第8話 ゲームの中でも大胆な彼女
「私の彼らへの指名依頼の内容はただ一つです。お願いします!どうか……。私と共にエルフの里に来て下さい!」
「「「「「…………っえ?」」」」」
『報酬は言い値で』との発言に騒然となる冒険者ギルドで、リグレアがたっぷり時間を掛けて口にしたカザリとハジメへの指名依頼の内容は……。まさかの同伴依頼である。
その報酬とあまりにも釣り合わない指名依頼の内容に、ギルドの受付嬢であるマリーナは勿論。その場にいた冒険者たち全員が間の抜けた声を思わず出してしまう程であった。
しかし、そうなると次に注目を浴びるのは当然そのような依頼を指名されることになった彼ら、ハジメとカザリの両名であり、受付嬢のマリーナに至っては、その堂々たる姿勢と圧倒的な外面無双によって、カザリを何処かの貴族、もしくはそれ以上の存在?と別の意味で震えが止まらない様子である。
すると、そんなとんでもない爆弾が投下された雰囲気でも、ハジメとカザリは至って冷静に周りを無視する形で相談?を始める。
「ほー、何か同伴の依頼だって。どうする?多分お前がメインの依頼だと思うけど……。初依頼はこれにしとくか?
今んとこ微妙な状態だから、身の安全はどうにかする事になるけども。」
「そうね。非常に面倒だけど……。最初の依頼というのは、今後私たちの人生という名の
「お前がこの状況をゲームのように楽しんでる事は理解したよ。まあ、『命を大事に。』と言っているだけマシか……?じゃあ、受ける事でいいのか?勇者カザリ?」
「あら、もし私が勇者なら作戦は『ガンガン行こうぜ。』でも構わないわよ?ちゃんとボス相手にも即死魔法を放ってあげるから……。大船に乗ったつもりでドンと行くわよ?」
「お前の場合、冷静な顔でそれをしかねないから草も生えないな。てか、同伴依頼における『ガンガン行こうぜ。』ってどんなだよ。マジでお前が変な力持ってなくて助かったわ。
とりあえず、ドンと来いって事は受けるって事だよな?……すいません。コレは色々言ってますが、喜んでお受けするようなので、どうぞよろしくお願いします。」
「……そこまで下手に出てはいないのだけど。あなたがどうしてもと言うなら、行ってもいいと言っているだけだわ。」
「はいはい、なら一緒に着いて来て来れませんかね?お姫さま……。カザリさま?」
「ふん。あなたがそこまで頭を地面に擦り付けるなら仕方ないわね。いいわ。その願いを叶えましょう。」
「地面に頭を擦り付けてないし、そこまでは頼んでないけど……。まあいいか。」
そうして、カザリがこの指名依頼を受領した事でとりあえずは指名依頼は受領される事となった。報酬は言い値だと言われているので、今この場での決定は不要だそうだ。
そして、カザリとハジメが契約書?のような物に手を翳し、その紙が赤く発光すると同時に両名の名が紙に記載されたので、それで正式にクエストとして昇華したようである。
「で、では……。リグレアさんの指名依頼をハジメさん、カザリさんの両名が受領したという事で正式な受注済み依頼となりますが、お二人は実戦経験などはお有りですか?」
「いえ、自分たちは実戦経験などはありませんが……。まあ、強いて言うなら逃げる事は得意ですね。なので、危なくなったら相方連れて逃げようと思っています。」
「そうですね。残念ながら実戦経験などはありませんので……。やはり、いざという時には彼の言った通りになるかと思います。」
「えっと……。では、両名とも戦闘などをほとんどした事がないという認識で宜しいでしょうか?も、勿論!それを理由にこの依頼が受けられなくなる訳ではありませんので、そこに関しましてはご安心下さい!」
「はぁ、それなら良かったです。とは言え、俺たちが向かう予定のエルフの里?って、危険な所なんですか?恐らくリグレアさんの所縁のある場所だと思うんですが……。」
