第6話 問題発生のちリセット
「……で、これってお前の能力なんだよな?さっき『あっ、ヤバ……。』って言っていたし、一体何をどうしたらあの妖精風幼女が見えるようになって、その上俺たちにまで声が聞こえるようになるんだ……?」
「……ちょっと失敗したのよ。私だってこんな事するつもりじゃなかったもの。それに私がしたかったのはあの子の声をあなたにも共有したかっただけで、それを全員にその上姿まで見せようとは思ってもいなかったわ。」
「まっ、それはそっか。お前くらい用心深い奴が人前でまだ未解明の能力を見せようとする筈ないもんな。それじゃなくても、さっきの深い話になりそうになったら逃げるような事を言っていたし……。てか、そうだ。何も無理に仲良くしなくてもいいと思うが、リグレアに対してちょっと厳しくないか?
別に話から身を引くのは構わないけど、少しだけ話を合わせて、エルフの秘技について聞いてからでも良かったんじゃないか?」
「ふん、そんな事ね。私はエルフの秘技なんて物に興味はないし、そもそも、私は自分の畑に不要な種は蒔かない主義なのよ。
だから、仲良くする相手は選ぶし……。変に絡んできそうな相手は力づくで捻じ伏せると小学生の頃から決めてるの。よって、私はあのエルフとはそこまで仲良くしないわ。」
「へー、相変わらずのパワー系発言に不安を覚えるが了解した。まっ、お前の人間関係はお前に任せるよ。そういうの俺と違ってお前は結婚当初から得意だったしな。
てか、小学生の時からそんな脳筋主義を掲げてたのかよ……。お前と出会ったのが、社会に出てからで心底安心したわ。」
「あら?夫のお墨付きとあらば、妻として畑の整備を続けていくわね。『関係破壊は気持ちいいゾイ!』ってね?」
「お前は何処ぞの星の大王さまか?人間関係も環境も破壊するのは止めろよ?まだ、お前の秘めたる能力とかあったら、それが普通に出来そうでメチャクチャ怖えーよ。」
場所は先程と同じ応接間。精霊と名乗る幼女とリグレアの会話。と、その横で固まる街長の姿を横目に、ハジメとカザリは二人ヒソヒソ声で話し合っていた。
内容は勿論、先程起きた幼女出現事件についてだ。名前だけ聞けば意味不明でおかしな名前の事件だが、何気にこの世界初のトンデモ現象として、エルフ族の中は勿論、人族の中でも語り継がれるレベルの大事件らしい。
ある意味で『自然』=『神』を見て声を聞けるというのは、酷く特殊な状況のみでの出来事であり、このように能力一つでポンっと
それだけ、カザリの能力が特殊であり、それ故に使い所次第でかなり強力な切り札として働くのは間違いないだろう。
しかし、そんな異質な能力を持っていると知った彼女であっても、まだ見ぬ彼の能力には期待も興味も尽きない様子である。
「秘めたる力ねぇ……。そういうあなたの方こそ色々と便利そうな能力がありそうだわ。
夫であるあなたが攻撃系で妻の私がサポート系の能力……。ねっ?夫婦でバランスが取れててとてもいいでしょう?」
「いや、何が『ねっ?』だよ。そもそも俺が攻撃特化の能力かも分からないし、何度も言ってるがお前との
「あなたまだそんな寝惚けた事を言っているの?契約期間の満了で終了なんて誰が言ったのよ?最初の話だって、『三年も結婚してから過ごせば大丈夫よ。』と言っただけで、三年で夫婦生活を終わらせるとは一言も言っていないじゃない。
大体、あなたがそんなしょうもない体面に拘るから私は離婚届にサインしただけで、ハナから夫婦としての生活を終わらせるつもりなんて、これっぽっちもなかったわ。」
「なっ!?お、お前……。そんな事を考えてたのか?離婚するのはお前も賛成みたいな様子だったじゃないか?契約期間の満了の三年を近づくにつれ強調していたし、何よりお前の方から離婚届を渡してきたじゃないか?
