第52話


「さて、どうするか」

 門兵の言っていたように手紙を出すのが筋だが、少々時間がかかりすぎるな。


 かと言って貴族の友人は…


 考えながら貴族街を歩いていると、馬車が通り過ぎて止まった。


「ルシェ、ルシエ君!なんでここに?」

「あら、本当ですね。何をしているんです?」

 馬車から顔を出したのは迷宮街で一緒にダンジョンを探索した『バディー』のサラとルージュだった。


「…あ、あぁ!サラ!」


 そうだよ!ガルム男爵家の長女、サラなら話だけでも聞いて貰えるな!


「すまないがサラに頼みたい事がある」

「え?い、いいけど?私に出来る事?」

「あぁ!今はサラだけが頼りだ」

「落ち着いて。まずは馬車に乗りなさい」

 ルージュに言われ、サラの馬車に乗せてもらい来た道を戻る。それとなく聞くとサラの父親は元気らしい。


 そしてサラが迷宮街に来た目的の、蟹星病の薬は出来たらしく問題なかったようだが、ルックが『情欲のラスト』に操られ死んだ事は問題になったそうだ。


 一時は兵士を総入れ替えすると言っていたそうだが、なんとか踏みとどまってもらったらしい。



 アーガイル家に到着すると、

「ガルム男爵家長女のサラ嬢です。執事のメイベルさんを呼んでいただけるかしら?」

 ルージュがそう言うと門兵は馬車の紋章を見て、

「…確かに、ガルム男爵家の紋章を確認しました。こちらにお連れすれば?」

 門兵は俺の方をチラッと見たが自分の職務を遂行している。


「はい、ここで待たせていただきます」

 

 しばらく待つと執事のメイベルの姿が見えた。


「ルシェール様!」

 途中から走り出したメイベルは涙を流している。

「アーガイル公爵の事は知っている。どうにか出来るかもしれない」

「あ、あぁ、ルシェール様。私は、私の力が及ばないばっかりに」

 メイベルは震える手で俺の手を握る。


「メイベルはよくやってくれてるさ。レビンはどうしてるんだ?」

「レビン様も同じ病で倒れまして」

「…そうか、まず中に入れてもらえるか?」

「はい!門を開けろ!」

「はっ!」

 門兵は少し青くなっているが、自分の仕事をしたんだから気にしないようにあとでメイベルに言っておこう。


「サラ、ルージュ、ありがとう」

「こんな事で良ければいつでも、用がなくても王都に来た時は館に来てください」

「そうね、サラ様もこう言ってる。必ず来るように」

「あぁ、必ず」

 サラ、ルージュと別れてメイベルの案内で屋敷に入る。


「こちらです!」

「あぁ…」

 レビンまで病に罹るなんて、ミリア第二夫人は何をしているのだろう。

「メイベル、第二夫人は?」

「レビン様に付きっきりでございます」

「そうか、それならばいい」

 レビンが倒れたのなら仕方がない事か。


「ルシェール様…」

「あぁ」

 父の寝所に着くと、ドアをノックして入る。

「…誰だ」

「すいません。ルシエと申します」

「…そうか、入れ」

 父親の寝所に入るなんて何年振りか…寝込んだ父を見るのは初めてだな。


 症状は見る限り発熱、嘔吐、手に湿疹もある。


「『鑑定』…」

「…分かったのか?」

「はい、素材を調達してくるので少しお待ちください」

「ルシエ、悪いが…頼む」

 これはルシエに対する依頼だ。


「ルシェール様」

「メイベル、俺はルシエだ。そして今、公爵から依頼が入ったので解毒剤を用意する」

「は、はい!え?ど、毒ですか?!」


 慌てるメイベルだが、すぐに症状が急変するような毒ではない。

「あぁ、医者には見せたか?」

「はい!王宮医師様に来てもらい、薬も出してもらいました!」

「その薬を預かっていいか?」

「すぐ用意致します!お待ち下さい!」

 急いで薬を取りに行くメイベル。


 しかし、王宮医師が間違えるだろうか?

 スキルツリーを見ると『医師ドクター』にも『簡易鑑定』のスキルがある。


「お待ちしました!これが薬になります!」

『鑑定』…これも毒だ。

「これも毒だな。レビンの薬も同じか?」

「は、はい!」

「ならすぐに辞めさせろ。解毒剤を作る」

「わ、分かりました!わ、私はどうすれば」

 慌てるメイベルを落ち着かせ、

「薬をやめさせて俺を待っていろ。あと部屋を一つ空けてくれるか?ここで錬金する」

「はい!分かりました」

 メイベルに見送られ貴族街を進む。


 ギルストの商店へやって来た。


 中に入るとギルストが目敏くこちらを見つけやって来る。

「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか?」

「ロギア石、メルク草、後は練金釜を頼む」

「はい!かしこまりました!」

 ギルストは言った通りの品を用意してくれ、金を払い外に出る。


 収納を使った時の顔が凄かったな。


 すぐに来た道を戻り、門兵に頼んでメイベルを呼んできてもらう。

「ル、ルシエ様。こんなに早く」

「あぁ、材料はすぐに手に入るものだからな!」

「それではこちらに!」

 屋敷に入り部屋に案内される。


 早速作業に取り掛かる。


 ロギア石は粉末になるまで擦り潰し、メルク草は煮立たせて濾しておく。

 練金釜にロギア石を粉末にしたものとメルク草を液体にした物、あとは魔力を注ぎながら錬成する。

 魔力で少しの間光り輝いているが、光がなくなれば解毒ポーションになる。

 

 とりあえず多めに出来たのでストックしておいて、すぐにメイベルを呼び、解毒ポーションを飲ませに行く。

「失礼します。依頼の品をお持ちしました」

「…分かった」


 薬を飲ませると落ち着いたのかすぐに寝息が聞こえて来た。


「これで大丈夫だ」

「分かりました、ありがとうございます」

「これをレビンにも飲ませてやってくれ」

「はい!直ちに!」


 俺が錬金術を使えたから良かったが、作れなければポイントを使って解毒魔法を覚えるつもりだった。

 しかし何故、毒に父やレビンが冒されたんだ?とりあえずポーションでなんとかなって良かった。


 聖女のマリンがいれば話は別なのだが。

 王も倒れたと聞いたが、、、まさかな。


 とりあえず宿に戻って情報を共有しよう。

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