第24話


 子供達と遊んでいると教会からシスターが出て来たので事情を説明する。

「そう!それじゃあ、ルメールシスターは助かるのね?」

「もう大丈夫です。あとは体力が戻ってくれれば」

「良かった…神に、貴方達に感謝します」

 と言ってロザリオを握り礼を言われる。

「いえ、良かったです。助かって」

 シスターはバインと言うらしくまだ若い。

 ここの孤児院と教会をルメールシスターに任されていたそうだ。

「あ!貴方達は下がっていてください」

 シスターが門から入ってくる男に立ちはだかる。

「邪魔するぜ!おら!ガキどもは邪魔だ!」

 いきなり現れたトサカ頭の男からシスターは子供を守る。

「なんだ?お前らはだれだ?」

 俺らに向かって男は大声で言ってくるが、バインシスターは引かない。

「ヴェデム商会さん。私達はここを売る気はありませんから!」

 強い口調で突っぱねるが教会を売る?そんなことがあるのか?

「あ?散々聞いたが知ったこっちゃねえ!こんなオンボロ孤児院があると街の迷惑だからキッチリ壊して行ってやるよ!」

 と男はハンマーを持っていて、門を壊そうとする。

「『パリィ』!お前はなんの権限でここをつぶそうとしてるんだ?」

「な!くそ!コイツらがいるから強気なんだな?んじゃお前から死ね!」

 ハンマーを振り下ろそうとしているが遅く感じるな。

「『パリィ』!『真空斬り』」

「グアッ!クソッ!」

 胸当てをしているが肌まで切れて血が流れている。

「まだやるのか?次は本気だ」

「お、覚えておけ!今日は帰る!」

 男は胸を押さえながら外に出て行った。

 と言うか絵に描いたような悪党だな。


 さて、男は退散したが、またくるだろうな。

 地上げ屋かしらないが、どうしてこんな教会に来るんだ?

