第5話 感謝された次は問題発生

「えっと……。その…初めまして?先程は助けて貰ってありがとうございます……。あなた方がいなければ、今頃どうなっていたのかと考えるだけでも恐ろしいです……。

 あの助けて貰ってすぐにこんな事をお願いするのは申し訳ないんですけど……。お話し聞いて貰ってもよろしいでしょうか?」



 その後、若い衛兵に連れられて来たのは、どこか雰囲気のある小洒落た洋風の屋敷。


 そして中に入り、応接間らしき場所に通されると……。そこには、先程人攫いにあった女性とその横に立つ壮年の男性の姿が。


 その男性は明らかに街の偉い人という風貌をしており、並の人であれば前に立つだけで気圧されてしまう所なのだが……。


 そんな男性の前でも彼らは特に気圧されたような様子は見せなかった。


 むしろ、そんな男性の方には視線を向けず、二人は興味深げな様子で女性を見ている。


 しかし、その視線はジロジロと様子を伺うような物ではなく、ジーっと彼女の全体を観察するようなもので……。その視線を受けた女性は勿論の事、誰も何も言わない不思議な沈黙の時間が数秒だけ続く。



 そして、そんな誰も何も言わない空間を壊すようにして、先程冒頭の言葉を目の前の女性は口にしたのであった。


 女性は二人からの視線に少し困惑した様子ではあるが、特に彼ら不躾とも言える行動を注意するような事はなかった。



「あっ、これはご丁寧にありがとうございます。意図せずではありますが、あなたが助かってよかったと相方を含め思っています。

 それで……。俺たちにどういったご用件でしょうか?とりあえず、話をお聞きしてから検討させていただきますので。」


「……あっ、はい。そうですよね。では、私自身の事から、私はエルフ族のリグレアと申します。人族では?と呼ばれている場所で野草採取をしている時に人攫いに遭いまして……。そこからこの街まで運ばれ、危うく奴隷として売り飛ばされそうになっていた所をあなた方に助けていただいたのです。重ね重ねではありますが、本当にありがとうございました。」


「成程、それは災難でしたね。とにかくあなたの身に何も無くて良かったです。」


「ありがとうございます。それでですね。ご存知だとは思いますが……。私たちエルフ族は古くから自然と共存する生活を送っておりまして、ある程度自然と対話を行う事が出来るのです。そして、かく言う私も自然と対話をする事が出来まして、そのにはそこの女性の方が自分たちの声を聞き取ったと仰るのです。その事について何ですけど……。何か分かりますでしょうか?」



 そうして、ハジメが彼女、エルフ族のリグレアと会話を続けていると、唐突に視線がカザリの方に向き、先程聞いた謎の声の正体に関連すると思われる話を彼女は始める。


 すると、先程まで無言であったカザリはニコッと人懐っこい笑みを浮かべて、ハジメの横に並ぶ形でリグレアに話し掛ける。



「そうですね……。私にはその自然?というものが何なのか分かりませんが……。もしかすると、私にはそんながあるのかも知れませんね?」


「ええ!?ほ、本当ですか?エルフ族ではない人族がと対話出来るかも知れないなんて……。そんな事が本当に……?

 で、では!せい…自然との対話を実際に行う事は可能でしょうか!?もしそれが可能であれば、もきっと!」


「あの……。期待させてしまったようで非常に申し訳ないんですか……。私自身、その自然との対話?が何なのか分からないです。なので、対話が出来るかどうかはそれについてある程度説明をいただかないと……。ねっ?」


「そ、そうですよね!申し訳ありません!もしかすると、自然と対話を出来る人族かも知れないと興奮してしまって……。それであなたには自然との対話についてお話しさせていただきたく思うのですが……。この話自体がにも関わる話なので、お連れさまと街長にはお伝えする事が難しいのです。なので、非常に申し訳ありませんが二人きりでのお話は『お断りします。』っえ?」



 しかし、リグレアが少しだけトーンダウンして、エルフ族の持つ知識についてカザリと二人きりでの会話を試みようとした所、カザリはハッキリと拒絶の言葉を口にする。


 そして、彼女の言葉に呆然とするリグレアに対して、至って冷静に言葉を続ける。



「彼が一緒に伺う事が出来ないのであればお断りしますと言いました。元々私たちには関係ない話ですし、私一人でそのようなを聞いてしまうなんて……。こちらに百害あって一利もない話です。なので、申し訳ありませんが……。あなたのその話やお願いについてもご期待に添えないでしょう。」


「で、ですが……。もしかすると、自然と対話出来る可能性があるのですよ?それが可能であれば……。エルフは勿論の事、人族だって無視出来ない程の発言力と地位を手に入れる事が可能になります。そ、それでも……。話だけでも聞くつもりはありませんか?」


「ええ、別にに興味はありませんし、そう言ったしがらみが増える事も好きじゃないんですよね。それにそんな物を手に入れても一緒に居づらくなるだけですし。

 あと、そもそもの話。その『もしも』が間違いや勘違いだった場合、エルフの秘技を知る一般人が増えてしまうだけですしね。」


「そんな……。で、でも精霊さまが言う事が間違っているなんて事は……。」



 リグレアが困惑した様子で譫言うわごとのようにそう呟やくと、カザリが言うように、『やはり人族では自然と対話出来ないのでは?』と改めて自問自答していた所……。


 『あっ、ヤバ……。』と、カザリが声を出したかと思うと、突然リグレアの横、丁度彼女の右肩の辺りに三寸程の背丈しかない空中をフワフワ浮遊している女児?が現れる。



 すると、突然のミニマム幼女?の出現に驚愕の表情を浮かべる面々に対して、当の幼女は自身に集まる視線の数々にこてんと首を傾けて、『なになに?何が起きたの?』と、自身の姿が周りから見られている事にまだ気が付いていない様子であった。


 しかし、それに一番反応したのはエルフ族のリグレアであり、一瞬絶句した後、慌てて椅子から立ち上がったかと思うと、次の瞬間には空飛ぶ幼女?に対して平伏しており、彼女の流れるような土下座までの速さに一同は二度驚かされる事となった。


 そして、そんなリグレアの行動に戸惑った様子の幼女であったが、街長を含め、ハジメやカザリの視線が寸分違わず自身に向いている事にハッとした様子でアワアワと『も、もしかして……。ボクの事見えてる?』と、こちらも驚愕している様子であった。



「お、畏れながら申し上げます。理由は不明ですが、の御身は私共から視認出来る状態となっております。生まれて初めての事で非常に混乱しておりますが……。精霊さまのお姿をこの目で捉える事が出来て、これ程の至福は他にございません!」


「え、えっと……。良きに計らえ?と、と言うか!ほ、ホントにボクの事が見えてるの?長い事この世界にいるけど……。そんな風に精霊以外から視認される事なんて、ホント数えるくらいしかない事なんだけど!?」


「そ、そんな奇跡の瞬間に私は今立ち会えているのですね!ありがとうございます!」


「もー!何がどうなってるの!?」


「「…………。」」



 混沌とした空気の中、騒ぐ二名の精霊、エルフを除いて、ハジメとカザリ、それに街長が黙っているのが印象的であった。


 ※ちなみに後で分かった事だが、街長が彼らと会って一言も話さなかったのは、自身の街でエルフの誘拐騒動が起きた事と精霊を直視して気が動転していたからだそうだ。

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