第11話 確認方法と教会

「そういえば、昨日リグレアさんが言ってた大規模設備ってさ。一体どんな物なんだ?

 正直、どんな物なのか想像もつかないんだが、結構メジャーな物だったりするのか?」


「はい。大きめの街であれば確実に存在しますし、基本的にはどこにでもあるような物になりますね。詳しい説明は実物を見ていただく方が早いのですが……。その大規模の設備というのは『教会』の祭具になります。」


「まあ、教会ならどこにでもありそうなのだけど、そこでどうやって能力が分かるの?

 もしかして……。ベタに『神さまからの啓示が!』なんて事はないわよね?」


「いや、それは流石にないだろ……。今時神さまからの啓示って。そんなの啓示の伝え方でいくらでも改竄可能じゃないか。」


「まっ、それをして意味があるのかは分からないのだけどね。そもそも恣意的な情報の変更はある程度その技術を独占している状況でこそ意味がある物だもの。人族と敵対しているエルフ族にもその技術がある以上、改竄した所で他で真偽を確認すれば済む話よ。」


「でも、そのエルフ族とは現状交流がない訳だろ?それだとやっぱり嘘を伝えられる可能性が……。あっ、そういう事か。」


「そうよ。あなたが考えている通りだわ。、エルフの里で確認する必要があるの。情報を恣意的に改竄されない為にね?」


「え、えと……。確かに能力確認の仕方としては、神官による口頭での託宣となりますが……。その仕組みとしては、神から授かったとの伝承のある精霊結晶で調べるみたいです。結果を神官が伝えるというだけで。

 それでその……。どういう事でしょう?エルフの里で受ける必要があるというのは。」



 徒歩での移動中。軽い雑談の一環として、能力を確認出来るという大規模な施設について、ハジメはリグレアに尋ねていた。


 ファンタジーの王道では冒険者ギルドでの鑑定だが、生憎そのイベントは冒険者登録時には発生しなかったので、正直その時から疑問に思っていたのだが……。


 これから向かうエルフの里以外でも様々な場所にあるとの事なので、その場所で一体どのようにして能力の確認を行うのかとハジメは尋ねてみるのだった。


 しかし、途中カザリの憶測が的を得ていたようで、そこからハジメはカザリの意図する事を理解したのだが、リグレアにはそれがよく分からなかったようだ。



「まっ、こちらとしてもこの状況を利用しようって話だ。結構打算的だとは思うが、こっちも慈善活動をしに行く訳じゃないからな。

 要はこちらの能力スキルを嘘偽りなく伝えて、なおかつそれを広める可能性が最も少ない手段を選んだって事だ。リグレアさんはあまり自分について話していないが……。正直、かなりエルフ族の中で発言権のある存在だろ?人族二人を無事里の中に入れる事が出来て、それを隠せるくらいにはさ。」


「!?な、なにを……?」


「簡単に分かる事だけどね。そもそも『報酬を言い値で払う』と言えるだけ普通ではないと分かるし、ただのエルフがそんな神さまからの託宣の仕組みについて、詳しく答えられる訳ないのよ。それを応えられるという時点であなたが普通のエルフ族の一人ではないと喧伝しているようなものだわ。」


「そうだな。その上で俺たちに指名依頼まで出してエルフの里への同行を頼んだんだ。これは間違いなく立場のある者で確定だろ。」


「ええ。依頼内容はエルフの里までの同行だったけれど、目的地に着いたら、『エルフ族の皆が感謝を伝えたがってる。』とかテキトウな内容を話して、私たちを里の中に案内しようと考えていたのでしょう?他のエルフたちには『連れ去られた自分を助けてくれた人族だから、敵対、攻撃はしないで欲しい。』とでも伝えて、それを黙認させるつもりで。」


「だが普通に考えれば、それを一般のエルフが言ったとしても、恩があるとは言え、長年敵対関係にある人族の侵入を許す筈がない。

 それでもそれをゴリ押せるってのがリグレアさんがかなりの有力者である証拠であり、その有力者が認めており、正式に冒険者ギルドから認可を得ている形で派遣されている者だと証明する為に、わざわざ指名依頼という形で俺たちに依頼を出したんだろ?」


「そうすれば、冒険者ギルドが認めた命の恩人だと演出出来るし、と対立する者たちからの反対を抑えやすいものね。」


「……っ!貴方たちはどこまで知って?」


「いいや、俺たちは何も知らない。これはあくまでも憶測の範疇だからな。たださっきまでので推測したもしもを話しただけに過ぎない。ただ、もしそうであれば……。俺たちとのは得策じゃないとそう伝えたかっただけだ。」


「まあ、私に精霊に影響を与える能力スキルがある以上、下手な真似をして逃げられる訳にはいかないでしょうし……。正直、そこに関しては心配していないのだけどね。」


「でも釘を刺しておくのは大切だ。お互いにお互いを利用するつもりなんだから、そこはハッキリしとかないとな。」


「あら?いつも釘を刺されまくって、蜂の巣状態のあなたが言うと、説得力がダンチね。いい感じでリグレアとのフラグをへし折っていて、妻としては鼻が高いわね。」


「いや……。蜂の巣にしてるのはお前だよ。いつも俺の思考の先を読んで釘を刺してくるし、高性能 ネコ型 釘打機ロボットですか?

