第3話

別れを選んだ2人は当然互いのことを忘れようとする。


柚葉ももちろん、晃のことを忘れようとするのである。



忘れようと思っていた。




しかし、ある日突然女友達から連絡が入る。



『久しぶり!元気?』



と。



柚葉は、


『元気だよ!そっちは?』


と返す。



『まあまあかな?ところで彼氏と別れたんだって?』



なぜだろう?

女性の耳に入るのは早い!



『うん、別れた』


『なんでよ?』


『ちょっといろいろあって!まあ性格の不一致だったのかな?』


『なるほど!まあさー、人生いろいろあるよ』


『だね!』



とテンポよく慰めてくれる友達に感謝しつつ、柚葉は『別れ』たことを実感するのであった。



ある日、ふと柚葉自身がウィンドウガラスに映った。



「あれ?こんなに痩せていたっけ?」


と思わず口から溢れた。



気づけば晃と別れてからろくに食事も摂らないでいた。



水分は摂っていたが、食事は喉を通らなかった。



『本当に好きだったんだな』

と心からそう思った。



2年と言う月日にいろいろなことがあった。



それは付き合っていたらみんないろいろあるだろう。



でも柚葉にとって晃はかけがえのない存在であった。




食事をちゃんと摂らなかったらやつれていくのも無理はない。




食べ物を食べることを考えられないほど私は傷ついていますと言うつもりはない。




今日この時間だってどこかで恋人が付き合い始めて どこかのカップルが別れを経験してる



恋人同士はほとんどがそういうものなのであろう。



出会いには『運命』を感じても別れに『必然性』を感じる人は少ない。



いや、いないだろう。



別れることはなるべくなら避けたい。

別れる道を選ばないでいたいと思うのが人だろう




しかし、残念ながら別れを選ばざるを得なかった2人もいるのである。




そろそろ吹っ切らなきゃな!と思った矢先…




聞き覚えのあるワードを耳にすることになる。


それは方言でも言い方の癖でもない。


晃がよく使っていた『ある言葉』



地域性のある方言ならまだしも、かと言って標準語とされる言葉でもない。



普段なら耳にすることはないであろう

しかし、なぜだろう?



急に暖かい気持ちになったのは



過去が手招きしているようであった。



忘れようと思ったところへ晃がよく使っていたワードを耳にする。



聞き間違いでもないだろう?

いや、聞き間違いでもいい。



この瞬間から柚葉の心の奥深くに眠らせようとした晃への想いが溢れ出し始めるのである。



人は何かを想い出にする時、遠い過去へと記憶を沈める。



柚葉もそうしようと思った。

でも完全に気持ちが蘇ってしまった。





数日後…



柚葉はふとした瞬間に晃のことを忘れようとしたのである。



そうするとどうだろう?


友達から連絡がきた。



『ちょっとご無沙汰!あれからどう?』


『まあ、元気かな?』




友達からの返信に柚葉は思わず声が出る



「あ!」




その文面には晃がよく使っていた言葉が書いてあったのである。




恐る恐る柚葉は


『ねえー、そのワードよく使うの?』



と聞いた。



『何が?私何も送ってないよ?』




怖い話がしたいわけじゃない。


夏だから怪談がしたいわけじゃない


が!


背筋が凍った。



柚葉にはちゃんと届いたメッセージを友達は送ってないと言う。



『嘘はやめてよー』

と柚葉たまらず送り返す。



『嘘ついてどうすんのよ?』


と当たり前のことが返ってくる。




「晃に何かあったのかな?」



でも連絡する手段がない。

別れた時に連絡先をお互いに消した。



こんなにも忘れようとするといろいろあるものなのか?



柚葉はそれ以来、なぜか晃の安否を心配するようになる。



忘れようと思うとあの言葉が返ってくる。



「私は晃を忘れちゃいけないの?」


と自分自身に問うてみる。




答えが返ってくるはずもなかった。



そして、着信が入る。




「もしもし?」

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