第7話 リセットが成功するのはゲームの中だけ
「で、ようやく冒険者が集う場所、冒険者ギルドまで来た訳だけど……。やっぱりだけどついて来てるよな?それも露骨に。」
「あら?やっぱりそういう事だけは目敏く気が付くのね?これは本格的にあなたを
「お前は何かに託けて俺の事をシバきたいだけだろ?『ドメスティックな彼女』は需要があっても、ドメスティックバイオレンスな彼女には需要がないぞ。少しは棘を隠そうな?」
「ふっ、ドメスティックの部分は否定しないのね。何よ。何だかんだ言ってあなたもまだ家庭が存続していると認めているのね。とんだツンデレ男も居たものだわ。あなたの方こそ分かりづらいデレ方をしないで頂戴。」
「いや、そもそもツンデレじゃないし、デレてもないんだか?……何だよ。急に機嫌良くなったりしておかしな奴だな。
ていうか、そんな事よりもリグレアさんの事だよ!マジでどうするんだ?あの目は完全にお前の事をマークしてる目だぞ。」
「ふん。あんな小娘一人にストーキングされようとどうという事はないわ。そもそも、あちらは私の能力なのか半信半疑でしょうし、決定的な場面を目撃出来なければ、いずれあちらの方から姿を現すか、居なくなるかのどちらか一つよ。私たちは当初の目的通り、冒険者登録をして宿を確保する。ねっ?何も難しい事はないでしょ?」
「いや、小娘って……。この世界のエルフの年齢とか分からんだろ。確かに十代後半くらいにしか見えない見た目だけども。
……とは言え、お前の言う通りだとは思うけど、あまり視界の端をチラチラされると色々と落ち着かないんだよな。注目されている本人がそれでいいなら構わないんだけどさ。」
そうして、彼らが人攫いの被害に遭ったエルフ族のリグレアと相対してからすぐ、収拾のつかなくなった現場をそれまで一言も話さなかった街長の発言によって離れる事が出来たハジメとカザリは、解散した後、露骨に跡をつけて来ている人影(エルフ影?)を気にしながら二人冒険者ギルドに向かっていた。
先程ハジメの発言通り、跡をつけているリグレアはあまりにも露骨過ぎる追跡と視線をこちら向けており、本人は気付かれていないと思っているのかは分からないが、街中でそれも容姿端麗なエルフ族が行なっている事と相まって、非常にその行いは目立っていた。
しかし、そのような視線と露骨な追跡に晒されていても、当事者のカザリは特に気にしていないのか……。あちらが行動を起こさない限り、これを放置するつもりであった。
「あら?チラチラ注目される事なんて……。あちらの生活で慣れっこでしょう?私を連れている歩ける事を光栄に思いなさい?」
「お前のその自信は何処から……。って、痛い!痛いって!確かにお前は外面無双なだけあって注目されてるのは分かってるから!だから、無言でツンツンしてくるな!」
「ふん、あなたがツンツンしてるからこちらも物理で応えてるだけだわ。それにあなたが気を向ける相手は私だけで十分よ。
分かったら……。ほら、さっさと行くわよ。いざ、冒険者ギルドへって所ね。」
「お、おい!思い切りの良さが半端ないな!あ、あと分かってるとは思うけど……。マジで変なトラブルは起こすなよ!絶対な!」
「それは何かの前振りなのかしら?私から何かするつもりはないけれど……。トラブルは起こすものではなく、起きるものなのよ。」
「ふ、不安しかない……。今度は大人しく、あくまで事務的に登録するだけだからな!」
かなり強めの念押しをするハジメを無視して、カザリは冒険者ギルドに突入して行く。
二人が入った冒険者ギルドは比較的閑散としている時間帯だったようで、カウンター周りに一人、用意されていたテーブルには二組の冒険者が談笑しているだけであった。
しかし、少数だろうとここは異世界の冒険者ギルド。日本で居酒屋にふらっと立ち寄るのとは訳も次元も違うのである。
だがそこは外面無双のカザリ。何も臆する事がない所か、むしろ我が物顔で堂々と冒険者ギルドに侵入し、一直線に空いているカウンターの方にスタスタと歩いて行く。
「すいません。二人で冒険者登録したいんですけど……。受付って今から可能ですか?」
「えっ?あっ、ハイ!勿論です。お二人は初めての冒険者登録になりますか?何処か他の街で登録をしていたり、過去に登録抹消された経験などはありませんか?」
「いえ、特にそのような経験はありません。それにこのような施設を利用するのは二人とも初めてなので……。詳しい説明などをして頂けると幸いです。」
「は、はい!かしこまりました!では、こちらのお席にどうぞ。お連れ様もご一緒に!」
「あっ、ありがとうございます……。」
すると、完璧な笑顔と愛想で理路整然と話すカザリに対して、受付でボンヤリとしていた女受付嬢はかなり驚いた様子ではあるが対応し、その後ろに立っていたハジメに対してもにこやかに声を掛けてくる。
基本的に愛想が良いのがギルドの受付嬢ではあるが、カザリの完璧な外面に初対面にも関わらずかなり二人に好意的な対応である。
そして、二人が席に着いた事を確認した後、ギルドの受付嬢は自身をマリーナと名乗って、ギルドについて簡単な説明を始める。
簡単に説明をまとめるとこうである。
①冒険者は魔物を狩り、地域の安全向上に努める存在である。またそれらはクエストという形でギルドに依頼が募集されるので、それらを冒険者ランクに応じて振り分けている。
