第3話 異世界?での初めての街

「では、早速だけど……。街に入りたい訳だが……。うん、定番と言えば定番だけど、門の前に人が立ってるな。お金も何もないけど、これって普通に入れたりするのか?」


「ふぅ……。大丈夫よ。まだ焦るような時間じゃないわ。とりあえずは……。どう侵入するかの作戦会議を始めましょうか?」


「おいおい、まずは正攻法で街に入る方法の検討じゃないか?相変わらずの潔の良さでいっそ清々しいけども……。そうだな、まずは誰か他に街に入る人の様子を見てから、どうするのかを決めないか?」


「まっ、そこが妥当な所ね。とりあえず誰かが街に入る様子を見て、それと同じ事をして中に入る。猿でも思いつく方法だけど良い着眼点ね。ここは私の地獄耳ヘルイヤーに任せて頂戴。」


「……お前は俺との会話に軽いディスを挟まないと死んじゃう病でも患っているのか?お前が妻じゃなかったら、この世界に来てから既に百回くらいシバいてる所だぞ?

 あっ、でも昨日の夜にお前とは離婚してるから……。シバいても問題ないのか?」


「これが所謂ディスコミュニケーションと言うやつね。人間には知性と言葉があるのだから話し合いで解決しましょう。暴力反対ね。

 それと昨日も言ったのだけど、離婚届を役所に提出していないのだから……。私はあなたの妻としての立場を絶賛継続中よ。分かったら愛する妻の為にその怒りを収めて頂戴。」


「ディスを含んだコミュニケーションを仕掛けて来たのはお前だからな?妻の下りに軽口の応酬といい、お前の異常なレスポンスの早さとボケには驚きを禁じ得ないよ。本当に……。それでいてちゃんと注意は門のやり取りの方にも向かってるんだから、お前の特異性にはホント頭が下がる思いになるよ。」


「これは夫からの『低頭した頭を踏んで下さい。』という特殊プレイへのお誘いと捉えた方がいいのかしら?それとも『頭が高いぞ。』と言って強キャラ感を出して踏んであげるのがいいのか……。これは悩みどころね。」


「何故どちらも俺を踏もうとしているのか小一時間くらい問い詰めたい所だが……。今は止めておこう。それよりも気付いたか?ここから聴こえる言葉がさっきと違うって事。」



 小高い丘を超えてしばらく。ようやく到着した街の正面入り口にて、彼らは入り口に立つ門番と通行人のやり取りを横目に会話しつつ、二人して街への入り方を模索していた。


 そして、ハジメが少しだけ門の辺りに近づいてからカザリのもと戻ると、彼は新しい気付きがあったと彼女に報告する。



「なんか日本語とは違う、別言語で会話をしているみたいだ。これは街に入る以上にマズイかもしれない案件だぞ。どうする?」


「……ん?私には普通に日本語に聞こえるけれど?どうしたの?もしかして、急な異世界に戸惑って……。日本語忘れちゃった?」


「いやいやいや!流石にそれはない!って言うか、普通にお前とは会話出来てるだろ!

 何それどういう事?お前にはあれが日本語に聞こえーーって、あれ?ホントだ。ここからだとちゃんと日本語に聞こえるな。えっと、『挙動不審で怪しい男が幼気な乙女に言い寄っているぞ。止めに入るか?』だと……?

 どこにそんな幼気な乙女が……。って、何だよ。そのドヤ顔は止めろよ。」


「ふふん。どんな世界でも美に対する認識に相違はないようね。幼気な乙女である私を連れて歩ける栄誉をあなたにあげるわ。」


「くっ!メチャクチャ癪だが……。ここで変に詰め寄ると、すぐに飛んで来そうな目でこっちを見て来てやがる。し、仕方ない。ここは戦略的撤退をするしかない……。」



 すると、丁度そのタイミングでガラガラと一台の荷台が門の前に到着して、門の中に通る為の手続きなどを行い始めた。


 門番とやり取りしているのは商人のような見た目の男で、親しみやすい笑みを浮かべていて人の良さそうな様子であるが、その笑みを何処となく胡散臭く感じてしまう。


 そして、その後も何事もなく商人風の男が受け答えをして、軽く馬車の中を見せた後に問題がなかったのか……。門番は脇にどいてそのまま荷台を中に入れようとしている。



 すると、それを横目で見ていたカザリが何か言いたげにハジメの服の袖を引いて、コショコショと小声で何かを話し掛ける。


 一瞬不思議そうにしていたハジメたが、彼女の話を最後まで聞き終えると、カザリを連れて門の前まで歩いて行き、中に入ろうとして商人風の男に対して声を掛ける。



「なぁ、あんた。ちょっと後ろの荷台の中身見せてくれないか?俺達の持ち物があるかもしれないんだ。あんたを疑う訳じゃないが少しだけ時間をくれないか?

 ここに来るまで声を掛けて探し回ってるくらい大事な物が多くてな。丁度この後にでも、門番さんにも伝えようと連れとさっきまで話していた所なんだ。」


「……えっ?さ、探し物ですか?そ、それならば私に聞かなくても、先に衛兵や詰所を尋ねられては?わ、私は急ぎの用事があるので、少々遠慮してもらいたいのですが……。」


「いやいや、本当に申し訳ないが大切な物が多く盗られたんだ。ほんの少しの時間だけでもいいから見せて欲しい。まさかとは思うがが荷台に積まれてる訳ないだろ?」


「ぐっ、そ、そもそもの話、私はあなた達と会った事はないのだ!それなのにあなた達の荷物が私の所にある訳あるまい!さっきから何なのだ!言い掛かりはやめて貰いたい!」



 そして、商人風の男はハジメに対して酷く苛立った様子で怒鳴り付けると、彼の言葉を聞かずにそのまま街の中に入ろうとする。


 このままでは男が街に入ってしまうと思われたが、それまで黙って二人のやり取りを聞いていた門番が商人風の男に声を掛ける。



「いやぁ、エルダーさん。大変申し訳ないですがここはお願いしますよ。彼らはさっきかなり大切な物を無くしたようなので……。ここはパパッと中身を少し見せるだけお願いします。」


「なっ!?何を言っているんだ!私は奴らの持ち物など知らないと言っているだろう!?それなのにわざわざこの者の為に私の貴重な時間を割かなければいけないと言うのか?」


「勿論、エルダーさんがお忙しいのは重中承知なのですが、この後彼らがあちこち探し回ってもあれですし、ここは少しだけお時間お願いしますよ。それとも……。本当に彼らが言うようなを乗せているなんて事はありませんよね?エルダーさん?」


「う、うぐ……。そんな横暴……。あっ!」


「あれ?何で女の子がこんな所に?それに手や足までも縛られてて……。あんたただの商人かと思ったけど、まさか奴隷でも売買してるのか?それもこんな縛りつけるような形でって事は強引にでもしてるのか?」


「「なっ!!?」」



 その後、慌てて荷台の中を確認した門番が紐で縛られている少女を確認して、その場ですぐに商人風の男が門番から拘束されたのは言うまでも無いだろう……。

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