第17話 能力確認でワンチャン

「えっと、それではハジメさん、カザリさんでよろしかったっすか?ウチはエルフの里で神官やってるカローラっす。喋り方はこんな感じっすけど、ちゃんと能力についてお伝えするつもりなんで、安心して下さいっす!」


「ま、まあ……。カローラはこのような感じの子ですが、ちゃんと神の使いとして選ばれた里唯一の神官なんです。私、マチルダが彼女は不必要に秘密を漏らさない、信頼に足る人物であると保証致しますので……。どうか、ここでの能力確認にご協力お願いします。」


「その……。私からもお願いします。プリミアの街でも思いましたが、やはり、カザリさんの能力は精霊さまにすらも干渉する事の出来る物であると思われるので……。しっかりとした確認の方をお願いします!」



 リグレアの自宅での事情説明の後、ハジメとカザリ、その他一行は教会にいた。


 そこはリグレアの自宅からそれ程離れた場所ではないが、やはりエルフの里の中にあるからなのか、周りが全体的に木やコケに覆われた少し雰囲気のある建物であった。



 そして、そこにいた女性神官。格好は確かに中世ヨーロッパなどでいるような落ち着いた正装に身を包み、エルフ特有の少し長い耳を持つ事以外は、別段他の神官とは違いがないように思えるのだが……。


 問題はその話し口調。語尾に『〜っす』と付ける特徴的な話し方が、致命的にこの場の厳かな雰囲気と噛み合っていないのである。



 そのため、ハジメとカザリが少々用心深いとの話を聞いていたマチルダとリグレアは、女性神官であるカローラが話し方以外は問題の無い事を必死に説明し、彼らの気が変わらないようにと言葉を尽くしているのだった。


 それもそのはず、先程のリグレアの自宅での事情説明でカザリは途方もない能力ちからを聞いているし、実際に精霊たちの視認が可能となった異常事態が彼女の手によって引き起こされたと知ったマチルダは、カザリの正確な能力の確認を強く勧めて、その情報をいち早くエルフ族が知る事が出来れば、それがエルフ族全体の利益に繋がると確信したからである。



「……成程。この人なら安心ね。私の名はカザリ。それで隣の男は私の夫兼雑用係担当のハジメよ。今回はよろしくお願いするわ。」


「いや、夫かどうか怪しい所だけど……。まあ俺はハジメだ。相方共々よろしく頼む。」


「えっ?あ、はい!こちらこそ、よろしくお願いしますっす!」



 しかし、そのような二人の心配を他所に、彼らはカローラの言葉を聞いてむしろ安心した様子であり、快く能力の確認を任せる。


 カローラとしては、初対面で自身の話し方に眉を顰めなかった相手との遭遇はほぼ初めての経験であり、ハジメ、カザリ共に示し合わすような素振りもなく好意的な反応を示した事も相まって、カローラの中で二人の株が爆上がりしたのは彼女のみが知る所である。


 そのため、カローラは二人に対する神からのお告げ(能力の託宣)にいつも以上に気合いを入れており、彼女自身、この不思議な二人の人族の能力ちからについて興味が湧いた。



「では、この祭壇の前で膝を突いて、目を瞑ってしばらくお待ち下さいっす。ウチがいいと言うまでは目を開けてはダメっすよ!」


「だそうよ。私は宗教上の理由で目を瞑って膝を突くだけに留めるつもりだけど……。あなたは跪いて床ペロするのよね?しかも、カローラがいいと言うまでずっとお預けの状態なんて、あなたにはご褒美過ぎるかしら?」


「いや……。俺も含めどっちも無宗教だろ?そして、何当たり前のように俺が床ペロする前提になってんだ?カローラさんは膝を突いて目を瞑るだけで、別に特殊な演出プレイをしろだなんて一言も言ってないからな?」


「あら、そう?あなたがどうしてもと言うなら、そこに私の足で踏みつけてあげても良かったのだけど……。今日は止めておくわ。」


「おい!マジで止めろ!何か俺がそんな変な事をお前に頼んでるみたいに思われるだろ!

