第15話 嫌がらせをしたら感謝された

「で、俺たちは早速エルフの里に入った訳ではあるが、これからどうするんだ?光源の理由に気が付いたリグレアさんがすっ飛んで来るまでまだ時間ありそうだけど……。」


「ん?別に何もしないわ。少し周りを見て回るだけで、RPGみたく民家に侵入して家財を物色するなんて真似しないわ。私たちは何処ぞやの勇者でも盗賊でもないのよ?」


「いや、何で俺がそうしたいって言ったみたいになってるんだ?普通にどうしようかと聞いただけなんだが……。まあいいや。じゃあ、色々と建物でも見て回るか?非常食片手に食べつつで遠足気分なんだけども……。」


「そう?私はいつでもデート気分だから、物は考えようね。片手は非常食、もう片方はこの子保護に塞がってるから、手を繋いで本格デートとはいかないのだけど……。あら?この子目が覚めたようね?おっとと?どうやらこの子には気を遣わせたようね。」


「この状況でデート気分でいられるのマジで大物過ぎるだろ……。てかその子、起きてすぐにお前の手から肩に移動するとか、気遣いレベル高過ぎだろ。実は小さいようで色々と考えてる賢いケモノだったりするのか?」


「どうかしらね。さっきは食べて寝ての完全幼児ムーブだったけれど、今私の手を空ける為に動いたし、私たちの言葉を理解している節はあるわね。終いには『僕と契約して魔法少女になってよ。』とか言いかねないし……。早く親元に返さないといけないかもしれないわね。私に魔法少女は早過ぎるわ。」


「お前それどこのキュゥ◯えだよ。お前の場合、魔法少女というより、魔王少女とかになりそうで本気で恐ろしいわ。てか、そもそもお前は少女って呼ばれる年齢じゃ……。あ、ごめんなさい。カザリさまは17歳プラスαが年齢でしたね。大変失礼しました。

 でもまあ、その子は早く親元に返した方がいいのは確かだな。その子でそこまで知能が高いのなら、親もかなりの知能でいなくなったその子を心配してるだろうし……。ん?」


「噂をすれば何とやらって事かしら?まさか、リグレアよりも先にこの子の親が現れるとは……。うーん。この子の親と一目で分かるオコジョスタイルはいいのだけど、大型犬程のサイズだと何だが違和感があるわね。」



 すると、誰もいないエルフの里を観光?していて二人の元に、早速の訪問者が現れた。


 しかし、それはリグレアでも他のエルフ族の者でもなくて……。一目で迷子の動物?の親もしくは仲間であると分かる程、そっくりそのままの容姿を持った、カザリの言うように大型犬くらいのサイズのケモノである。


 どこか気品すら感じるその姿に、ハジメは迷子のこの子がこれ程立派に成長するのかと感嘆すら覚えたのだが、カザリにはその姿が若干の違和感を覚える物だったらしい。



 そして、カザリの遠慮のない言葉に少し固まっていた親ケモノだったが、驚くべき事にこちらに対して言葉を発したのである。



「……人間よ。その子を保護してくれた事感謝する。我ら幻獣種の一角、白鼬族としてお主たちに深く御礼を申し上げる。我は白鼬族の名をクォンと言う。よろしく頼む。」


「これは丁寧にありがとうございます。俺はハジメ、こっちは相方のカザリと言います。

 それで……。俺たちがこの子を見つけたのはホントに偶然で……。それにこの子を積極的に保護したのは彼女の方なので、お礼であれば彼女に言ってあげて下さい。」


「そうか。では、そちらの女子おなごよ。改めて保護してくれた事に感謝する。その子は警戒心が強く大人しい子なのだが……。其方そなたには心を許しているようだ。ここにいる短い間だけではあるが、よろしくしてやって欲しい。」


「うーん、やっぱり足なのかしら?細身の身体に長めの足が違和感の原因なのね。」


「おーい。シンプルディス発言は止めとけ?その子の前なんだから、将来が不安になるような事を言うのは止めような?」


「でも、この子も近い将来、足と胴のバランスが不自然になるのかと思うと……。」


「……ごほん。ま、まあ……。その子の命の恩人であるお主たちだ。ここはエルフの里だがゆっくりしていくといい。私の方でもお主たちの滞在について認めるように、ハイエルフたちに掛け合っておこう。」


