第16話 招待状の仔細

「えーっと、なになに? 王太子主催の茶会の招待状か。呪いも解けたし、時代を担う若者同士、親睦を深めよう……だって? これは、また……。うーん。本当に、俺宛なのか……?」

「ああ、とても残念な事に、宛名はしっかり君の名前だ。そして送り主はあの忌々しい小蝿以下の王太子さ」

「ヨシュア。繰り返すようだけど、あなたは仮にも公爵令息なんだから、言い方に気をつけないと」

「本当の事を言って何が悪いんだ? 実際あいつは執拗くイーライの周りを、それこそ蝿みたいにブンブン彷徨いて、煩わしいったらありゃしない! 王太子っていう立場以外に誇れるところがないのは哀れだと思うが、ならばこそ君へのちんけな嫌がらせを止めて自分の将来の為に勉学に励めばいいのに。それすらしようとしない所からも、器の浅さが伺い知れるね! どうせここには君と私だけで他に人も居ないんだし、君が私を不敬罪で告発するとも思えない。だから、少しくらい文句を言うのは許しておくれよ」


 だからっていつかうっかりとんでもない時にポロッと口走ってしまいかねないから、普段から言わないように心がけといた方がいいと思うのだけれど。まあ、俺とは違って優秀なヨシュアの事だ。そんなうっかりの心配はほぼないのは、認めざるを得ないのだが。何より色々な嫌がらせとしか思えないちょっかいをかけてくる王太子を、ヨシュアは君にストレスをかけたくないからと俺の代わりに対応してくれている。その労力を思えば多少の悪口に一々めくじらを立てる気にもなれず、程々にしろよと言い添えるに留めた。


「それにしても、なんでまた急に茶会の招待状なんか……。一応建前上は王太子婚約者である君が魔物の討伐がなくなって暇になった頃だから、未来の国王夫妻を将来の為に、次代の貴族達や社交界に顔見せをする場って事にするつもりらしいけど……。正直、あの怠け者でろくでなしの王太子が将来の為とは言え、茶会を通じて社交をするなんて面倒事をやるとはおもえない。我が子に甘い国王夫妻も、王太子のサボリを後押しする事はあっても諌めたりはしない筈だ。快気祝いと称して、突拍子もない乱癡気騒ぎをするって言われた方がまだ信じられる。うーん……何だかよからぬ思惑を感じるな」

「若しかして、あれか? 俺が祝勝パーティーで褒美に愛人の要求をして王家に恥をかかせたから、その意趣返しに俺を偽の名目で呼んで、ノコノコ出向いたところをとっ捕まえて公衆の面前で吊し上げをしてやろうって魂胆とかか?」

「あー……。違うと言いたいところだが、まあ残念ながら十中八九そうだろうな。言っちゃ悪いがあの捻くれ者で底意地の悪い、僻み根性丸出しのジュレマイアの考える事だ。そういう禄でもない事態を起こそうとしている可能性が、大いに有り得る。あいつが己のこれまでの行いを猛省し、謝罪の意味も込めて君を歓迎する場を用意するだなんてそんな事、天地がひっくり返っても絶対に有り得ないからな」


 うーむ。悲しいかなそれは俺も同意見なんだよなぁ……。王太子が逆恨み……いやこの場合は公の場で婚約者に愛人を要求されるという恥をかかされた正当な怒りかもしれないが、何にせよその恨みを晴らさんとなにかしらを企んでいるのは確実。思うに呪いに伏せる彼を他所に健康な体で国中を元気で自由に飛び回っていた事に対する、王太子なりの積年の恨みというやつも大いにあるだろう。まあ、それに関しては否定しようもない程に完全に逆恨みだが。何にせよ目下の問題は、王太子が良からぬ何を企んでいるのかという事で……。


「そもそも療養中の相手に体調や予定を伺いもせず、招いてやるんだから有難く思えとあろう事かそのまま書く神経が理解できないな。イーライ、疲れている時に頭の痛くなる話を聞いて疲れたろう。先に寝室に行って休んでいるといい。俺は代わりに断りの返事を書いてから、頭痛薬を用意して直ぐそっちに持っていくから」


 王太子に対しては忌々しげな顰めっ面を、俺に対しては優しい天使のような笑みを浮かべて、ヨシュアは俺に微笑みを向けてくる。きっとヨシュアは俺が彼の言葉に従い、大人しく療養に専念して彼に守られてくれるとでも思っているのだろう。まあ確かに、それがここまでの流れから考えられる、一番自然で合理的な反応というものだ。……しかし、事はヨシュアの期待通りには進まなかった。


「は? 何を言ってるんだ、俺はその茶会に行くつもりだぞ?」

「はぁ!?」

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