 俺の好感度を意味もなく下げて、一体お前は何をしたいんだ!ホントに!」


「何って……。好感度調整?ほら、上げた好感度はすぐ下げて調整しないと面倒でしょ?だから、妻として夫の好感度管理を絶賛調整中よ。ちなみにあなたへの女性陣の好感度は今でちょうどベストよ。どう?リグレアの気まずそうな表情。これは良調整の証拠ね。」


「マジでクソ運営の調整いい加減にしろ?い、いや、ホントにそんな趣味ないから!これはカザリのいつもの冗談だから気にしないでくれ!リグレアさんもそんな顔しないで!」


「ま、まあ……。どんな趣味も人それぞれって事で。そ、その……。普通にしてくれたら大丈夫っすから。目を閉じて下さいっす。」


「ほら、あなたも目を閉じなさい。無言で睨んでも分かるのだから。早くなさい。」


「こいつ!ホントこいつ……。」


「……我が神よ。その能力ちからを示し、この者らに知識ちえを授けたまえ……。っす。」



 ハジメ、カザリの両名が祭壇の御前に膝を突き、二人が黙って目を瞑ったと同時にカローラが祝詞を口にすると……。


 驚くべき事に祭壇上部にあった、恐らく精霊結晶が白く発光したかと思うと、次の瞬間にはその光が徐々に収まっていき、それが終わるまでの数秒間その場に沈黙が訪れる。



「……はい。目を開けてもらって大丈夫っす。どうも不明瞭な点が多いみたいっすけど、一応現状で分かっている範囲でのお二人の能力ちからについてお伝えするっす。」


「意外とあっさりなのね。何やら祭壇の方から光を感じたけれど……。これが神の後光を表現しているのかしらね?」


「とりあえず、話聞いてみようぜ。ちょっと胡散臭さは感じるけど、こう言った自分の潜在能力が知れるイベントは楽しみだ。」


「ではまずは……。カザリさんからっす。カザリさんの能力ちからは……。こ、これは!?まずカザリさんの適性のある属性っすけど、驚くべき事に雷属性以外の全ての基本属性に適性があると示されているっす!

 恐らく、それらをかなりの高水準で扱えるだけの基礎魔力も持ち合わせているっすから……。ハッキリ言って、規格外もいい所っす。ウチも長く神官をやってるっすけど、これ程の高ステータスは見た事ないっす。」


「なっ!?基礎属性の4つ持ちだと!?エルフの里随一と言われているカトレアさまでさえ、水、木、土の3属性だと言うのに……。それを4属性持つだけでなく、高水準で使用可能にする魔力すら持ち合わせているなんて。それ程の人族が……。知られずに野放しで?」


「そ、それは途轍もない事ですが。今はそんな事よりも……。カザリさんの能力スキルは何ですか!?基礎属性で精霊さまと交信する力や方法はない筈です!だとすれば、固有能力スキルの方にその秘密があるのでは!?」


「お、落ち着いて下さいっす!今からその適性属性以外の説明もするから……。ちょっとだけ待って欲しいっす!」



 すると、カローラのカザリの適性属性の話にマチルダが勢いよく食いつき、その途方もない結果と潜在能力の高さに呆然とする。


 しかし、同じく話に食いついたリグレアからすれば、カザリの4属性適性よりも、精霊と交信する事が可能な固有能力スキルの方が重要であり、当事者であるハジメたちよりも興奮気味の二人にカローラは少し引き気味である。



「それで……。カザリさんの固有能力スキルですけど、何これ?『読解力ドッカイリョク』って示されてるっすね?詳しい情報はほとんど示されていない特殊能力っすけど、何か色々と知る事、理解する事が出来るようになる能力スキルみたいっす!」


「では……。その固有能力スキルで精霊さまの事を正しく理解しようとして……。その結果、姿を視認する事が出来るようになった?

 いやでも、精霊さまにすら通用する程の強力な固有能力スキルなんて……。そんな物は最早、異能力の領域に達して……。」


「ふぅん。読解力ね?読んで解き明かす力とはよく言った物だわ。だから、文字だって読めるし、言葉だって自分なりの解釈で述べる事が出来るのね。それと……。解き明かす力の真価はそれを白日の元に晒す事にあるのだから、当然私が読み取った物は明かす事が出来るという訳ね。固有能力スキルだか知らないけれど、神も便利な能力チートを私に与えたようね。」


「おー!お前のは予想通り、いや、予想以上にか?当たりの能力ちからだったな。まあ、『読解力』って名前の能力スキルな辺りがお前らしいと言うか……。色々と深読みし過ぎるお前にはピッタリな能力だな。ホントマジで。」


「あら?読み解く力の中に含まれる『解』には悟るなどの未来予知的な意味もあるのよ?究極的にこの能力ちから極めれば、あなたの未来もその行動だって分かるようになるかもしれないのだから……。色々と覚悟する事ね?」


「……すんませんでした。俺の未来の可能性すらも奪うのだけは止めて下さい。カザリさまにお似合いのとても素晴らしい能力だと思います。『読解力』って響きがもう!」


「微妙に馬鹿にされているような気がしないでもないけれど……。ここは教会だから止めておいてあげるわ。ねぇ、それよりも……。ハジメ?私の素晴らしい適性と能力スキルを前にして笑っていられるあなたは、さぞかし素晴らしい能力ちからを持ってるんでしょうね?これで塵能力ネタスキルとかなら……。ねっ?(暗黒微笑)」


