第32話
「オラっ!」
1匹のポイズントードを斬り裂く。
「ルシエ!そっちに行った!」
「任せろ!おらぁ!」
「ライトニング!」
ポイズントードの伸びて来た舌を斬り落とすとアイラの魔法が炸裂する。
2体のポイズントードを倒して毒袋と皮と魔石を収納する。
ここはもう27階層で、ようやく俺たちも30階層へと挑戦している。
20階層後半になると罠も本格的に手強くなってきて解除に時間がかかるし、状態異常を付与してくる厄介な敵も多い。
「はぁ、なかなか先に進ませてくれませんね」
「だな、まぁ、斥候が優秀で助かるよ」
「あはは、褒めても何も出ませんからね?」
ネイルが大活躍しているので本当に助かっている。
「ほんと、ネイルがいなきゃだめね。ゴテアラが斥候を欲しがってたのがわかるわ」
「それはわかる」
「だな。まぁそれだけ特殊な能力だからな」
シーフのスキルツリーも順調に伸びてるので俺が手伝うこともない。
「ここから左に入ったところに部屋があるから早めに場所を確保しよう」
「はい!分かりました」
ネイルに言って『マッピング』のスキルで確認した部屋へと進んでいく。
と、今度は同業者が先に休憩場所として確保していた様なので声をかける。
「すまんがこっちを使って良いだろうか?」
と声をかけると、
「おう!こっちも今来たばかりだ!そっちからの見張りは頼むぞ」
槍を持った男がそう言う。
「分かった!『リベル』だ、よろしく頼む」
「俺たちは『バディー』だ」
あちらは男2人女2人の4人パーティーだな。
部屋は正方形に近く、25メートルはあるからまぁ、広い方だと思う。
入って来た側にテントを張り、晩飯の準備…と言っても出来合いのものを収納から取り出すだけだがな。
「ふぅ、やっと休憩ね。足が疲れたなぁ」
「そうね、私も少し疲れた」
「私も結構バテバテですね」
「明日は少し早めに休む様にしよう」
時間を見ると夜の8時だからまだ早くから休んでも良いだろうな。
「あ、あの!ルシェール君!」
「ん?…悪いが、その名前はもう」
「あ!そ、そうよね、ルシエ君?だっけ?」
あちらのパーティーの女が声をかけてくるが、記憶にある。確かルシェールが学園の時に一緒だったか?
「サラだったか?確かガラム男爵家の長女じゃなかったか?なぜ?」
何故、迷宮街にいるんだ?しかもパーティーを組んでこんな深くまで?
「私達は探し物があってこのダンジョンに来てるの。パーティーもうちの兵士なの」
探し物か…
「そうか、まぁ頑張れ」
「ルシェー…ルシエ君は何故あんなことに?」
あんなこととは俺が死んだ事になってる事だな。
「俺の事は詮索しないでくれ。冒険者のルシエだ」
「あ、わ、分かった。じゃ、じゃあ、お互いに」
「あぁ、頑張れよ」
「う、うん」
サラは自分のパーティーに戻って行った。
「ふーん、可愛い子じゃない」
「そうだな」
リミがジト目でこっちを見ているが、別にルシェールだった頃は、見た目と公爵家と言う事でモテてただけだ。
「ぶー」
「探し物聞かなくて良かったんですか?」
「ん?別に俺には関係ないからな」
ネイルは自分と重ねてしまったんだろうが、別に無関係な相手だから仕方ない。
交代で見張りをしながら夜を過ごす。
「さっきはお嬢が何か話してたみたいだな?もしかして貴族か?」
「いや、冒険者だ」
剣士の男が喋りかけてくる。
「そっか、なら良かった!こんな口調じゃ不敬罪にされるからな」
「いくら貴族でも無理があるだろ?」
「そうか?そうかもな」
「で?なんの様だ?」
「俺たちは50階層より先に進むつもりだ」
コイツはバカか?ギルドから侵入禁止が出てるだろ。
「…無理だ。危険だからな」
「なんだ?臆病だな?」
「臆病くらいがちょうどいいんだよ」
