリンはこちらに身体を向ける。
「事情は途中からでしたので分かりませんが、そっくりの敵と戦ってました」
「そうか、…自分と戦う、か。まぁアイズが起きてから詳しく聞こう」
「そうですね」
と謁見の間を見渡すと、緑色の宝石が落ちている。既視感があるその宝石は、『強欲の命石』と言うものだった。
「アイズが苦戦するわけだ。相手は『強欲のグリード』だったようだな」
『強欲のグリード、その獣、狐人の姿をしており変幻自在に全てを奪い去る』
変幻自在だからアイズに化けたのか。
宰相にも化けてたみたいだしこの国を乗っ取るつもりだったのか?
待てよ、ダンジョンから出て来ている?
残りの4匹ももう出て来ている可能性があるよな。
「これはやばいな」
俺はマリン達を置いて王と公爵を探しにいく、と案外近くにいてビックリした。
「ここにおいででしたか」
「あぁ、お前たちが負けるとは思っていなくてな」
「いや、安全を考えてもう少し遠くに行ってもらってた方が良かったですよ」
「ハハハ、まぁ、倒したのだろう?それで十分だ」
と王が笑うが、多分笑えないことになっている。
謁見の間に戻ると王と公爵は唖然としていた。
「すべての人間が、『傀儡』になっていたので、このように斬ったら砂になってしまいました」
「真か…ここにいた我が家臣がか…」
王が膝をつきそうになったので公爵と2人で支える。
「王よ、他にも傀儡になっていたものがおるやもしれません」
「そ、そうだな。だ、誰かおらぬか?」
ここら辺には誰もいないようなので、公爵が探しにいくことになった。
「王様、宰相はもう」
「そうだな、宰相も軍務大臣もいない」
「はい、毒をばら撒き、みんなを傀儡にしたのは『7匹の獣』の『強欲のグリード』です」
「なんと…『7匹の獣』が世に出て来ているのか?」
王は玉座に座りながら目頭を揉む。
「そうですね。あと残りが4匹ですが、外に出ている可能性もありますね」
「そうか…」
「ただいま戻りました」
公爵が兵士を連れて戻って来た。
「まだ分かりませんが、城で働く者で砂になった者をリストアップさせています」
「ふぅ、分かった。アーガイル、お主が指揮を取れ」
「は!…早急に決めた方がいいのは解毒ポーションを休んでいるものに配る手配ですが」
公爵はこちらを見ているので、
「マリン?動けるか?」
「はい!」
アイズは相変わらず寝ているので、さっさと話を進めよう。
「こちらの『SOD』の公認取り消しを元に戻してもらえば人員も確保できるかと」
「なに?『SOD』の公認取り消し?そんなこといつ決まったのだ?」
やはり勝手に決められたらしいな。
「王が毒で倒れられている間に色々と決めたようですね」
「はぁ…『SOD』クランは公認だ。すぐに動け」
「はい!畏まりました!」
これで『SOD』は問題がなくなったな。
「アーガイル、人員は任せる!信用できるものを早急に手配しろ!」
「はっ!」
兵士を残して、公爵と一緒に謁見の間から出る。
「『SOD』は名簿を作成するからそれに沿って解毒を行ってくれ」
「はい!」
それからは時間との勝負で、『SOD』のメンバーを集め、マリンが指揮を取り解毒ポーションをかき集めるパーティーと持っていくパーティーに別れて行動させる。
俺は解毒ポーション作りだ。
医師関係が殆ど砂に変わっていた。その為薬師や錬金術師を探して解毒ポーションをお願いしたが、結果俺が作った方が早かった。
アイズはようやく起きたが血を失いすぎてるらしくベッドの上だ。まぁ、ベッドをクランハウスの会議室に持って来て指揮はしているので元気はあるようだ。
貴族街にいた毒に冒された人は解毒ポーションで全員回復した。
「よし!カンパーイ!!」
「「「乾杯!!」」」
今日はようやく終わったのでその打ち上げを『SOD』のクランハウスで行っている。
「ルシエはやっぱり凄いな」
「何がだ?今回はアイズが倒したし、俺は何もやってないぞ?」
「そうか?毒に気付いたのも、解毒ポーションを作ったのもルシエだろ?」
ラビオンがそう言うが、俺はそれしかやってないからな。
「まぁ、褒めてくれるならありがたく受け取っておくよ」
「ガハハ!らしくないなぁ!」
「ねぇ、ルシエ、今度はちゃんと私たちも連れてってよね?」
「分かってるよ。だが、こんな事はそうそうないからな?」
リミ達は置いてかれたので少し燻ってるようだ。
「大丈夫!次は必ず」
「ですです!もう置いてけぼりはいやですからね」
「はいはい」
俺はもうこんなことに巻き込まれるのはごめんだな。
「諸君!今宵は飲んで騒げ!!『SOD』の復活だ!!」
「「「ウォォオォォ!!!」」」
アイズはようやく起き上がれたのに元気だな。隣にいるマリンが心配そうにしている。
また倒れなければいいが。
宴会は夜中まで続き、クランハウスには死屍累々の酔っ払いども。
朝焼けを拝む頃ようやく帰ろうとすると、
「ルシエ、今回はありがとう!」
「いや、アイズが倒したんだ。クラン復活おめでとう」
「あぁ!『SOD』に入らないか?」
「それは遠慮しておく」
「フフッ、私は諦めが悪いからな!」
「あはは、それじゃあな!!」
やっと宿に帰り着くと俺たちも泥の様に眠った。
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