「あっ、いえ……。そこに行くまでには別に危険などないんですが、その場所自体が危険になっていると言いますか……。
その……。ご存知だとは思いますが、我々人族とエルフ族には古くからの確執がありまして、基本的に人族がエルフの里に入れる事はまず無いんですよね。なので、そう言った未知数の場所に行く事を考えて、お二人の戦闘経験を確認させて貰ったんです。」
そう言ったマリーナは軽くではあるが、エルフ族と人族の確執について口にする。
そもそも、かつて人族とエルフ族は共生していたようで、国家などは作らず、作物などを交換して交友関係を持っていたようだ。
しかし、それらは時代を経て個人から国家、交友から同盟の関係へと変化していったようであるが、一部の人族がエルフ族に対して蛮行をするようになっていったそうだ。
それにより、お互いの同盟関係を続けていく事が困難になり、暗黙の了解としてお互いの立場の棲み分けを行なったようである。
「……ですから、私たち冒険者ギルドであっても、エルフの里との直接の交流や接点は有してはおらず、お二人の安全を確約する事が難しい状況になります。勿論、契約は『エルフの里に着いて行く』までになりますので、万が一の事態になる事は少ないとは思いますが、もし里の中に入るような自体となった場合はくれぐれもお気をつけ下さいませ。」
「そう…ですか。人族とエルフ族の確執は分かりましたが、それは個人間でも変わらないんでしょうか?例えば、ここにいるリグレアさんなどは特に人族というか、俺たちに嫌悪感や忌避感などは感じられませんが……。やはり、こちらの方が珍しい状況ですかね?」
「えっと……。はい。このような状況の方が珍しいと思います。リグレアさんは私たちにも笑顔で接してくれますが……。基本的には、『こちらの話を聞かずに敵対してきた。』との報告があるくらいには、人族とエルフ族の間の溝は深いと言えますね……。」
「まあ、それに関しては仕方ない事だとは思いますけどね。現にリグレアさんは真っ当な手段でこちらに来た訳ではありませんし、そんな状態でこちらに敵対しないでいてくれるだけでも、ありがたい話ですしね。」
「いえ、私たちエルフ族と人族の溝は確かにありますが……。あなた方が私を助けてくれた事に変わりはありません。そこに感謝の気持ちはあっても、あなた方を延いては人族全てを恨む気持ちなどありません。
確かにかつての人族の一部は我々の祖先に酷い事をしたのかもしれない。だけど、それを今の人族にまで当てはめて、我々の敵だと考えるのは間違いであると私は思います。」
そして、サラッとハジメがとんでもない発言をするが、それに被せるようにリグレアはエルフ族の確執について持論を述べる。
しかしながら、ハジメがマリーナに確認したように、リグレアのような考えを持つエルフ族はかなり少数のようである。
そして、自らの持論を述べた際の妙に真剣な彼女の横顔が印象に残った……。
「と、とりあえず……。ハジメさんとカザリさんの身の安全はリグレアさんも保証するとの事なので、大きな問題はないかとは思いますが……。十分お気をつけ下さい。ここからエルフの里まではおよそ1〜2日程度で到着しますので、出発までに荷物などあればご準備の方をよろしくお願いします。」
「私の方は特に荷物などありませんし、準備などは必要ありませんが……。お二人の準備が出来次第で出発致しましょう。」
「ん?ああ。じゃっ、行くか。いいよな?」
「そうね。では、出発よ。案内は任せます。」
「「……えっ?」」
すると、さもそれが当然だと言わんばかりにハジメが歩き出し、それに続くようにしてカザリも冒険者ギルドを後にする。
唖然としていたリグレアとマリーナ、他多数であったが、リグレアは慌てて二人の後を追い、その様子を残されたマリーナたちはただ呆然と見送る事しか出来ないのであった。
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