「すまないが何故あんな奴が?」

「それは…私が薬のことで少しばかり知り合いを頼ってみたのですが」

「それが地上げ屋と繋がっていたと…」

 バインシスターも必死だったのだろう。

 これは街の問題だから仕方ないか。

「さて、兵士長でも頼るか」

「あ!あのハーネルって人ね」

「了解」

「え?!え?」

 俺たちに任せてもらい、教会にブラハムを預けて外に出る。


 衛兵の詰所にやってきた俺らは兵士長のハーネルを呼んでもらう。


「お!お前らか、元気そうだな!」

「兵士長こそ、胸のバッジが光って見えますね」

「あははは!そうか!」

 詰所の執務室に入っていき話をすると、

「ヴェデム商会…なかなか悪どいことをしているそうじゃないか」

「それなら捕まえられるのでは?」

「教会は領主に言って立て直しをしてもらおうと思う。それまでお前らはその地上げ屋の対処をしていてくれるか?」

「構わないが、兵士が出た方が無難だろ?」


 難しい顔をしているハーネルは、

「そうも行かんのだ、儲かっている商会で、かつ尻尾を出さないからな。あまり無理をすると逃げられてしまう。流石に領主公認の施設になれば引くだろう」

「はぁ、まぁやるだけはやりますけどね」


 教会に戻るとネイルが焦って飛びついて来た。あれから、ルメールシスターが寝たようで、外に出てきてバインシスターに話を聞いたらしい。

「良かったです。皆さん無事で」

「私達があんな男に負けるわけないでしょ?心配しすぎよ」

「問題無し」

「いや、問題はあっただろ。まぁ、解決はするだろうがな」

 あとはここを守れば良いだけだ。


 泊まり込みで教会を守ることになったので子供達に料理を振る舞う。

「お、美味しい!」

「お肉美味しい!」

 みんながっついて食べている。


 子供達を見ているとネイルが横に立つ。

「ルシエ、ありがとうございます」

「ん?好きでやってることだ。気にするな」

「う、うん」

「こら!ネイル!こっちきなさい!」

 と何やら話をしている。

 まぁ、俺はこの人数に腹一杯食べてもらえることに満足していた。


「うん、やっぱり子供はちゃんと食べないとな」


 次の日はトサカ頭の野郎が胸に包帯を巻いて門から入ってきた。ガタイのいいのが2人ついてきたな。


「おう!この教会をぶっ壊せ!」

「やらせると思うか?」

 俺が出てくると顔つきが変わる。

「ぐ!ま、まずはコイツからだ!」

「グオオォォォ!」

 と大ハンマーを振り回してくる男の足を切り裂く。

「ウガァァ!!」

「お、お前も行け!」

「オラッ!」

 とこっちは大剣使いの様だが、遅いので顎に肘鉄をクリーンヒットさせる。

 三人とも鑑定してポイントを取る。

 錬金術でポイントをだいぶ使ったからちょうどいい。


「あ、兄貴!無理ですよ!」

「アガガガ…」

 1人は顎が外れたみたいだな。

「ちっ!帰るぞ!」

 まぁ、帰ってくれるのはありがたいな。

「もう来んなよ!」

「う、うるせぇ!」


 さて兵士長の方はどうなったかな?

 と思ったら豪華な馬車が一台止まり、中からカルア伯爵が降りてきた。

「やぁ!ルシェール!」

「ルシエですよ」

「あ、あぁ、ルシエ、聞いたよ。今度は孤児院だって?」

 とすごく笑顔なカルア伯爵。

「はい、カルア伯爵領の管轄に置いていただければと」

「それはいいことだな。そうだな、ここは孤児院にしようではないか!教会は別に近くに建てる」

「教会だとなにかマズイんですか?」

「思想の自由で私が個人的に教会に肩入れはできないからな。別に教会を建てればいいだろ。シスターは2人いるみたいだしな」

「ありがとうございます」

「気にするな、ヴェデム商会も少し探りを入れておこう」

 その後はこれまでの冒険を聞かれ、建物の中でお茶を飲みながら今の情勢なども聞いた。


 レビンはこれまでの頑張りを認められ、ちゃんとした教育を受けている様だ。カルア伯爵はあまり納得していない様だが、しょうがない。


 それと王国だがそう遠くないうちに大きな戦争があるかもということだ。

 隣国のサラン帝国がこちらのダンジョン資源を狙っているとのことだった。


 まぁ二、三年は小競り合いで済むと思うとのカルア伯爵の見解だが、いつどうなるかは分かったもんじゃ無いな。


 ふと、カルア伯爵を鑑定してみる。

 鑑定のレベルが上がったのか体調なんかも良くわかる様になった。


「これをどうぞ」

「これは?」

 『星晶石』の丸薬だ。

 伯爵も蟹星病かかっていたのだ。

「ただの丸薬です。飲んでおいて損はないです」

「そうか、ありがとう」

 と飲み干すとやはり悪いところが光って消えて行く。

「な…なんだこれは?」

「星晶石から作った丸薬です。死病に侵されていたみたいです。ご自愛ください」

 カルア伯爵は唖然としている。


「そんな貴重なものが」

「カルア伯爵にはまだまだ頑張ってもらわないといけないですからね」

 と言って席を立つ。

「ルシェール!お前こそ!」

「カルア伯爵…私は冒険者ですので。それではまた」

 扉を閉め、外へと向かう。


「あ!ルシエ、どこ行ってたのよ!」

「悪いな、で?ネイルは?」

「あそこ」

 ネイルはバインシスターと話をしている。


「さて、ここはもう大丈夫のようだからまたダンジョンに行こうか!」

「そうね!」

「はい」

 ブラハムに乗って孤児院を出ようとすると、

「ま、待ってくださいよ!私を置いてくなんてやめてください!」

 ネイルが飛び乗ってくる。

「いいのか?ここに残らなくて?」

「お別れをしてきました。もう、私は次のお宝を見つけましたから!」

「ちょっ!ネイル!置いてくわよ!」

「これは宣戦布告です」

 チュッと頬に唇が触れる。

「私もあなたに恋しましたから!シーフは恋に情熱的なんですからね!」

「こら!あんたはここに来い!」

 とリミに後ろに引っ張られネイルは荷台に乗る。

「また増えた」

「不可抗力だ」

「ん」

 隣に乗ってるアイナも分かってる様だ。


 その後のことは風の噂で聞いたが、ヴェデム商会は潰れた様だ。まぁ、悪どいことをあの領でしてたんだからすぐボロが出るだろう。

 孤児院は新しく建てられて領主公認になったことで飢える子供達はいなくなった様だ。

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