②冒険者のランクは1〜10にランク分けされており、基本的には初心者は10ランクからのスタートとなるようである。また、冒険者ランクはクエストの貢献や活動記録によって評価されるものであり、場合によっては昇格や降格などギルドマスターの判断によってそのどちらも定期的に行われているようだ。
③なお、上記の点から分かるように、冒険者はギルドから評価を受けてランクが変動する都合上、基本的にはギルドの意向に歯向かうような事をする輩は非常に少なく、明らかな素行不良者などは最終的には冒険者を続けられないようである。(勿論、冒険者ギルド自体の意向に拘束力などはなく、それに叛いたり無視したりする事で罰せられるなどはないようだ。ただそうした者はそのままギルドを脱退する事が多いようであるが……。)
大体、上記三つ以外はほとんど罰則的な内容であり、そこらは日本人の常識からして問題のないようなものばかりであった。
そして、カザリとハジメは犯罪との確認を水晶に手をかざす事で行い、その水晶の隣にあるコピー機のような物から冒険者登録を完了した旨の紙、冒険者カードが発行される。
「では、最後に……。この冒険者カードは各街を通る為の通行許可証兼身分証のような物になります。紛失時には紛失届を街の冒険者ギルドに出して貰って、後日再発行される事になります。しかし、再発行には銀貨五枚が必要になりますので、予めご了承下さい。」
「成程、再発行にお金がいるのね。では、今回の登録には手数料などお支払いした方がよろしいでしょうか?正直、あまり手持ちに余裕がないので、その場合、少しお支払いをお待ちいただきたいのですが……。」
「あっ!いえいえ!あくまでも再発行に費用がかかるだけで、初回の登録には手数料などはありませんよ。ご安心下さい!」
「ありがとうございます。では、これで晴れて私たちは冒険者になれたのですよね?
早速で申し訳ありませんが……。私たち10ランクでも受けられるクエストを見せてもらえませんか?クエストをその日に受けて、後日実働でも構わないんですよね?」
「勿論です!冒険者登録してすぐにクエストを確認されるのは珍しい事ですが、先を見据えていてとても良いと思います!
それで……。10ランクが受注可能な依頼なのですが、これらになりま『この方たちに指名依頼を出したいです。』……えっ?」
すると、先程までハジメとカザリの跡を付けていたエルフ族のリグレアが、いつの間にかギルドカウンターに立っており、クエスト紹介中であったマリーナの話に割って入るような形で口を挟み、二人に指名依頼を行う。
先程の説明の中で指名依頼についても軽くは触れられたのだが……。冒険者としての名が売れて、貴族や裕福な一般家庭などからの依頼が指名で入る事があるとの説明であり、10ランクの冒険者を始めたてではあまり関係ないとの説明があったばかりである。
そして、この指名依頼はランク関係なく受注可能であり、その内容や依頼する者の立場が高いと断りづらい傾向があるらしい。
(ここでの断りづらいというのは罰則等があるからではなく、指名依頼は依頼主から指名された者のみが受注可能な為、その依頼が拒否されてしまうとその依頼がそのまま塩漬けになってしまうからとの事。)
「え、えっと……。あなたは……。この冒険者登録したばかりの方たちに指名依頼をしたいと?申し訳ありませんが、流石に今日登録された方に指名依頼はちょっと……。」
「でも、その指名依頼は冒険者のランク関係なく依頼出来る筈でしょう?であれば、今冒険者登録した彼らでも問題はない。そうでしょう?それに報酬は言い値で支払います。」
「なっ!?報酬を言い値で支払うですか!?流石にそれは危険と言いますか……。ギルドとしてもご忠告させていただきます!」
「ありがとうございます。でも、私は彼らに指名を受けて貰いたいの。その為であれば、例えこの身を要求されようと……。問題なく報酬としてお支払いいたします。」
「そ、それ程の覚悟で……。で、ではあなたはこの方たちにどのような依頼をご希望なのでしょうか?ドラゴンの討伐や世界樹の果実の採取など……。達成不可能なものでない限りは指名依頼としてご提示させていただきますが……。どのようなご依頼内容で?」
気迫溢れるリグレアの覚悟を確認した受付嬢のマリーナは、ゴクリと息を呑んでカザリたちへの指名依頼の内容を彼女に確認する。
マリーナが息を呑むように、普通このような指名依頼はかなりの高額報酬と引き換えに特定依頼として指名者に報酬額を伝えて、その内容等に問題がなければ契約が成立し、正式な依頼として機能する事が多いが……。
今回のように報酬の額を
当たり前であるが、言い値だと明言している以上、指名者が途方もない金額を提示したとしても、それを拒否する事は出来ない。
その上、その対価がお金ではなく、その依頼主の生命もしくはその者の貞操に関する内容を含むものだとしても、やはりこれを拒否する事は出来ないのである。
そして、そのような前提のもとに示された今回の指名依頼。受付嬢のマリーナが忠告するのは勿論、誰であろうと流石にそれはとリグレアを諌めようとする筈である。
しかし、それでも尚したい指名依頼とは何かと……。マリーナを含め、ギルドのその場にいた人間(聞き耳を立てていた者たち)を含め、戦々恐々といった様子であった。
ーー但し、当の依頼を受ける本人である所のカザリとハジメの二人を除いて。
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