第28話


「あー、なんとかなって良かったー」

 外に出たらリミが力の抜けた声で言う。

「そうだな、流石にあれはヤバかった」 

 ポイントを奪っていなかったら勝てなかっただろうな。


 街に戻るとまだ夕暮れ時なのでギルドに向かう。


「あ、『リベル』のみなさん。お帰りなさい」

「ただいまぁ、サーシャさん聞いてよぉー」

 とカウンターに滑り込むリミを捕まえる。

「リミ?まずは受付に言うことがあるからな?」

 サーシャは可愛らしいショートカットの受付嬢でゴテアラ達の時も俺らの味方でいてくれた子だ。

「う、そうだった」

 改めて受付嬢のサーシャに向かうと、

「ギルマスを呼んでくれないか?多分秘密にしたいことだと思う」

「は、はい。ではこちらにどうぞ!」

 サーシャは別の人に後を頼むと二階に案内してくれる。


「こちらでお待ち下さい」

 応接室に通されるとソファーに座って待つ。

“コンコン”

「待たせたね。で?何の用だい?」

 と金髪を後ろで束ねた若い紳士が聞いてくる。ここのギルマスのポートだ、ちなみにリミが言うにはエルフらしい。


「ダンジョン5階層に知らない道があった」

「なに!?それは本当か?」

 俺は地図を出すとその場所を指し示し、

「ここだ。壁で隠された通路を中に入るとボス部屋があった」

「そ、それで?」

「グラトニースライムと言うモンスターがいた」

 息を呑み落ち着いてから喋り出すポート。


「無事と言うことは倒したんだね?暴食の魔獣を」

「なんだ?有名なのか?」

 グラトニースライムなんか有名なのか?

「古い書物に載っているのを見たことがある。七体の魔獣が地上に出ると、世界は終わると」

 あれが七体も居るのか?

「その一つが暴食の魔獣、グラトニースライムだ」

「そうか、なんとか倒すことができた」

「もっと詳しく教えてくれないか?」

「スキルの事もあるからこれだけしか言えないな」

 スキルツリーなんて言えるわけないしな。

「そうか、討伐した証は何かあるか?」

「死体を収納してきた。グラトニースライムに捕食されていた人間だ」


「…ふぅ、それを見てみよう。着いてきてくれ」

 俺たちは部屋を出て、地下にある安置所に来た。

「ここに出してくれ」

「分かった。全部で28人の遺体だ」

 並べて寝かせて行く。


「!!?…そうか…紛れもなくブランドーにいた冒険者達だ」

 と悔しそうに言うポート。

「そうか」

「どうやって倒したのかは知らないが、皆んなに代わって礼を言う。…ありがとう」

 ポートは頭を下げ礼を言う。


 その後は少しやり取りをして、後日また話をする事になった。


「ようやく帰れるね」

「そうだな。宿に戻ろう」

 宿に戻り、シャワーを浴びてから下で落ち合うと、まだラビオン達は帰って来てない様だ。

「ラビオン達は深く潜ってるみたいね?」

「そうだな、まぁ、4人が無事帰ってくればいいが」

「大丈夫」

「そうですよ!皆んな強い人ですしね!」

 まぁ、俺らが心配するのもなんだしな。


「あーぁ、このバッグをウリンに自慢したかったなぁ」

「私も」

 と2人は今日の戦利品を持ってきていた。

「あはは、なら帰ってきたら自慢すればいい」

「ですです!今日のはほんとヤバかったですしね」

 と喋っていると注文した品が揃う。

「では『リベル』の初ダンジョンに乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 まぁ、『リベル』と言うパーティーになってからは初のダンジョンだからな。


 飲み過ぎない様にして自分なりに今日の反省をする。

 やはり深追いはしないでおかないと何があるかわからないからな。もし普通のスキルだったら負けて当然だった。



 部屋に帰るとポイントの確認をする。

 膨大な量のポイントが入っているので死体はそれなりの冒険者だったのだろう。

 全てのポイントを注ぎ込めば剣聖がマスター出来るくらいはあるな。


“コンコンコン”

 アイラかリミだろう。

「どうした?ん?ネイル?」

「こんばんはです。お邪魔しても?」

 いつもと違う匂いのネイルにクラクラする。

「あ、あぁ」

「お邪魔します。何をなさってたんですか?」

「ん?あぁ、スキルを少しな」

「あ、また見て下さい」

 と言ってベッドに座るネイル、前に椅子を置いて座ると膝に乗ってくるネイル。

「こうすればもっと良くわかりますか?」

 顔を赤くしてはにかむネイルの可愛さにクラクラすると、唇を奪われる。

「ムチュッ…ハァ、私じゃダメですか?」

「そんな事はない」

 とそのままベッドに寝かせると2人でキツく抱き合う。


 俺は3人ともちゃんと責任を取らないといけなくなったな。


 翌朝は起きるとコーヒーを淹れてくれていたので、ふたりで飲みながら朝日を見る。

「私、幸せです」

 と言われてどう返せばいいのか分からなかったが、ただ頷き肩を抱き寄せた。


 下に降りるとリミとアイラがネイルに何か言っているが、笑顔なので問題はなさそうだ。

 …まぁ、俺が一番問題なのだがな。


 今日も寒い日になりそうだ。

 ジャケットを羽織ってギルドに向かう。


 サーシャからギルマスが会いたいと言っているとのことだったので応接室に向かう。


「待たせたね。昨日の今日で悪いが、契約書を持ってきた。良ければ私に話してもらえないか?」

 ポートは真剣な眼差しでこちらに契約書を差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る