第51話


「悪いが王都に行きたい」

 唐突だがリミ達の部屋に入れてもらい話があると切り出した。

「いいよ」

「い、いいのか?」

「みんなもいいよね?」

「うん」

「当たり前じゃないですか」

 リミ達は嫌な顔ひとつせずに賛成してくれる。

「何かあったの?」

「それが、公爵が病気だそうだ」

「あ、なら急がないとね!」

「うん!」

「そうですよ!急ぎましょう!」

 3人とも俺の父親だと分かっている。

「ほら何してるんですか?ブラハムを連れてこないといけませんよ?」

 ブラハムはあまり宿屋の馬小屋に入れておくのも可哀想だったので適度に運動させてくれる馬屋に預けている。


「よし!私はラビオン達に連絡してくる!」

「私はガイツのとこ」

「じゃあ一緒にブラハムを迎えに行きましょう!」

 ネイルと一緒に宿を出る。

「突然すまないな」

「何言ってるんです?ビックリはしましたけどそれ以上に心配ですよ」

「そうか」

「そうです」

 ネイルは少し笑うと馬屋まで俺の手を握った。


「ブラハム!」

『ブルルルル…』

 馬屋から連れ出すとちゃんと分かってくれているようで、早く行こうと急かされる。

「分かったよ、また乗せてくれよ!」

 分かったと言うように頬を寄せて、愛嬌のある歯を見せてくれる。


 宿に入るとラビオン達が待っていて、

「おう!俺らも一緒に行くぞ!」

「は?なんで?」

「いや、私も王都で買い物したいし!」

 遊びに行くわけじゃないんだが、

「…はぁ、まぁいいか」

「よし!準備は出来てるぜ!」

「ガハハ!飯は頼む!」

「出来てねぇじゃねぇか!」

 まぁ、ブラハムなら8人くらい大丈夫だが、

「荷車に6人な?俺とアイラで御者台に乗る」

「了解!飯はどうする?」

「収納に入ってるのと、途中で買えばいいだろう」

 収納にはいつでもダンジョンに行けるようにかなりの量の食糧が入ってるからな。

 明日朝早くから出発すればいいだろう。


「おばちゃん!王都土産楽しみにしててな!」

「あら!待ってるわね!」

 ラビオンはこの調子だ。

「ただいま」

「アイラおかえり、ありがとう」

「大丈夫!」

 ピースサインのアイラはとても愛らしい見えた。

「明日の朝一で出発するからな?」

「おう!じゃあおばちゃん!エール!」

「全員分ね!」

 結局、飲むんだな。



「ヨイショっと!」

「全員乗ったか?」

「大丈夫よ!」

「じゃあ、行くぞ!」

 久しぶりにブラハムに乗ったが、また一段と逞しくなったのか?力強く歩き出すので少しビックリした。

 

 ブラハムの脚でもカルア伯爵領まで約3日、王都までは10日は見ておかないといけないな。


 カルア伯爵領に着くと、ネイルが孤児院に立ち寄りたいと言うので、俺だけカルア伯爵を訪問する。

 ハーネル兵士長に繋いでもらい、カルア伯爵と面会する。

「久しぶりだな、ルシエ!」

「お久しぶりです。アーガイル公爵が病気と聞いたのですが」

「そうだが、なぜ知っている?」

「情報屋から」

 カルア伯爵は渋い顔をする。

「そうか、では話をするが、今王都は何故か貴族だけがかかる疫が流行している」

「はい?なんですかそれは?」

「最近では国王も病にかかられたと」

「それは…」

 明らかに怪しいな。

 貴族が罹るなら平民はもっと早くに蔓延しているはずだ。

「一応、調べには出しているが、原因は不明だ。最近の王都はおかしくてな、この間も『SOD』がたった一回の失敗で公認を外れたしなぁ」

 それは聞いたが問題ないように思えるが、

「それはおかしな事なんですか?」

「あぁ、王直々の公認クランだったから、そう簡単に公認から外すのは考えにくい」

 それならどうして外したんだ?

「まぁ、行くのは止めないが、気をつけるようにな!」

「分かりました。ありがとうございます」

「いつでも来い。待ってるぞ」

 カルア伯爵の館を出て、孤児院に向かう。


「あ!終わりましたか?」

「あぁ、それがな…」

 ラビオン達も一緒に話をする。


「貴族だけが?なんだその病は?」

「おかしいですね」

「偶然ではないような気がしてな」

「とりあえず王都まで急ぎましょう」

「いや、俺だけで行こうと思うのだが」


 流行り病の蔓延してる所にみんなを連れて行くにはリスクが高すぎる。

「私は行くわよ?だって貴族だけなんでしょ?それにルシエだって危ないわ!」

「そう!私も行く」

「俺たちだって行くに決まってるだろ?原因突き止めるなら人数は多い方がいいだろ!」

 止めても無駄みたいだな。


「分かったが、王都に入ったらマスクをしてもらうぞ?薬が出来るまでだが」

「それでいい!」


 次の日からまたブラハムに乗って馬車で王都に向かう。

 途中エクアルと言う街に寄って王都へと先を急ぐ。

 モンスターは出て来たが大きな問題もなく、王都ノイシュタルに到着した。

 長い列に並び正門から入ってきたが特に問題は無さそうだった。

 だが、メンバー全員にマスクを着用してもらう。


 大通りを馬車で通過中にラビオンから声がかかる。

「到着したが、これからどうするんだ?」

「とりあえず俺は1人で貴族街に行く。みんなは宿を取っておいてくれ」

「んじゃ俺らはギルドに行って聞き込みしてくるわ」

 ラビオンたちはそうだな。

「そうしてくれると助かるな。リミ達は」

「私も昔からの友達から聞いて来るよ」

「友達いたのか?」

「な!失礼ね!いるわよ!」

「そうか、ならアイラ達は宿にいてくれるか?連絡つく人間がいた方がいいからな」

「分かった」

「任せてください!」

 アイラとネイルにブラハムは任せて俺たちはその場で解散し、俺は歩いて貴族街に入る。


 歩き慣れた道を通り、公爵家の門までたどり着く。

「すまないが用がある。誰か呼んでくれないか?」

「ん?それは無理だ。自分の名前くらい言ったらどうだ!」

 見慣れない門兵だな。

「はぁ、ルシエと言う。執事のメイベルを呼んでくれないか?」

「悪いが帰ってもらえるか?もし本当に用があるなら手紙を出してくれ」

「…分かった。無理言って悪かったな」

 

 そうだよな。俺はもう貴族ではないのだ。

 何故俺はいけると思っていたんだ?

 少し驕っていたようだな。

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