「はぁ、お前らはどこまでいくんだ?」
「30階層だが」
剣士の男はニヘラと笑いながら、
「あのなぁ、俺たちについて来ればもっと奥まで行けるぞ?」
「…断る。それにお前らが行けるとは思っていない」
「なんだと?俺は冒険者と違って兵士だぞ?」
「だからなんなんだ?ギルドからも侵入禁止されてるだろ」
男はイラついたようで語気が強くなる。
「まぁいいや、それじゃそっちには女が三人もいるみたいじゃないか。1人借りるぞ」
アイラに手を出そうとするので剣を放つ。
「はぁ…お前は何様なんだ?虎の威を借る狐か?」
「なんだぁ?独り占めか?いいじゃねーかよ!俺がヒイヒイ言わせてやるからよ!」
ゲスい男だな、ニヤけた顔が気に触る。
斬ろうとしたところで声がかかる。
「なにしてんだい!ルック!あんたはお嬢の顔に泥を塗るつもりかい?」
「あひゃひゃ、つまんねぇの!クソガキ!覚えておけよ!」
と言って自分の持ち場に帰っていく。
「悪いね、あいつは事の重要性が分かってないんだ」
と女性の魔法使い?がやってきて謝ってくれるが、どうやら50階層以降にはいくつもりだな。
「言っておくが50階層以降は死人が出るぞ?それでも行くつもりか?」
「…行かなければ行けないでしょうね。それが命令だからね」
「そうか」
何を言ってもダメなんだろうな。
「嫌な気分にさせちまって悪かったね。それじゃあ」
あんな男はどうでも良いが、今の人は話が通じそうだったんだがな。
「はぁ」
「大丈夫?」
「他人のことはどうでもいいはずなんだがな」
本当に俺はどうしたんだ?別に気にすることはないだろう。赤の他人だ。
「気になるなら動いた方がいい」
「…そ、うだな。学園が一緒だったんだしな」
何を自分に言い聞かせる?だが、何もしないわけにもいかないか。
次の日の朝はサラ達が出かける前に声をかける。
「サラ、悪いことは言わない、50階層以降は行かないことだ」
「お、覚えててくれたんですね。ありがとうございます。でも行かないといけない理由があるんです」
「はぁ、50階層からは化け物が出る。ベテランでも死にかけるくらいのな。お前の探し物はなんだ?」
逡巡するサラに畳み掛ける。
「俺が持ってるかもしれないだろ?」
「…星晶石を」
「はぁ、なんだ?誰か蟹星病か?」
「えっ!何故それを?」
持っているもので良かった。
「薬なら持ってる。それを渡すから50階層はやめとけ」
「は、はい!「待てよ!お嬢」え?」
「コイツの持ってるのが薬って言うのは納得いかないなぁ。本物なのか?」
「お前は何を言ってるんだ!お嬢の知り合いだぞ!」
このルックと言う男はどうしても50階層に行きたいらしいな。
「ルックと言ったな?どうすればいいんだ?」
「そうだな、俺と戦えよ!勝ったら女全員貰うからな」
“パンッ!!”
「ルック!貴方は何を言っているの!男爵家の兵士としての誇りを持ちなさい!私はルシェー、ルシエを信じます」
叩かれたルックは顔を赤くして激昂する。
「はぁ?お前みたいな世間知らずは俺様の言うことを聞いてればいいんだよ!オラっ!」
「きゃぁ!」
咄嗟にサラを庇ってパリィをすると重く鋭い剣撃で後ろに下がる。
「グッ!大丈夫か?サラ!」
「はい!ルック!なにをするの!」
「アァァァァ!!どいつもコイツも…テメェのせいだ!!」
ルックの目は黒目だけになって、それが人間ではないことを示している。
「おらぁぁ!」
「クッ!?どこにこんな力が!」
剣を叩きつける様な振り下ろしを受け止めるが尋常じゃない力だ。
「アッヒャぁ!そんなもんなのか?お前の力は!」
「ぬかせ!オラァ!『パリィ』」
剣を弾き返す刀で斬りかかる。
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