第12話 教会どころか即帰宅?

「えっと……。これって……。敵対モンスターなのかな?何かフラフラしてるし、何よりメッチャ見た目が可愛いんだけど……。」


「まあ、オコジョみたいな見た目でふわふわの毛皮だものね。正直、私の次くらいには可愛いわね。それに……。あら?どうやら、私の非常食がお気に召したみたいね。燻製肉が好みなんてグルメなケモノね。」


「いや、普通に腹が減ってただけかよ。見た目とその行動といい、これはこの世界でのただの動物説が濃厚か?パッと見じゃ、魔物か動物か判断に困るな。まあ、相手に敵意があればそのどっちだろうと逃げるんだけどさ。」



 初の冒険者依頼で初の指名依頼。その達成の為、ハジメとカザリはエルフの里にリグレアの案内で辿り着いたのだが……。


 やはり、そのまま里の中に侵入すると不味いようなので、先にリグレアが行って、その後戻った彼女と中へと入る手筈となっている。



 しかし、そんな彼女を待つ二人に何処からともなく近付く存在。それがたった今カザリの非常食の燻製肉を貪る動物?なのだった。


 フラフラとしたその様子から、ハジメはその動物?がアンデット系特有の動き?をしているモンスターかなど、様々な可能性を考えて様子見をしていたのだが……。


 すんすんと鼻を鳴らしたその動物?はパタパタとカザリに近付き、その手に持つ非常食に夢中で貪っており、とてもじゃないがそれが彼らに害をなす存在とは思えなかった。



「まっ、魔物でも動物でもどちらでもいいじゃない?可愛いは正義。それは全世界共通の認識であり、私と言う存在を肯定する絶対的価値観だと言っても過言じゃないわ。」


「いやいや、魔物だと流石に不味くね?まあ、可愛いのは同意だし、敵意がなければ問題はないと思うんだが……。てか、お前のその無駄に高い自己肯定感はそこから来てるのな。そら、外面無双のお前がその価値観だと名実共にメンタル最強な訳だわ……。」


「当然よ。自分の事を肯定せずして、どうしてこの世界で生きていけるのよ。この広い世界、何十億人の中の一人でちっぽけな存在の私が何者なのか……。それを一番知ってるのは自分なのだから、そんな自分が自分の事を認めてあげないでどうするのよ。可愛い私は正義であり、世界にとっても絶対的価値であると信じる事こそが重要だわ。」


「まっ、最強メンタルスゲーとは思うが、俺は割と好きな考えだぞ。口を閉ざせば沈んでいくようなのがマジョリティの世界だしな。それくらい尖っていた方がむしろ健全だと言えるな。過ぎるとただの変な奴だが。」


「あら、それはありがとう。私もあなたのそういう素直な感性を持っている所は好ましいと思っているから、私たちは相思相愛ね。これには可愛い私がお世話をしているこの子もニッコリだわ。あっ、燻製肉を美味しそうに食べて……。ホントに幸せそうね。」



 そうして、二人が話す間にもムシャムシャと小さな口で非常食を頬張る動物?は、会話の流れとは全く関係ないが幸せそうである。



 とは言え、ここまでコチラに警戒心なく近づいてきた動物?がお腹を空かせているというのは、少々疑問である。


 そもそも、この動物?は野生なのか飼われているのかは不明だが、それが前者ならこの近辺で何かあった事になるし、もし後者だとすれば、もっと面倒な事は確かである。



「だが、あれだな。恐らくコイツはエルフの里の方から来たんだろうが、中で何かあったんだろうな。首輪とかしてないから飼われてるか分からんけど、ここまで無警戒な動物が生きて行ける場所で飢えてるのはおかしい。」


「そうね。この子は少し痩せているくらいだから、最近になって食糧事情が悪化した可能性があるわね。森に生えている木の実とかが不作だったりしたのかしら?そして当のこの子は……。食べ終わったらスヤスヤと眠ってるわね。本当に警戒心がなさ過ぎるわ。」


「お、おい。うりうり付いてやるなよ。とりあえず、その子は寝かせてあげるとして……。

 何かリグレアの帰りが遅いな?そんなに俺たち二人を入れるのに苦労してるのかな?」


「どうかしら?私たちと言うよりも……。この子が飢えている方に理由があるのかも?

