第13話 即帰宅をさせた者たち(閑話)
「でも、良かったの?あの人間。リグレアさまの命で丁重に扱えって言われてなかった?
確かに人族を里の中に入れるなんて!とは思ったけど、もう少し穏便に帰って貰っても良かったんじゃない?」
「そうは言うが、どのみち帰すのであればそれが早いか遅いかの違いでしかあるまい。それに我ら青年警備隊が不要と判断したのだ。多少の恩人だろうが、人族を我里から追い払っただけだと考えれば問題あるまい。」
「そうね。彼らがどんな人間であろうと、この里への侵入は許されないわ。私たち自然と生きるエルフ族と嘘と暴力を得意とする人族とが同じ場所にいる方がおかしいもの。」
「で、でも……。勝手な事をしたって、マチルダ姉さんに怒られないかな?僕、人間のせいで怒られるなんて……。嫌だよ……。」
時は遡って、カザリとハジメを追い返したエルフたち。彼らは元来た道を戻りながら、先程里の前にて待機していた二人の人族を思い浮かべ、各々の意見を述べていた。
彼らは比較的年齢の若いエルフ族として、里の周辺付を見回る警備隊に所属しており、その中でも青年警備隊として、客人含めたエルフの里の応対全般の役割を担っている。
そして、つい先程帰還したエルフ族随一の薬師であるリグレアさまをで迎えたのも、彼ら青年警備隊のメンバーであった。
普段であれば、ベテランで青年隊のお守り兼指導的立場にあるマチルダという名の女エルフがそこにはいた筈だったが、近頃はエルフの里が抱える深刻な問題の調査の為、少しの間だけ別行動となっている。
なので、そんな状態の青年隊がリグレアを助けたと言う人間に対する融通を効かせる筈もなく、リグレアが戻るまでに勝手な判断で彼らを帰そうとしてしまったのだった。
そうして、彼らが里の内部。エルフの里の中央部の門の辺りまで辿り着いた段階で、とてつもなく慌てた様子のリグレアとオコジョのような動物が成長して大型犬程のサイズになった姿の獣が彼らの目の前に現れた。
「あ、あの!彼らは何処に行きましたか!?精霊さまが『カザリ帰っちゃった!』と仰られてまして……。彼らは本当に帰られてしまわれたのですか!?」
「ど、どうされたのです。リグレアさま!とにかく落ち着いて下さい。あの人族であれば先程我が帰しましたが……。これは一体何事だと言うのですか!?」
「なっ!?か、帰した!?何て事をしてくれたのですか!ま、不味いです……。早く、彼らをここに連れて来て、一緒に探していただかないと……。幻獣さまの身に危険が!」
「げ、幻獣さま……。えっ?えっ!?」
「彼らへの対応については後で詳しく説明していただきます。ですが今は……。彼らを一刻も早く連れ戻す事が優先になります!周辺を隈なく探して、こちらに来ていただくよう誠心誠意お願いして下さい!いいですね!」
「「「「「は、はい……。」」」」」
そうして、訳のわからぬまま彼らは先程の人族探しに駆り出されて、『自分たちはもしかするととんでもない人物に不敬を働いたのでは?』と……。内心戦々恐々であった。
しかしながら、つい先程。それこそ10分から20分位前に彼らを追い返した為、皆で探し始めればすぐに見つかるだろうと高を括っていたのだが、不思議な事に彼らが来たであろう道を辿ったり、その周辺を隈なく探してみても、何処にも彼らの姿は見当たらない。
……それどころかハジメたちの痕跡すら発見する事が出来ずにいる彼らは、次第に焦りの色を隠せないようになって、泣きそうな気持ちになりながら手分けして捜索を続ける。
そして、捜索から数時間が過ぎ、もう探す場所も気力もほとほと尽き掛けていた。そんなタイミングで……。ザワっ!っと、森がザワめいたような不思議な感覚を彼らは覚える。
「な、何だ!?この不思議な感覚……。森の精霊さまが……。一箇所に集まって行く?」
「あ、あれって……。もしかして精霊さまたちの集まり!?数百、数千の精霊さまがあの場所に集まって、視認出来る程の光源になっていると言うの……?」
「あ、ああ……。これ程の光景。もしや精霊王さまがご降臨なされたのかもしれないわ……。は、早くあちらに行かなくては!」
「で、でも……。あっちって……。聖域がある場所じゃ……。そこにはハイエルフさまのような存在のランクが僕らと違う者しか入れないってマチルダ姉さんが……。」
「だが、これ程の光景!確認しない訳にいかないだろう!?我ら青年警備隊として、聖域の異変も確認しに行かなくては!」
そう言い走り出した彼を中心に、森の奥付近にある精霊たちが集まる場所。『聖域』と呼ばれる特殊な地へと彼らは急ぐのだった。
かつてない非常事態にエルフの里全体が騒然となり、誰も彼もが聖域へと足を向ける。
そこで起こるとてつもない出来事を前にして、度肝を抜かれる事になるとも知らずに。
ーー数時間前、ハジメたち視点に戻る。
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