第26話


「んじゃ『リベル』を祝してカンパーイ」

「あんまり大声で言うものじゃないぞ?」

「いいの!『リベル』にカンパーイ!」

「「カンパーイ」」

「おぅ」

 リミはパーティー名が気に入ったのか、とても上機嫌だな。

 アイラもネイルも嬉しそうだがな。

 

 もう少しすると寒い冬がやってくる。

 

 冬は冒険者活動をする人が減ってくる。

 まぁ、外のモンスターも冬眠や動きが鈍くなっているので相手がいなくなるわけだが、迷宮街はそうでもない。

 ダンジョン内は一定の気温でモンスターもいるのだから季節は関係ない。


 と言うことで俺たち『リベル』も準備をしてダンジョンに向かう。

 その前にギルドに向かい20階層分のドロップを卸す。


「凄いですね!まだ訓練されてから間もないのに」

「そうか?これくらいじゃないのか?」

「最初は10階層を繰り返してダンジョンに慣れることをして行きますよ?」

「そうなのか、それは知らなかったよ」

「これだけの素材ですから『リベル』の皆さんはこれからはCランクになりますね」

 冒険者証が渡される。


「やったぁ!Cランクだぁ!」

「C…」

「凄いですね!私もCって書いてありますよ」

 と三人とも嬉しそうに自分の冒険者証を持っている。


「おうおう!ランクが上がったんなら俺んとこに来い!高待遇を約束してやる!」

 と声をかけてきたのはゴテアラだ。

「悪いが他を当たれ。俺らはパーティーなんでな」

「んなこた聞いてねぇ!おい!お前だ」

 そう言うとネイルの腕を掴もうとするので払う。

「何してるんだ?冒険者の心得すら忘れたのか?」

「く、くそ!たかがCランクに舐められてたまるか!」

 ん?と言うことはBランクあたりなのか?


「ゴテアラさん!ギルドでの戦闘行為は罰せられますよ!」

 受付嬢が叫ぶ。

「く、クソ!外で勝負だ!」

「は?そんなくだらないことするわけないだろ?」

 外に行こうとするゴテアラに背中に声をかける。


「な!お前は着いてこいって言ってんだよ!」

「嫌だね、めんどくさい」

「く、くそ!それじゃあお前だけでも」

 とまた手を伸ばすので剣の鞘で引っ叩く。

「グアッ!イッテェじゃねぇか!この野郎」

「はぁ、ふざけるのも大概にしてくれよ?」

 こっちはランクが上がってみんなが嬉しそうにしていたのに、台無しだよ。


「ゴテアラさん!それ以上は規約違反になりますよ!」

「ダァ!ウッセーんだよ!こっちは斥候が」

「斥候がいなくてダンジョンに潜れないのは誰のせいだ?」

 階段からスーツを着た、金髪を後ろで纏めたスラっとした紳士が降りてくる。

「クソっ!ギルマスかよ」

「お前にクソと言われる筋合いはない!ダンジョンで斥候を亡くしてからお前らは少しでも努力したのか!」

 大声で怒鳴りつけるギルマス。

 ゴテアラはダンジョンで仲間を失ったようだが、

「だ、だからこの斥候を」

「それは人のパーティーだ!野良の斥候か、自分らが斥候をやればいいだろ!」

 なんとも正論でゴテアラはぐうの音も出ない。


「わ、分かったよ!」

 と出て行くゴテアラ達を見送るとギルマスに向かう。

「ありがとうございます」

「いや、アイツらはBランクでそれなりにやってた奴らだから腐って欲しくないだけだ」


 そう言うギルマスは寂しそうにドアの方を見ていた。


 そうか、ゴテアラでもBランクなのか。戦ってたら負けたかも…いや、そうは思わないけど。


「ギルドマスターのポートだ。まぁ、アイツらに何か言われたら私の名前を出してくれればこちらもなんとかする」

「はい、わかりました」

 そう言うと階段を上がっていった。


『あの人、エルフね』

 小声でリミが言ってくる。

『そうなのか、変装してるみたいだな』

『そうね、ギルマスになってるエルフなんて初めて見たわ』

 それならあの若さでギルマスってのもわかるな。


「秘密の話?」

「ん?あぁ、まぁな」

「アイラには言ってあるから後で教えるわよ」

「な、私だけ仲間外れですか!?」

「はいはい、教えるわよ」

 とネイルにも教える様だな。


 もう用がなくなったので外に出る。

「待ってたぜ!さぁ、やろうか!」

「…はぁ、ギルマスも流石にこれは予知しなかったな」

 ゴテアラが大剣を構えて待っていた。


「おいおい、逃げないよな?」

「誰が逃げるって?それよりこんなことしてる場合じゃないだろ?」

「あん?」

「さっさと斥候を探すなり自分がなるなりすれば?」

 俺はミスリルソードを構える。


「それができるならやってる!俺らには優秀な斥候が必要なんだ!」

「ならこんなとこで新人相手にしてる暇ないだろ!」

 大剣が振るわれるが、なんとか『パリィ』して弾き返す。

「ちっ!なかなかやるな!」

「分かった風に言うなよな!」

 横凪に大剣が振るわれるがそれを受け止める。

 今のうちに鑑定すると大剣使いのスキルツリーが伸びているが、シーフも少し伸びている。

 本当に自分がなろうとしたが挫折したのだろう。だが、

「うおぉぉ!俺の仲間は渡さない!お前は自分で探せ!」

「ウオッ!!な、こっちは大剣だぞ!?」

 俺は大剣を弾き返すとよろけるゴテアラ。


「覚悟はできてるんだろうな?」

「く、お前なんかに負けるわけないだろうが!『フルウェイト』」

 ゴテアラはスキルを使って大剣を振るう。

「グッ!!!」

「な、何故だ!俺の全体重が乗った大剣だぞ!?」

 なるほど…重いわけだ!だがこんなことじゃ倒れられないな!

「うおオラァァ!!」

 ゴテアラの大剣と俺のミスリルソードが砕けてしまった。


「な、なんて」

「くそッ!剣が持たなかったか!」

 後一歩でゴテアラに届いたのに、

「そこまでだ!ゴテアラ?もういいだろう?」

「ギ、ギルマス?!」

「ゴテアラのパーティーは全員一階級落ちだ!それと罰として訓練を受けてもらう!」

「は?それだけか?」

 こちらは仲間を奪われそうになったんだぞ。


「あとは罰金だな。白金貨一枚だ」

「そ、そんな大金持ってねぇよ!」

「それじゃあ分割だ!立て替えといてやる」

 ギルマスは俺に白金貨一枚を渡してくる。


「お、俺はダンジョンに潜りたいんだよ!」

「ダメだ!罰は受けてもらうぞ!ゴテアラ達を捕縛しろ!」

「「「は!」」」

 職員がゴテアラ達に縄をつけギルドに入って行った。


「納得いかないか?」

 こちらを見るギルマス。

「まぁな、だがゴテアラ達を助けたいんだろ?」

「…そういうことだ。すまんが手打ちにしてくれないか?」

「はぁ、まぁいいだろう。少しはマシにしてくれよ?」

「ハハッ!それは教官次第だな」

 ギルマスは笑ってギルドに入って行った。

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