第3話


「ふぉ!!」

 外れスキルと言われたのは『スキルツリー』だ。

 普通の人間だとジョブとスキルを授かる。

 スキルツリーはスキルツリーだけだから発動しようとも思わなかったのだろう。


 こちらの人間はスキルツリーがなんなのかを理解していない。

 だから何も持っていないのと同じ扱いになってしまう。


 だが、地球から来た、しがないおっさんにはゲームをやった記憶があるのだ。

 スキルツリーとはスキルが木の枝のように広がっていて無限の可能性を示している。


「ふぅ、多すぎてビックリしたが、まずはどうして行くかを考えないとな」

 ここでいくつかスキルを取っているので自力で身につけたのだろう、ルシェールには頭が下がるな。


「ポイントもだいぶ溜め込んでいるな」

 スキルツリーはポイントを使用して解放していくのが一般的かな?まぁ、昔やったゲームだからうろ覚えだがな。


 出来れば手ぶらで行きたいので収納系は欲しいな。

「と言うことはマーチャント商人系のスキルツリーを伸ばす事になるのか」

 ステータスなんてものはない世界だから、これからやることはこの世界初だろうな。


『鑑定』『ディスカウント』『オーバーチャージ』を経て『収納』のスキルを手に入れた。

 ディスカウントは値切る、オーバーチャージは高く売れるようになるスキルだ。

 まぁ、使う機会がないと思うけどな。


「これで収納を覚えたのか…おぉ」

 目の前に黒いモヤが出ているので試しにナイフを入れると頭の中にナイフが一本入っていると情報がくる。


「これは使えるな」


 とりあえず持っていた鎧と剣は収納してミスリルソードを帯剣して身軽な格好で下に降りる。


 まだ夕方なので街に出て散策する。


 記憶には少ししかない平民の街を歩いて行く。


「俺も平民になったことだし、て言うか社畜だったからようやく普通に生活できるのか?」


 元の記憶…ルシェールの記憶にあるのは、これまで頑張って公爵を継ぐ為、王弟の自分の父親から認められるように頑張っていたことや、弟のレビンに負けないようにする事だった。そこに親、兄弟の絆なんてものはなかった。


「ルシェールも大変だったんだよな。だからわざとレビンに負けて」

 いざとなったらやはり弟が大事だった。

 だから自分から家を継ぐことを諦めたんだ。

 それならば俺はその意志を継いで今度は後継なんて関係のない、自由な平民として生きる事にする。


「オッチャン、これ一つくれ」

「あいよ!」

 銅貨2枚渡して肉串をもらい食べながら歩く。


 まぁ、スキルツリーが使えることもわかったし、あとは王都から離れないとな。

「よし、リミに金を返したら旅に出るか」


 そうとなれば色々揃えないとな。


 テントに調理器具、食い物にといろんな店で買って行く。


「ルシェール様ですね」

 急に声をかけられたが落ち着いて話す。ギルストに会ったのだ、これは想定内。

「…いや、俺はルシエだが」

 だが、かなり早かったな…

「こちらに馬車が用意してありますので」

「…はぁ、わかった」


 馬車に乗ると王弟、公爵家へと馬車は入って行く。


 家の中に入り父のところに行くと、怒鳴り声が聞こえる。


『兄貴はもう死んだ!俺をみろ!あんなスキルもないような奴に負けなかったんだ!』

『少し黙れ』

 レビンと父の会話だな。ドアの外まで聞こえてきている。


“コンコンコン”

『入れ』

「失礼します」

「な!?」

 レビンは驚き、父はやはりと言う顔をしている。


「ルシェールよ、レビンに負けたのは本当か?」

「はい、ルシェールは殺されました。私はこれからルシエと名乗ります」

 父の顔は変わらない。

「ふ、ふざけるな!な、なんで生きてるんだ?」

 レビンの顔が青くなるが。

「いや、殺されたよ。今の俺はルシエだ」

「そうか、ならもう良い!家督はレビンに継いでもらう」

「はい、それではこれで」

 と言い部屋を出ようとすると、

「ま、待て!お前が良くても俺が!」

「レビン?二度はない…これからはお前が公爵になるため努力するんだ」

 俺は扉に手をかける。

「…くっ、スキルなしの癖に!」

 俺は家を出るとまた馬車に乗りさっきのところまで戻ってもらう?


「ルシェール様、これを」

「ルシエだ、これは?」

「お父上からの手紙と資金です」

 父からの手紙?

「…分かった、ありがたく受け取らせてもらう」

 と言って執事から受け取ると馬車は帰って行った。さっさと収納にしまう。


 外はもう夜になっているので、宿屋に帰る。


 下で夕食をとり自分の部屋に戻って手紙を読む。

 手紙には悔やんでいることや俺の母親のこと、レビンのことなどが書いてあった。

 最後に息子へと書いてある。


 ルシェールがどんなスキルでも親は親だったんだな。…良かったなルシェール。


「借金残して死んだ俺の親とは大違いだな」

 別に恨んではいない。優しくしてもらったこともあったはずだしな。


 ベッドに寝転んで手紙を収納する。


 俺は前の俺でも、ルシェールでもない、全く別の人間になったんだと実感した。

 

 それならやはり旅してみよう。


 自分が地球でやれなかったことや、ルシェールがやれなかったことをやってみよう。


 スキルツリーを見てみる。


 ルシェールが頑張って覚えたスキルは全て剣聖へと繋がっている。 

 では今までの努力はここに入れて行くのがスジだな。


 俺は剣聖のスキルを取れるところまで取った。

 まぁ、最初に使った分はしょうがないから貸しといてもらうってことで。


 ようやく眠れる…なんか今日は長かったな。



 夢の中でルシェールと会った気がする。


『ありがとう』


 と言われてこちらこそと握手をして別れる。



 そんな不思議な夢だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る