「ありがとうございます。じゃあ、俺たちはリグレアさんをここで待ってますので……。後はこの子をよろしくお願いします。」


「ここは足の矯正?もしくは胴を大きくするようにした方がいいのかしら?可愛い瞬間はあっという間と言うけれど……。時の流れは残酷なものね。あなたも強く生きるのよ。」


「キュッ?キュウゥ!?」



 そして、白鼬族のクォンから感謝の言葉を受けた二人は、それぞれが異なる反応を示しつつ、とりあえず子を親元に返す事にした。


 その際カザリが何処か寂しそうな目で子クォンの事を見ていたのだが、それはこの子との別れが寂しいと言うよりも、成長した子クォンの姿を想像したからのようである。



 すると、カザリの肩にいた子クォンは自身がクォンの元に返されると会話の流れから理解したのか、何処か慌てた様子で彼女の背負っているリュックの中に逃げ込み、思わぬ抵抗の姿勢を見せてくれる。


 そして、そのリュックの縛り口の所から時折ひょこりと顔を覗かせては引っ込んでを繰り返して遊んでおり、どうやら慌てて逃げ込んだ先がお気に召した様子である。



「……で、お子さん帰るの拒否してますが、どうしますか?とりあえずはリグレアさんが来るまでは確実にいますし、もう少しだけこちらで預かっときましょうか?」


「……すまぬ。その子もまだお主たちと共にいたいようである。迷惑にならない範囲で共に行動してもらえるとありがたい。」


「それで……。この子の事は何と呼べばいいですか?そういえば、この子のお名前を伺って無かったと思いまして……。」


「いや、この子に名はまだない。本来幻獣種の名は契約者との契約の際に名付けられる。だから、その子にはまだ契約者はおらず、名もまだないのだ。『ねぇ、?あなた少しこの布を足に巻いてみない?大丈夫よ。あなたのスタイルはまだ矯正可能だと思うから、まだ絶望する時間じゃないわ。』ぬっ?」


「キュッ?キュッ!キュゥ!」


「こら、暴れないの。あっ!リュックに逃げ込むのは卑怯よ。もう……。そんな風に顔だけ出して。これではあなたは本当にコクーンと同じよ?」


「キュゥ?キュッ!キュ、キュゥ?」


「ん?コクーンとは繭という意味があるわ。そしてミノムシというのは、その繭を作る生き物でちょうど今のあなたみたいに身体を木の葉などで覆っているのよ。それで木の枝などにぶら下がっているわ。その点も含めて今のあなたとソックリね。それで……。えっ?そのミノムシは可愛いかですって?うーん、考え方次第で可愛いと言えるわね。」



 すると、クォンとハジメの会話そっちのけでカザリは子クォンの事をコクーンと呼び、あろう事かそのまま普通に会話を始める。


 しかし、その会話の内容はハジメには聞き取れず、ハジメには『キュゥキュゥ!』と鳴いているようにしか聞こえていない。


 ハジメは最初、カザリの能力ちからである言語を認識する力を使用しているのかと思ったのだが、どうやらそれも違うらしい。


 その証拠にクォンの言葉は問題なく聞き取れるし、ハジメの言葉もクォンに正しく伝わっているからである。


 では、どうしてクォンの言葉が聞こえて子クォンの言葉が聞こえないのか……。それは次に発せられたクォンの言葉で理解出来た。



「そ、其方!も、もしや……。その子と契約を交わす事が出来たのか?俄かに信じ難いのだが……。その子の言葉が理解出来るか?」


「ん?それは当たり前よ?どんなに小さくても子供は普通なものでしょう?

 もしかして、あなたはこの子の保護者なのにあまり会話はしていないのかしら?会話が少ないのも立派なネグレクトなのよ?」


「む、それは……。そうだな。その子とはあまり一緒にいてやれんので、そういう意味では会話が少ないかもしれんが……。今それは一旦置いておくとして、よもや人族が幻獣種との契約を成功させるとは……。お主には驚かされるばかりである。」


「そんなを言って話を逸らそうとしてもダメよ。幼少期のコミュニケーションがどれ程後々の成長に影響を与えるのかを正しく理解しないと。この子が真っ当に育つかどうかは、この子の保護者であるあなたに多くが掛かっているのよ?その辺りも含めてちゃんと分かっているのかしら?」