てっきり俺はお前は直ぐにでも自由になりたいのかと……。そう思っていたんだが?」
「はぁ……。あなた、ホント何も分かってないわね?私が何のために契約満了を離婚届をチラつかせてたと思っているの?
まさか最後の最後まで気が付かないとは思わなかったけれど……。変な所で鈍感な所が普通にムカつくわね。それ以外の事は比較的察するのにね。ワザとなのかしら?」
何やら話の流れが怪しい方向に進んでいるが、異世界がどうと言うよりもこちらの方が彼女にとっては重要であった。
ハジメが言うように彼女の方から契約満了をチラつかせたり、記入済みの離婚届を用意して彼に圧力を掛けたのは間違いない。
でも、それは彼女なりの不器用なアピールであり、彼自身の口からある言葉を引き出したいが為の口実に過ぎなかった。
しかし、当の本人は別段気にした様子もなく普段通りを過ごし、遂には最終日にさえ件の調子であったので……。
前述の通り、カザリは離婚後も彼との生活を終えるつもりはなく、むしろどうやって彼からの言葉を引き出そうかと策略を色々と巡らせていたくらいである。
そして、その間にこのような異世界への転移があり、彼女はある意味でこれを神が与えた好機であると捉えていた。
自分の隣は『カザリ』しかいない。そう思わせようと考えて……。自身の有用性を示そうと画策して色々と失敗してしまった。
エルフの娘であるリグレアをハジメに近づけそうになってしまった上に、不完全な形で自身の能力の一端を彼女に見せてしまうという失態を犯してしまった。
普段の彼女ならまず犯さないミス。それを連続でそれも彼の前でというのは、この異世界という新しい環境への戸惑いか……。もしくは、それ以外の誰かさんか原因なのか。
「な、なんだよ……。そのジト目で見るのは止めろよ!ていうか、それよりも今は能力の事だろ?色々とどうするんだ?何かリグレアは涙流しながら幼女に土下座してるし、幼女の方は幼女で困惑してるし……。とりあえず、隙を見て逃げ出してみるか?」
「まっ、あなたの鈍感さ加減については後に話すとして……。そうね。ここで逃げ出してみても面白いけれど、十中八九指名手配として街中に張り出される事になるでしょうね?
どうする?まだ右も左も分からない土地でのサバイバル鬼ごっこ。これは男の子としては胸熱展開不可避なんじゃないかしら?」
「そんな展開絶望不可避の間違いだろ……。しかも、それを最初の街でするとか正気の沙汰じゃないな。なら、とりあえずは誤魔化す方向で行くか?幼女精霊が勝手に人前に出てきたと言い張る…とか?」
「まっ、その辺が妥当でしょうね。あっちだって何が何だか分からないって感じでしょうし、強引に誤魔化すしかないわね。ここは私に任せなさい。全ての決着をつけるわ。」
「不安しかないんだが……。気のせいか?この状況を解決するなんて、並大抵の事ではまず無理『なっ!?精霊さま!?』はっ?」
すると、唐突にそれまで見えていた
確かにある意味でこれで解決ではあるのだが……。まさか自身の能力を切って、無理矢理リセットをして解決するとは思わない。
そんな度肝を抜かれるハジメと一同を他所に、白々しくもカザリは何食わぬ顔で『あら?どこかに消えちゃったわね。』と言って至って冷静な様子である。
しかし、それがカザリによって引き起こされたと確信のない俺以外の二人は、ありのままの現実を受け入れる以外はなく、泣きそうな顔のリグレアは何か言いたそうな顔でカザリとハジメを交互に見つめるしかない。
そうして、混沌とした空間になった中でこれ以上の会話は無理だろうと、それまで一言も話さなかったのは街長が発言して、その場がお開きになったのは……。ある意味で助かった?のかもしれない。
その後、ハジメとカザリは身分証と意外と多くの報奨を受け取ったのだった……。
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