「いやホント勘弁して下さい。お前の暗黒微笑が一番怖いんだよ!どうせ俺のはお前のよりしょうもない能力だろうから、そんな怖い顔で追い詰めて来るなよ!」


「ふん。あなたは精々捨てられた子犬のように私について回らないといけない程のネタスキルを獲得しないように祈る事ね。まっ、そんな面白い事、早々起きないと思うけど?」


「止めろ!変なフラグをバキバキに建設しようとするな!これで謎スキルとか付いたらどう責任とってくれるんだ!?」


「その時もちゃんと飼ってあげるわよ?それが夫を躾ける妻(飼い主)の務めだもの。」


「既にワンちゃん扱い……。仕方ない。ここは一つ、俺の能力スキルについて教えてくれ!」


「え、えっと……。で、では伝えるっすね?ハジメさんの能力は…………。え?ん?」



 そうして、遂にハジメの能力を確認する事になったカローラであるが、なぜか言葉に詰まり、中々その結果を話そうとしない。


 すると、その様子を見たカザリは『ふふふ。』と何処か嬉しそうな表情であり、その声に喜びと笑いの感情を隠しきれない様子でハジメに慰めの言葉を告げる。



「ふっ、その……。残念だったわね。まあでも、私という絶対的プラスが存在するのだからそう悲観する事はないわ。影があってこその光だもの。だから、あなたも強く生きるのよ。私と歩く未来はきっと明るいわ。」


「……全然フォローになってないフォローをありがとう。まあ、こればっかりは仕方ない事だからな。言う通り、お前がいただけラッキーだったとプラスに考えおこう。」


「そうね。あなたの能力スキルが言葉に詰まるような残念な物でも仕方ないわ。だって、あなたの隣には私がいる。それだけで能力スキル以上のステータスを既に獲得してしまっているのだから……。これは実質、私という存在に出会った時点であなたのステータスは既にカンストしてしまっていたような物ね。」


「いや、自己認識の高さが異次元なんよ。少し褒めただけでこの自己肯定感の爆増は前世朝方のタケノコか何かなのか?とりあえず、能力の説明の続きを聞こうぜ。ほぼネタ枠確定だけど、一応説明だけは聞いておきたい。」


「それもそうだわ。それで……。この人はどんな能力ちからだと示されたの?その名前は?」


「え、えっと……。その……。正直、全然分からないっす!まず適性属性ですけど……。これがもう不明っす!どれにも適性がないかと思えば魔力は存在しているみたいですし、どの属性にも微妙に反応があるみたいっす!

 それに極め付けは……。この固有能力スキルっす!ってなんすか!?説明も何もない。不明としか示されていないような能力スキルが二つもあるなんて……。カザリさんの能力ちから以上に意味が分からないっす。」


「えっと……。カミナリ噛みつきカミツキ?雷は分かるんだけど……。えっ?噛みつきって何?」


「……ふぅ。あなた自ら子犬を目指すつもりがあったなんて、流石の私も恐れ入ったわ。

 そんなあなたには『甘噛みの狂犬』の名を与えるわ。好きに噛んでくれていいのだけど、ちゃんと甘噛みでお願いね?」


「くっ!?思った以上のネタスキルなだけに強く反論が出来ない!で、でも!カミナリ属性の能力スキルが俺にはあるんだから……。まだ、完全なネタ枠ではない筈!多分!絶対!」


「無駄な抵抗は止めなさい。いくら雷属性があっても適性に反応を微妙にしか示さなかったという事は……。そういう事よ。残念ね。これであなたの飼い犬生活もスタートよ。」


「くっ……。お前も飼い犬に手を噛まれないように気を付けるんだな。」


「あら?手を噛んでくれてもいいのよ?犬にとっての噛む行動はコミュニケーションの一環としても捉えられているものね。それに甘噛みであれば親愛の情を伝えるとも言うし、あなたの甘噛みを期待しているわ。」


「そ、その……。以上で大丈夫っすか?結果はお二人共、特殊な物だっとという事で。不明な点は正直多いっすけど……。少しでもお力になれたのであれば幸いっす!」


「「ああ(ええ)、ありがとう。」」



 そうして、ハジメとカザリはそれぞれの適性属性と固有能力スキルについて説明を受けて、自分たちである程度納得したのだが……。


 ーー彼らはまだ知らない。ハジメの能力スキルがどのように表示されているのかを。そしてそれがどれ程の能力チートであるかを。

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