 てか、フラグなんて物へし折る程生えてたか?そもそも、俺はお前のオマケで着いてきてるだけだしな。本命はお前だろ。」


「『僕、ド◯えもん!』とでも言えばいいのかしら?私はどちらかと言うと、その妹の方が良いのだけど。ほら私って……。妹の方と一緒で良妻賢母属性のしっかり者だから。

 でも良かったわ。ちゃんとオマケの自覚はあったのね。それこそ、エルフの里までにあなたが出しゃばらないよう釘を刺そうと思っていたから。釘打ちの手間が省けたわ。」


「いや、言った側から俺に釘打ちしようとするな!ホント油断も隙もないな!……てか、何の話だっけ?いつも通りに流される所だったわ。なんだっけ?教会についてだっけ?」


「そうね。あなたがドヤ顔でリグレアを追い詰めようとするから話が脱線したわ。

 ……確か、神官が神のお告げ風に演出するのだったかしら?その実では道具の力に頼っているなんて、何だかお笑いね。」


「え、えと……。精霊結晶を使用しての託宣にはなりますが、誰でもその力を引き出せる訳ではありません。神から選ばれた血筋、聖属性の魔力を持つ者にしか反応を示さない特別な精霊結晶なんです。だからそういう意味では、何の力もない方ではありませんよ?」



 先程までの張り詰めた空気。それを意図的に弛緩させるカザリの言動にハジメも乗っかる事で、徐々に元の緩い空気が戻り始める。


 そして、改めてシステムの事について話をしているのだが……。どうやら、その神の代行者的役割を担う神官はただ神のお告げを告げるだけの存在ではなく、聖属性という特別な力も持つ者の事を指すらしい。



「ん?その聖属性の魔力って何だ?あと、そもそもの話になんだけど……。魔力の属性って全部でどんなのがあるんだ?」


「そうですね。能力の確認が出来なければ本来はこの説明がまずされるべきでしたね。

 まず、基本属性と呼ばれている魔力が5種類ありまして、火、水、風、土、雷になります。それぞれに有利不利などありますが……。今はその説明を割愛しますね?

 それでその5種類の属性はその名の通り基本属性になりますので、そこから様々な派生していく、言わば派生していく魔法なのです。」


「ふんふん。という事はあなたの言う聖属性はその基本属性に含まれない、だからこその特殊な魔力という事ね?」


「はい。カザリさんの言う通り、聖属性の魔力はその基本には含まれない。そして、先程言った派生していく魔法とは違い、聖属性にはのです。それは聖属性に派生する物がないと言う事でもありますが、聖属性自体もそれ以外の属性には派生せず、それゆえに特別な力なのです。」


「……って事は。その聖属性を持ってたら他の属性は使用不可能って事か?それとも、聖属性とは別に他の属性も持ってる奴とかいるのか?聖属性と火属性みたいな感じで。」


「いえ、聖属性を持っている場合、他属性の魔力は持っていません。なので聖属性の持ち主は聖属性の魔法しか使う事は出来ません。

 ちなみに私は風属性と土属性の適性を持っています。複数属性に適性があるのも少し珍しいので、お二人の適性が複数個あるといいですね。特に雷属性などあれば良いですね。基本属性の中でも数の少ない属性なので。」


「へー、聖属性しかないってなると、ある意味職業選択の自由がなくなりそうな話だな。

 でも、そうだなー。俺も複数属性持ちとかだと嬉しいんだがな。火属性とか憧れるわ。『火遁豪火球の術!』とか言ってみたい。」


「ふっ、それなら私は水属性がいいわね。火属性に強いのは水属性と相場は決まっているもの。それに一度は水の女神とか呼ばれてみたいじゃない?何か神秘的だし。」


「あ、あはは。ま、まあ……。よく分かりませんが、お二人に良い能力ちからがあらん事を。」



 そうして、アレコレ話をして歩みを進めていると、かなり巨大な木で覆われた森?のような場所が開けて見えてきた。


 聞く所によるとそこがエルフの里の入口のようで、その近くで待っていて欲しいとリグレアに伝えられたので、二人はそこで待つ。



 そして、リグレアの帰りを待つ二人の下へと、フラフラと近寄る存在が……?

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