第19話 理解不能

 さて。そんなこんなで、俺はヨシュアをパートナーとして同伴し、王太子主催の茶会に出席する事とあいなった。そこまではいいのだが。まさかそれが、予想しようもないこんなトラブルに発展するなんて……。十中八九嫌がらせはされるだろうし、ヨシュアはそれを回避しようとするだろうとは思っていたが、いざ直面した問題はそんな心構えからの予想すら超越する、想定すらできないものだった。


「糞っ、イーライめ……。こんな形で私をコケにするとは、なんて可愛げがないんだ……!」


 王太子の茶会開始の挨拶も終わり、ただ今歓談タイムの真っ最中。参加者達は銘々に指定で案内された席に着いて、同じテーブルの相手と和やかに談笑している。しかし、穏やかな周囲の空気とは裏腹に、現在俺がついているテーブルの空気は最悪である。その理由は言うまでもない。当然の如く、我儘ボーイ、ジュレマイア王太子が原因だ。


 俺のパートナーとして同じテーブルに座るヨシュアも、ニコニコと表向きは人好きのする微笑を浮かべてはいるが、ここ最近彼と共に過ごす事の多かった俺には分かる。笑顔の裏でヨシュアが、王太子に対する罵詈雑言を心中で並べ立てている事が。きっとその出来のいい頭にインプットされている語彙をふんだんに使って、王太子がどれだけ愚かしく浅慮なのか言い連ねているに違いない。


 ヨシュアがそうなってしまうのも分かる。だって、王太子がさっき俺達に対して取ったあの態度。あれを見たら普段から王太子を扱き下ろしているヨシュアの事だ。流石に表在化はさせずとも腹を立てて、頭の中が口には出さない悪口で溢れ返るのも当然だろう。


 というのも、全ての話は王太子の意味不明な行動から始まる。王太子はやはり俺に対する嫌がらせのようなものを計画していたらしいのだが……。それが向こうの想定通りではなく、何だかおかしな事になってしまったのだ。


 どういう事かと言うと、王太子は自分が今回の茶会にはパートナー同伴必須と明記していたのに、主催者でありその事を重々承知している彼自身が何故かパートナーを伴わずに現れやがったのだ。……は? え、自分でつけた条件すらも忘れる程に馬鹿だったの? マジで?


 これにかこつけて浮気相手の公爵令嬢を俺への当てつけにパートナーとして同伴し現れるくらいは想定していたが、流石にこれは予想外で柄にもなく周囲の事象に興味の薄い俺ですら一瞬狼狽えてしまった。今回の茶会は俺の落ち度をアピールしつつ向こうの浮気相手を公に紹介するまたとないチャンスだったし、てっきりそれを活かして大きい顔されるかと思ってたのに。


 しかし、どうやらそれは俺の杞憂だったらしい。というか、どうやら俺は王太子の能力を高く見積もり過ぎてましたいたみたいだ。王太子は俺が思っていた以上に幼稚な作戦を立ててきたのだ。王太子がいくら馬鹿とはいえ、そこまで思い切りは良くなかったのか、将また流石に未婚の令嬢である浮気相手が醜聞を嫌ったか……。何にせよ、何故王太子はパートナーも連れずに一人で主催した茶会に意気揚々と登場したのか。その理由は、直ぐに判明した。


「なっ、何故貴様がイーライの横に居る!?」

「……はぁ?」


 王太子の発した言葉に、俺もヨシュアもその他招待客も、訳が分からず呆れた声を出すしかない。だって、王太子の言ってる意味が分からなさ過ぎるからな。きっとまた王太子の頭の中は、彼にだけ理解できる超とんでも理論が構築されているんだろう。それこそ、俺達常人には理解しようがない、とんでも理論が。


「何故って……イーライが殿下からいただいた招待状に『パートナー同伴者必須』と書いてあったので、私がそのパートナーに立候補したからというだけの話ですが」


 ふんぞり返りつつ茶会会場に来るや否や、先に到着し遠巻きにする周囲を無視して談笑していた俺とヨシュアに向かって、驚愕の叫び声を上げた殿下。恐らく同伴者必須の茶会に1人で来た俺を惨めだなんだと言って笑ってやる筈が、ヨシュアの登場で宛が外れて騒いんでるんだろう。やれやれ、なんて幼稚な嫌がらせなんだ。まあ、一先ず不興は買えたっぽいしいいか。ヨシュアも巻き込まれてるのは少し業腹だがね。この時はそう思っていた。しかし、実際は。


「わ、私が、イーライのパートナーの筈なのに……!」

「はぁ? 何を仰ってるんですか?」

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