第14話 閑話休題ピースピース(嫌がらせ)

「……成程。やっぱりリグレアの命令に従わず、自分たちの判断で私たちを追い返したみたいね。リグレアに怒られて仕方なく私たちを探しに来るみたいだけど……。どう対処してあげましょうかね?あのエルフたち。」


「おいおい、悪い顔でニコニコするのは止めてくれ。会社の嫌味な同僚を退職に追い込んだ時と同じ顔してるぞ。今のお前。」


「あら、あれはあの男が無駄にあなたと私の仲をやっかむのが悪いのよ。あなたに嫌味を言うくらいなら見過ごした物を、実際にあなたのマイナスになるような事をしたのだから自業自得だわ。でも、今回はあなただって乗り気だったじゃない。だからこそ、あそこで変に食い下がらなかったのでしょう?」


「んー。まあ、そう言われると何だが。日本人的な感覚なんだろうけど……。いくら敵対関係にあっても、親切や恩を受けたならそれに報いるとまではいかなくても、それなりの態度で応じて貰いたいとは思ったんだよ。

 ほら、仕事とかでも……。いくら嫌いな奴でも、そいつから何かして貰ったらお礼くらいは言うだろ?それがたとえ自分の嫌いな相手であっても、親切に無視や失礼で返すようなら……。その嫌な奴よりも自分の方がもっと嫌な奴になってると思うしさ。」


「そうね。何も下手に出て歓迎しろなんて思っていないもの。曲がりなりにも、同郷の者を無事に連れて来た者たちへの対応を、でもしてくれればそれで良かっただけで。

 ああ……。改めてあなたにそう言われてみると、苛立ちが湧き上がって来るわね。これはちょっとの一つでもしてやらないと気が済まないわ。私の持てる力を使って彼らが困るような事を……。ねっ?」


「お、お手柔らかに頼むぞ?間違ってもお前自身が危険に晒されるようなのだけは止めろよ?それ以外なら別に構わないからさ。」


「安心なさい。私は目には目を、歯には歯をのハンムラビ法典方式の報復を採用しているわ。だから、私たちを追い返した彼らへの嫌がらせとして、これからエルフの里に乗り込むわよ。人族に里の中に入られたくない彼らの意思に反してね?」


「えっ?でも、それって普通に見つかったら危ないんじゃ?それに簡単に侵入が出来るのであれば、そもそもの話でリグレアさんを待たなくてもよくならないか?」


「ええ、普通に入ればすぐに見つかるでしょうね。そうなれば、無事お縄に付く事になりそうだし、最悪命の保証もないかもね。

 でも、であれば、それも簡単に成功させられるわ。」



 ーー時間は少し戻ってエルフの里近辺。


 青年警備隊のエルフたちに追い返されたハジメとカザリはエルフの里近辺でその後の様子を盗聴(カザリの能力)していた。


 だが案の定と言うべきか、先程のエルフたちの対応にカザリ含めハジメもそれなりに怒りの感情を抱いて、結果としては彼らに危なくない範囲で報復を行う事が決まった。


 しかしカザリの言う、彼らの嫌がる行いであるエルフの里への無断侵入は、リスクが高すぎる上成功率が低いとハジメが言うが、カザリには何か普通ではない策があるようだ。



「まあ、見てなさい。今度はミスしたりなんかしないわ。ただちょっと遠くの精霊たちをハッキリと捉えるだけで……。ん?あれ?この人って……。精霊?いや、少し違う存在?」


「ん?一体何をしようとしてるんだ?お前の能力って、パッと見ても何してるか分からんから反応に困るんだけど……。何か能力ちからを使ってるんだよな?俺からすればお前が考える人のポーズを取って、難しい顔をしているだけに見えるんだけども。」


「ま、何でもいいわ。追手も近づいて来たようだし、一旦隠れつつで進むわよ。索敵をしながら精霊一体一体にマーキングを行うのはとても苦労する作業だわ。……私の事を運んでくれれば、能力を使うのに集中出来て非常に助かるのだけど?」


「……それは暗に自分を運べって言ってるのか?何をしてるのかさっぱりだが、お前を指示通りに運んで、そんでもって追手が来たら隠れるなりをすればいいのか?」


「ふっ、あなたは話が早くて助かるわ。それじゃあ……。私の事よろしく頼むわね。

 って、全然違うわ。なぜお姫さま抱っこでなく、しゃがみ込んでおんぶをしようとしているの?お馬鹿さんなの?こういうのは相場お姫さま抱っこと決まっているものなのよ。分かれば私に姫プをさせなさい。」


「いや、姫プって若干意味が違う気が……。いや、遠慮ってものがないな。完全に考える人のポーズをするだけの置物と化してやがる。

 分かったよ。それじゃあ、ボチボチ足を進めるけど……。何処に向かえばいい?」


「そうね。特に目的地はないのだけど、あちらの方向に向かって頂戴。やはり、私の力は距離が近づくに連れ効きやすいようだから。

 ああ、そこの道を左に逸れてから木の陰にでも隠れて。追手の集団が後ろから来てる。何だが、エルフたちと鬼ごっこ兼隠れんぼをしているみたいでちょっと楽しいわね?」


「さいですか……。姫がお楽しみならようござんした。って、マジで来たな。こんな歳になって隠れんぼする事になるとは……。今後一生する機会ないと思ってたし、人生何があるかマジで分からんもんだな。」