 ……っと、話をしていれば戻って来たわ。あらあら、随分とお友達が沢山付いて来てるわね。手荒い歓迎がありそうだわ。」



 すると、カザリのその言葉とほぼ同じくらいのタイミングで、槍やら弓で武装した男女数人のエルフ族が彼らの前に現れた。


 皆一様にハジメたちに対して嫌悪感を抱いているような表情をしており、あまり話を聞いてくれる様子ではなさそうである。



「おい!そこの人間。お前たちがを助けたという人族で間違いないか?にわかには信じがたいが、冒険者ギルドからの依頼書をこちらに見せてみろ。」


「えっと……。はぁ。これですけど。」


「ふん、確かに嘘はないようだな。報酬の欄が空欄なのは気になるが……。まあいい。用事が済めば早く帰るんだな。リグレアさまが長老たちにお前たちの里入りを頼んでいるようだが、人族が里に入る事などあるまい。」


「「…………。」」



 しかし、何と言うか……。目の前のエルフ族の中でも一番身分の高いと思われる者の言動が、呆れる程に高圧的な物言いであり、リグレアがこの場にいない事も相まって、そのまま立ち退かされそうな勢いである。


 呆気にとられて多少黙ってしまう二人だったが、先に動いたのはカザリの方であった。



「そう。では、そうさせて貰うわ。最後に言伝だけお願いするのだけど、リグレアにはよろしく言っておいて頂戴。あと、私たちがここを去る理由については先程あなたが言った事をそのまま伝える事ね。……あなた達の判断に間違いはないのでしょうからね。」


「そうか。では早く去れ。お前たちの事などリグレアさまに伝えるまでもないが……。リグレアさまの行いが無駄になるのだから、それだけは仕方ないので伝えておいてやる。我に感謝するんだな。人間。」


「ん。では、お願いね。……行くわよ。」


「ああ、了解。まっ、俺らは悪くないしな。どうなるかは……。後のお楽しみってか?」


「そういう事ね。あっ?この子どうしよ?流れで連れて来ちゃったけど、元の場所に戻しておいた方がいいのかしら?」


「ん?ああ、でも……。元の場所も何も何処から来たか分からないんだし、とりあえずは一緒に行動でもいいんじゃないか?てか、そもそもの話、お前のポケットの中で寝てるんだし、それを放り出すのも心苦しいだろ?」


「いえ、いざとなれば私は幼いケモノでも崖から突き落とす覚悟よ。さながら、我が子を突き落とす親ライオンのようにね?

 まあ、実際の所はこの子の親を見つけるまで連れて行くつもりよ。この片ポケットに収まる程の生命を無駄に散らすつもりは毛頭ないわね。動物の虐待は反対よ。」


「いや、もうすっかり虜になってるじゃねーか。お前ホント動物系好きだよな。動物からも無駄に好かれるし、何か変なフェロモンでも出てるのか?あっちで何も飼ってなかったのが不思議なくらいだわ。」


「あら、私は飼いたいと思っていたけれど、あなたはそうでも無さそうだったじゃない。それに契約期間を設けていた手前、自分から言い出すのは違うと思っていたのよ。」


「えっ、そうなん?俺は別に動物嫌いじゃないし、お前が飼いたいなら飼えばいいのにって普通に思ってたわ。何だよ……。変な所で律儀なんだな。別に契約期間にその期間以上生きる動物を飼ったとしても、お前の事を無責任なんて俺は思わないぞ。

 だって、お前が飼った生き物の世話を怠らない事は、身を持って実感してるしな。」


「何よ。飼われている分際で生意気ね。それなら、私に飼われていればいいわ。ちゃんと死ぬまで面倒を見てあげるわよ?私って良妻賢母属性のしっかり者だから。」


「えぇ……。お前の場合、しっかり面倒見るは徹底管理って感じになりそうでちょっとだけ怖いな。あんま気合い入れ過ぎないくらいのお手柔らかでお願いするわ。」


「ふふふ。確かに言質を取ったわよ。やったわね。これで24時間365日徹底管理生活が始まるわ。おはようから次のおはようまで私がいる生活。これは私の事を余す事なく感じられる欲張りセットプランという名の永久就職なので、途中解約や返品、それら一切を受け付けないので……。ご了承する事ね?」


「クーリングオフすらない強制契約プランとか普通に嫌過ぎる……。消費者庁への相談不可避の案件だろ。これ。

 ま、まあ、それは置いておいて……。様子はどうだ?何か面白い事になってるか?」



 そうして、エルフの男に言い返す事などなく、その場をすぐに立ち去ったハジメとカザリであったが、そのまま連れて来てしまった動物?の話から派生して、あれよあれよという間に何故かハジメの徹底管理生活が幕を開ける事となった。(ホントに何で?)


 しかし、あの時あっさりとカザリが引き下がったのは、あの男を後でじっくりと追い詰める為の行動であり、それはあの男に淡々と話すカザリの目が笑っていないのを『あっ、コイツ色んな意味で終わった。』と思い眺めていたハジメしか知らない事である。


 彼らの盗聴(能力)が始まる。

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