「う、うむ。それは重々承知である。だが我も多忙の身な上、エルフたちと精霊種を繋ぐ役割があるのだ。中々構う事が出来ないのも仕方ない話ーー『言い訳が見苦しいの。あなたが忙しければ後は放置でいい筈がないでしょう?』う…む、それはそうだ……。」


「よろしい。でっ、この子の母親は?この様子だと……。もしかしなくても、もう居なくなってしまったのかしら?」


「そうだ……。この子の母、ツァーレはこの子を産んですぐに亡くなった。だから、この子には肉親と呼べる者が我以外にはほとんどおらず、この子自身の内気な性格もあって中々契約者の候補も決まらないままだった……。

 そんなこの子を守る為にも、我はこの地に結界を巡らせてこの子をずっと守っているのだ。例えこの子との時間が少なくなったとしても、この子だけは……。ツァーレが命を賭して産んだこの子だけは何があっても守り通さねばならんのだ。我の命に替えてもな。」


「……クォン。あなたの言いたい事は分かるわ。あなたが愛した女性ひとが命を落としても産んだ子。その子を何に替えても守りたい。可能な限り危険から遠ざけていたい。そんな気持ちは勿論ね。でもそれはであって、この子が望んだ事ではないわ。

 確かにこの子を守る為にあなたは色々と努力しているのかもしれない。でもそれを続けた先、この子は一体どうなるの?あなたが一生この子の面倒を見て側にいてあげられる?違うでしょう?……だったら、そんな守り方。育て方は間違いよ。あなたのそれは一見するとこの子の事を大切に守ろうとしているようで、この子自身とその可能性を潰そうとしているに過ぎないわ。

 だから……。あなたはこの子といっぱいお話しをしてあげて。側にいてあげて。目が覚めるともういないお母さんを探してしまうような、そんな迷子なこの子のをあなたがちゃんと守ってあげて。この子の過去がどうだったとしても、今を生きるこの子の事をちゃんとよく見ていてあげて。」



 カザリの冗談などない心からの言葉。それを聞いたクォンは勿論。ハジメもそれから子クォン改めコクーンも誰も何も言えない。


 初めはただ可愛い動物?を拾って餌を与えていただけだと思っていた彼女の行動は、最初からこの瞬間ときを見越しての物であったと改めてハジメは気付かされる。



 よく考えれば、カザリの発言も色々とおかしかった。最初は幼いコクーンを保護して色々と面倒を見ていたのに、親が現れるとアッサリ親元に引き渡そうとしたり、わざわざ大掛かりな仕掛けでリグレアにこちらの存在を知らせたりしたが、冷静に考えるとそんな行動ハナからする必要もないのである。


 当初の目的がエルフの里に無事侵入する事であり、あちらからこちらを探していたのだから、逃げたり隠れたりする必要はない。


 それでも、嫌がらせと称して無許可で里に立ち入る方法を取ったのは、ひとえに結界に侵入した者と我が子の反応を同時に感じて駆けつけるであろう者との対話。それが出来るだけの時間と場所を用意する為であろう。


 そして、極め付けはクォンへの態度だ。普段初対面には自身を良く見せて、会話の主導権を握りたがる外面無双の彼女だが、親であるクォンにだけ見向きもしなかった。


 まるでそれはクォンにコクーンと自分の会話を見せつけるように、幼くても確かに意思があるとそう親に気が付かせるように。



「だから、だからこそ……。あなたは。クォンだけはこの子のでいてあげて。無意識でもこの子が求める助けての声が、他でもない。あなたにだけは届いて欲しいから。

 間違えて欲しくはないとそう思えるの。だからこの子をお願いね。お母さんの分も生きているこの子の事を大切にね。」



 その後、程なくしてリグレアが現れて、クォンの存在とその子供の無事に大慌ての様子であったが、カザリに深々と頭を下げて感謝の言葉と最大限の敬意を示したクォンの言動には度肝を抜かれたように絶句していた。


 そして、そんなクォンに気にしないようにと制するカザリを見て、遠巻きにいたエルフたちは彼女の事を『人族は人族でも、途轍もない人格者なのでは!?』と、これまた大きな誤解が生まれたというのは……。また別の話である。(する予定などない。)

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