 すると、丁度エルフたち追手がハジメたちの隠れる木の近くを通り過ぎ、その姿が遠く離れて行くのを確認してから歩みを再開する。


 木の陰から観察してみたのだが、エルフたちには多少焦りの様子はあるが、まだハジメたちを見つけるのは容易いと思っているようであり、キョロキョロはしているが木の裏や草葉を分け行って探す程の必死さは感じられず、それが尚更二人の隠れんぼに力を加える。



「しっかし、お前の索敵スキルはマジですごいな。近づいて来た事は勿論、それが何人で誰かも分かるって……。普通にチートだし、この隠れんぼでも普通に反則だな。」


「まっ、それはそうね。これがあっちの世界でも使えれば、いちいち上司を探し回らなくてもいいし、あなたにGPSアプリを忍ばせる必要もないから楽チンだわ。あっ、そこは正面の岩を乗り越えて、左右の道はすぐ先で行き止まりになってるから。」


「ん?何か今、聞き捨てならない事を言われた気がするんだが……。GPSって位置情報共有サービス又はそのアプリの総称の事を言ってる?それとも、人工衛星のネットワークシステムを使った全世界的な側位システムの事を言ってたりする?」


「どっちも同じ事を言っているじゃない。別に疾しい事は何もないわ。ただ妻が夫の位置情報を共有していた。それだけの話よ。」


「いや、『それだけの話よ。』じゃないわ!何それ、俺の個人情報はいつからお前に筒抜けだったの?あっ!そういえば、妙にお前が俺の行く先々でいたのって……。もしかしたなくても、そういう事なのか!?」


「何よ。旦那の素行管理をするのも妻の嗜みのようなものよ。それに私の位置情報だってあなたに共有していたのだから別に構わない筈よ。それにあなた……。私に隠す程の個人情報なんて一つもないじゃない。ここは妻との繋がりがまた一つ増えたと喜びの言葉を伝えてくれてもいいのよ?勿論、『愛してる、可愛いね』以外の言葉は認めないわ。」


「そんな嗜み捨てちまえ!と言いたい所だけど、マジで謎なんだが……。お前の位置情報も共有してたってどういう事?まさか俺のスマホに入ってた謎アプリの数々って、それらが関係してたらするのか?

 あと、個人情報が筒抜けになって感謝する奴は何処にもいないとだけ言っておく。」



 そうして、他愛もない話を続けながら追手から逃げて、1時間程経過したタイミングでカザリがハジメの手元を離れる。


 よく1時間もお姫さま抱っこを続けられたと思われるが、元の世界でも定期的にお姫さま抱っこをカザリから求められる事があり、そのおかげもあって、休み休みではあるがハジメはお姫さま抱っこを続けられた。



「どうした?そのさっき言ってた準備とやらが整ったのか?精霊たち一体一体にマーキングをしてるって言ってたけど……。それで一体何をするつもりなんだ?」


「ふふふ。それは見てからのお楽しみよ。ではそろそろ最初に行ったエルフの里の入り口に戻りましょうか。いい具合に追手のエルフたちがバラけてくれたから、今入り口には誰もいない状態が続いているわ。」


「嫌な予感しかしないんだが……。何か変にグネグネ進んでると思ったら、エルフたちの撹乱もしていたのか?ホントお前はマルチタスクというか……。敵に回ったらマジでおっかないし、普通に怖いんだけど……。」


「あら、そうな状況はあり得ないのだけど。まあ、あなたが私を蔑ろにするような事があれば……。もしもがあるかもね?

 ーーっと。じゃあ、早速だけど……。始めていくわよ。はい、発光!よし、成功ね。」


「森の奥が……。すごい光ってる?何アレ、もしかしなくてもお前がやったのか?」


「そうよ。あの幼女精霊を見えるようにした時に気が付いたのだけど、彼女たち精霊って、やっぱり私たち人間と存在?みたいな物が違うみたいで、視認する際に独特の光を発してるのよね。それは不思議と遠くからでも見える光みたいで……。ほら、あの精霊が多く集まる光源じゃなくても、森の中の精霊たちが光となって見えるでしょう?普通はあんな小さな光が森の木に遮られたら見えない筈なのに、こんなにも数多く見えているわ。」


「確かに?何か木々をすり抜けて光が見えるというか……。成程な。その光源を集める事で俺たちの注意を向けなくするって事か。これなら、光源に気を取られて侵入者もクソもないな。簡単な侵入者対策なんかされてるかもだけど、お前の索敵があれば問題ないか。」


「ご名答。これなら誰も傷つかないし、私たちがまだ近くにいる事をリグレアには伝えられる一石二鳥の報復ね。地味に光源が眩しくて、見ている者の眼に五月蝿いのも地味だけど報復ポイントを加算しているわ。」


「あー、なんか光の色も属性?によって違って見えるし、地味だけど異世界版ポリゴンショックを起こしかねない嫌がらせだな。

 ……だがまあ、これくらいなら嫌がらせの許容範囲だし、早速里の中に入るか。」



 そうして、大量の精霊(光源)を囮にエルフの里に侵入するという嫌がらせを成功させて、無事?二人は里内へと向かう。


 とても慌てた様子のリグレアがハジメたちとその後合流出来たのは、それからさして時間は掛からなかったと言う。

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